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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
放浪の始まり
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6  放浪|(たび)の始まり~光の巨人の伝説2~

4.光の巨人の伝説 2






「有難いねぇ。有難いねぇ。これも光の巨人様の思し召しだろうねぇ。」


 そう呟きながら、何やら天を仰いで感謝を捧げる少年と老人。

 それを見て、改めて話を聞くタイミングをはかる私。

 更にその様子を見て、話題を切り出すおねえ様。


「そろそろ、お話を伺っても宜しいかしら?まず、貴殿方は何方なのかしら?ああ、聞いたかも知れないけれども、わたくし達は旅の途中の者ですわ。わたくしはエリスティーファ・ラスティン。この子、トリスティーファの保護者になりますの。」


 それから順に自己紹介が始まった。


「アリス・トートスだ。アリでいい。」


「俺は、カイル・オニッツ。宜しくな。」


「僕はマリウスって言います。宜しく。」


 ポロロンとリュートを奏でるマリウス君。

 ほっとした様子で元気よく、少年が挨拶してくれた。


「おいら、いや、僕はジュラ。猟師見習い!」


 老人が、深々と頭を下げながら自己紹介をした。


「丁寧なご紹介、ありがとうございます。ワシは、この付近で猟師を営んどります、ヴィスと申します。ジュラはワシの孫にあたります。足を挫いてしまいましての、嵐の前に夜営の準備をしようとしとった所、狼に襲われましてな。そこをお嬢ちゃんに助けられたんじゃ。いやあ、胆が冷えましたなぁ。でも、こうして命を救って頂き、養生までさせて戴いとる。これぞ、光の巨人様のお導きに違いない、と、感謝をしとるところですわい。」


 ヴィスさんの口の廻る事廻る事。唖然としながら話を聞いていた私だったが、とても気になる単語に行き当たり、遂に黙って居られなくなった。

「あのっ!」


 ビシッと手をあげて、質問っ!のポーズを取る。


「何じゃい?お嬢ちゃん。」


「『光の巨人様』って何ですか?」


 すかさず、質問した。さっきから何度も繰り返される、この多分神様の事が気になって仕方無かったのだ。ヴィスさんとジュラ君が、あまりにも熱心に感謝を捧げているし、此処に着くまでにも、話題に出ていたから。


 ヴィスさんが何か言う前に、ジュラ君が、興奮しながら語ってくれた。


「『光の巨人様』を知らないの?姉ちゃん達。」


「ああ。この土地は初めてだからな。色々教えて欲しい。」



「じゃあ、教えたげるね?光の巨人様は、ここらの村の守り神様なんだ。世界が絶望の闇に閉ざされる時に、人々の希望の光を糧にして闇を祓ってくれるんだよ!で、その光の巨人様を奉っているのが、この岩山なんだ!晴れていると、巨人様が大地を見守ってくれているのがわかるんだよ?だからね、僕、ホントはお祈りに飛び出したの。じいちゃんに見つかって、姉ちゃんが助けてくれなかったら、お祈り出来なかったけどね。」



「ん?聞き捨てならない事を言いましたね?近隣の村は、光の巨人様の力を必要とする事態に追い込まれている何かが起きているのですか?」



「これっ!ジュラ。旅の御方々を困らせる様なことを言うんじゃないわい。すみませんなぁ。皆さん。孫が失言をしてしもうて。」



「いいんですよ。何でもお話しください。余所者だからこそ、気軽に漏らせる、そう言うこともおありでしょう?」


 おねえ様の間の手に、ヴィスさんは観念したように、


「隠し事は、できそうにありませんなぁ。」


と呟くと、近隣の勢力情勢を語りだした。


 ヴィスさんの話は続く。


「ここら一帯は、元々各集落が猟などしながら、各々で生活しておりましてな。もちろん、婚礼等の特別な催しの際には協力しながら、大きな争いも無く、穏やかな交流を交わしておりました。…そんな、独立独歩の気質の強い土地柄だったんですがのう…。」


 ふぅ。

 と一息吐いた時、ジュラ君が引き継いだ。



「でもね、2ヶ月くらい前から、ちょっと様子がおかしくなって来たんだ。父ちゃんや爺ちゃん達が、他の集落の子達と遊んじゃいけないっていうんだ。変だろ?今まで、そんな事言わなかったのに!だから、こっそり隣の集落の友達に会いに行こうとしたんだ。そしたらさ、いつもより沢山の狼が居て、近付けなかったんだよ。」



