8 放浪|(たび)の始まり~光の巨人の伝説4~
4.光の巨人の伝説4
ジリジリと刺すような殺気が肌を焼く。
ベリアルの周りに群がる狼達が、此方に飛び掛かってくる。
それを、私は浮かせた魔剣で凪ぎ払い、ベリアルとの障害物を取り除く。
だが、此方の動きを見越してか、ベリアルは、狼を隠れ蓑にして接敵してきた。
ベリアルの強力な一撃が、私達の集団を襲う。
カイル君が、私とベリアルの間に割って入る。
「やるじゃねぇか、小僧。」
「好きな子護ってこその、漢だろ?」
「気に入ったぜ?小僧。名前は?」
「別に気に入られたくは無いけどな。カイル・オニッツだ。」
小声でそんな事をしゃべたているとはいざ知らず。
私は、庇ってくれたカイル君に感謝しつつ、ベリアルを手数で押して行く。
それでも、相手に攻撃させてはいけない、という本能的な危機感が私を苛み、許さない。
おねえ様の後押しを受けて、更に斬り込む。
クレアータ特有の速さを使い、どんどん斬り込む。
だが、ベリアルも速かった。
同じように、スピードアップし、対応してくる。
私は、已む無く一度止まる事にした。
急に斬り込むの止めたが、それをも見計らって、ベリアルは更なる攻撃を加えてきた。
カイル君が、又も、その身で庇ってくれた。しかも、カウンターでの反撃付きだった。
カイル君の反撃は凄まじく、壁をも削り、穴を穿った。
「ぐわぁっ!」
ベリアルは、カイル君の反撃に吹き飛んだ。そして、カイル君の穿った穴へと落ちていった。
ドプン。
と、重いものが水面に沈む音がした。
急いで確認に向かったが、ベリアルの姿はそこには無く、キラキラと輝く《神々の欠片》が空へと昇って行くのが見えた。
後にはただ、深く、暗い地底湖が、その水面を揺らめかせているのだった。
何はともあれ、私達は、魔神ベリアルを、倒せたのだ。
だが、喜んでばかりもいられない。
何故なら、度重なるベリアルの攻撃を、極限まで耐えた、カイル君の身体は、満身創痍だったのだ。
マリウス君が急いでカイル君の手当をする。神官のみ伝わる秘薬エリクシールを使い、何とかカイル君は一命をとりとめた。
こうして、無事に光の巨人を祀っている集落へ戻ることが出来た私達。
周辺の平穏を取り戻した事を報告し、その日は祝宴となった。
私は、ジュラ君とヴィスさんに報告をしようと捜したが、人混みに紛れてしまったからか、彼らの姿は見えなかった。
それどころか、誰に聞いても、彼らの事を覚えている人は居なかった。
不思議な事は続く。
光の巨人様像が、姿を消したのである。
それについて、面白い話を聞いた。
何でも、この先には、更に北へ向かうための唯一の道がある。その道は、黄泉に続く洞窟となり、光の巨人様像が無くなった時には、決して近付いてはいけない、と伝承に残っているそうなのである。
おねえ様の魔導書は告げる。
私達の行くべき先を。
それは勿論、この話題に上った、件の洞窟を指し示しているのであった。