5 放浪|(たび)の始まり~光の巨人の伝説1~
よろしくお願いします。
5.光の巨人の伝説 1
サクサク、サクサク。
雪原を黙々と歩く。
点々と残す、真新しい足跡に、私は楽しくなる。
時々吹く風が、横凪ぎに雪を運んで来る。
アミョアさんの集落から3日。人気の無い道らしき場所を進む。
此処では、人の気配は薄いが、私には、その分、自然に根付く動植物の逞しい生命力を感じる事が出来る。
そうして、人気が無くなるにつれ、強まる自然の気配に、私のテンションは上がって行く。
ただ、それは私だけらしく、アリ君やカイル君は互いに冗談を飛ばし合い、おねえ様とマリウス君は歌を口ずさみながらの行軍を続けていた。
「今日の寝床は、この岩影にしましょう。大きな岩ですし、雪避けにぴったりだと思います。」
日が中天に近づいた頃、大きな岩(?)が雪像の様になっている場所を見つけた。
「そうだな。そろそろ歩くのも限界だし、ベースキャンプを創るのも時間が居るしな。」
「俺らでテントを張るから、他宜しく。」
「では、僕はエリスさんと火興しを担当します。」
「じゃあ、トリスちゃん、食糧と毛皮の確保を御願いできるかしら?」
「勿論です。向こうに鹿の縄張りが有るみたいだから、追ってみますね。兎も要りますか?」
「獲れる時に、獲っておきましょう。何があるか分かりませんもの。幸い、腐りはしないでしょうし。」
「薪になりそうな木も探して来ますね。」
そうして、私は狩りに出た。
私達がベースキャンプに選んだ岩場は、遠くから見ると、どことなく、人が仁王立ちしている様に見えた。
その為、目印としてはとても目立ち、私は道に迷う不安も無く、安心して狩りに集中する事が出来たのである。
本日の私の狩りの成果は、大きな雄鹿1頭、よく太った兎5羽だった。
途中で、よく乾いた倒木があったので、其れを橇代わりに獲物を運んだ。流石に鳥は捕まえられなかった。
だが、これだけの獲物があれば、暫くは持つだろう。
即席の橇だが、なかなか滑りがよく、これなら時間も掛けずに帰れそうだな、などと思いながらの帰り道。
ホクホクしながら、雪の上を歩いていると、人と狼の匂いがした。
(現地の人がいるのかも!貴重な情報源だわ!)
急いで、匂いを辿ると、足を怪我して動けないマタギのお爺さんと、狼からお爺さんを守ろうと弓をつがえる少年が、いた。
少年の力では、狼の群れの撃退は無理だと悟った私は、彼らの間に割り込む事にした。
そして、殺気と共に、
『ガウッ!!!』
(立ち去らないと、群れ毎喰うぞ!去れ!!)
と、気迫を込めて吠え、その意志を狼達に伝えた。
私との実力の差を感じた彼らは、一様に尻尾を股の下に丸めて、塒へと去って行った。
「大丈夫ですか?お二方。」
私が声を掛けると、警戒を解かずに、少年が言った。
「お前、盗賊か?俺らを助ける振りして、あいつらの仲間なんじゃ無いだろうな!」
すると、お爺さんが、
「これ坊主。恩人に下手な事を言うもんじゃない。すまないなぁ。お嬢ちゃん。助けてくれてありがとうよ。」
少年を嗜めつつお礼を言った。
「それだけの威勢があれば、君は大丈夫そうですね。お爺さん、怪我をなさっているようですが、大丈夫ですか?」
私は、ニッコリ笑いながら、話し掛ける。
が、私は、ふと、自己紹介を忘れていた事に気付き、慌てて名乗った。
「ああ、失礼。申し遅れました。私はトリスティーファ・ラスティンと申します。ここより更に北、賢者ロカンドロス様を尋ねて旅をしている者です。」
そこまで話すと、少年はやっと警戒を解いてくれた。
「なぁんだ。旅の人かぁ。じゃあ、あいつらとは関係無いんだね。しかし、こんな辺境によく来たね。こんな時に会えるなんて、光の巨人様に感謝しなくちゃね。ああ、じいちゃんは、ちょっと足を挫いちゃったみたいなんだ。だから僕たち、ここで立ち往生してたんだよ。キャンプを張らなきゃと思ってたら、狼に見つかっちゃったんだ。」
緊張が解けたからか、饒舌に話す少年。
私は彼らを見て、今後の予定を聞いてみる事にした。
何故なら、私の五感は、もうすぐ嵐になる予感をひしひしと感じていたからである。
「処で、もうすぐ天候が荒れそうですが、集落か避難小屋まで歩けそうですか?もし無理そうでしたら、私達のベースキャンプにご一緒しませんか?幸い獲物は沢山獲れたので、もう二人増えても何とかなると思うんですが。」