「そうなんじゃよ。ジュラ達が危なくない様に秘密にしとったがのう…狼 の集団に囲まれたり、盗賊が出ましてな。そして、それが元で、潰された集落があるんじゃがな。それも、一つや二つじゃきかんのですじゃ。こんな事はとても女子供に聞かせられんと、ワシら男衆で何とか出来んもんかと相談しとったんじゃが…。正体の分からないもんに一つずつ集落を潰される恐怖に、途方に暮れとるんですわ。」



 そこまで聞いていたおねえ様が、口を挟んだ。


「妙ですわね?もしや、何者かに脅迫されていたりはいたしませんの?」


「そうだな。何者かの意図を感じるな。」



 アリ君も、違和感がある事を告げた。


 私は、展開に付いていけずに目が点になった。


「おねえ様やアリ君は、どうしてそう思うんですか?」



「ヴィスさんの話しぶりから、ですが、誰かが、何かの意図をもって、集団を撹乱する時特有の陰謀の匂いがするからですわ。」



「話を聞く限りだが、集落を囲む狼の統制が取れ過ぎているからだ。狼と盗賊の連携も気になるところではあるが。」



「凄いですね。会話の中からそんなにも情報を掴めるなんて。話を聞いていても、私なんかは、何かしら悪い予感を感じるっていうくらいですよ。しかも、何と言うかこう、不穏なモノを感じる、と言いますか…。おねえ様やアリ君みたいに具体的には分からないですよ。」



 私が感想を述べると、ジュラ君が続けて言った。


「うん。トリス姉ちゃん。僕も不気味だなって思ったの。大人達が皆暗い顔して、ピリピリしててさ。だから、光の巨人様にお祈りしようと思って、こっそり抜け出したんだ!だけどね!爺ちゃんに見つかって、狼に囲まれて。絶体絶命って時に、トリス姉ちゃんに助けて貰えて。しかも、姉ちゃん達が光の巨人様の真下にベースキャンプを張ってて、びっくりしたんだ!!光の巨人様のお導きだって!!」


 ふぅ。


 と、また溜め息を吐いて、ヴィスさんが意を決した様に告げた。



「ワシも、貴殿方がこのタイミングで、光の巨人様の真下にキャンプを張っていたり、どうやら戦闘力もありそうな様子を見るに、何かしらのお導きを感じますんじゃ。じゃから、これをお見せします。」



 そう言って、ヴィスさんがごそごそと懐から取り出したのは二枚の紙だった。


 一枚目には、


《満月から3日後までに服従を示さない場合は、集落を壊滅させる。よい返事を期待している。返事は使いの狼に持たせろ。》


と言った内容の血文字で書かれた文が。


 二枚目には、この辺りの地図で、潰された集落には赤×印、脅迫文の届いた集落には青△印、まだ脅迫文が届いていない集落には氏族名が書かれていた。



「一枚目が、今日ワシらの集落に届いた脅迫文ですじゃ。二枚目は、各集落の地図で、現在のおおよその状況ですじゃ。あまり、正確では無いかもしれんのじゃが…。どうか、助けては貰えんじゃろうか?」


 アリ君が、


「今回の旅のリーダーはトリス、お前だ。お前がやりたい事に付き合ってやる。どうしたい?」


と、迷うであろう私の先回りをして、背中を押してくれた。

 皆が注目している。

私は告げた。


「取り敢えず、この謎の組織のリーダーと接触して、先ずは諦めて貰えないかお話し合いがしたいですね。ジュラ君達を助けるのは、大前提として。妥協点が見つかれば、お互いに幸せになれると思うんです。」


 私の言葉を聞いて、カイル君が言った。


「決まりだな♪満月は今夜だから、それまでに行動開始だ。取り敢えず、それまでにアリとエリスさんが作戦を練ってくれるだろうから、準備をてつだおうぜ♪」




 こうして、私達の行動方針は決定した。

 だが、この時はまだ、私は知らなかった。

 これから待ち受ける、非道な相手の事を。

 相容れない相手がいるという、哀しい現実を。






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