「何から何まですまんな、お嬢さん。わしも、天候が心配じゃったんじゃが、足がこれでは動けそうもない。孫だけでも、助けては頂けんかね。」
「なっ!じいちゃん、それは無いよ!じいちゃんを見捨てろなんて言わないでくれよう!せっかくキャンプを張らなきゃって思ってたのにっ!」
「お二人とも見捨てませんので、ご安心を。さて、御老人。即席の橇にしている灌木ですが、貴方がたお二人を乗せても進行に差し支えはございません。この辺りの土地柄、情勢などもお聞きしたいので、招かれて頂けると嬉しいです。」
「なんと!それでは…!」
「ええ。情報を対価に、安全を保証します、と云う事です。」
「有難い。光の巨人様に感謝を。」
「光の巨人様に感謝を。」
二人は、この土地独自の宗教であろう神への感謝を呟くと、私が押す灌木という名の橇に跨がり、私達のベースキャンプへと運ばれたのである。
こうして、薪と食糧とお客様を運んで、ベースキャンプにしている岩場(?)に近付いて行くと、少年達に変化があった。
「お嬢ちゃん、もしや、あの光の巨人様の像の辺りにベースキャンプを張っとるのかね?」
恐々尋ねる老人。
「え?そう言う云われのある場所なのですか?あの岩場が、ちょうど良い遮蔽物だと思ったんですが、いけなかったでしょうか?」
心配になる私。
「いや、旅の人には関係無い事だし、仕方無いよ、爺ちゃん。それに、悪人に居付かれるより、困っている旅人さん達の役に立てる方が、光の巨人様もお喜びになるはずだよ!」
「それもそうじゃな。」
私は、二人だけで納得されて、非常にモヤッとした。
「どういう事なのか、その辺りも含めて、私の仲間の所でお話頂けると大変助かります。何か力に為れる事があるかも知れませんし。」
「ああ、配慮が足りなくて済まなかったねぇ。」
「いいんですよ。それよりも、急がないと本格的に吹雪いてきそうです。時間も惜しいですし、急ぎましょう。」
話している間にも、風は強まり、吹き付ける雪も大きさを増してきていた。真っ白な雪景色の中、目立つはずの巨大な人型の岩場(?)※雪が積もってそう見える※ の方角も肉眼では確認し辛くなっていた。
私は、匂いを頼りにベースキャンプを目指すのだった。
凡そ15分後。私は無事にアリ君達の居るベースキャンプへと辿り着いた。
ベースキャンプは、十人が寝れるくらいの広さに、三重にしたテントが張られ、中央では赤々と火が燃えて暖かかった。
これは、以前学園で調べた、北方の移動民族のテント『包』を参考にした、快適な移動式住居である。何故持っているかというと、丁度交流があるとかで、アリ君が、イシュトヴァン王から取り寄せたんだそうだ。
何はともあれ、パサリと入り口を開き、中へ橇ごと入る。
「只今!薪と食糧と現地の方を運んできました♪」
「お帰りなさい、トリスちゃん。待っていたわよ。それにしても大荷物ですわね。お客様も、どうぞ早く中にお入りくださいな。」
おねえ様がいち早く状況を察知して声をかけてくれた。
「すみませんな。助けて頂いた上に、お招きまでして頂いて。」
申し訳なさそうな御老人にアリ君が一言。
「気にするな。じいさん。我々としても、情報はどうしても必要なんだ。」
言外に、アリ君は私が彼らを運んで来た経緯を察した様で、突っ慳貪な物の言い方をした。
…つまり、お互い様だと言いたいらしい。
「先ずは身体を暖めて、一息着こうぜ?薪が切れそうだから、俺が薪割りしとくし。」
そう言ってくれたのがカイル君。
「ありがとうございます。じゃあ、獲物を捌いちゃいますね。」
「わしらも手伝おう。」
「お爺さんは、怪我の手当てが先ですわ。マリウスさん、お願いしますわ。」
怪我をしているのに、率先して動こうとする老人に、やんわりと釘をさし、おねえさまが、マリウス君に指示を出した。
「じゃあ、おいらが手伝うよ。」
「ありがとう。助かります。」
私は少年にお礼を言うと、一緒に肉を捌き始めた。
捌いた傍から、アリ君が料理を作り、おねえ様は飲み物の用意をしていく。
外は激しい吹雪だったが、快適な空間を確保し、私達はゆっくりと情報を 交換することになった。
ありがとうございました。