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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
放浪の始まり
38/151

5  放浪|(たび)の始まり~光の巨人の伝説1~

よろしくお願いします。

5.光の巨人の伝説 1







 サクサク、サクサク。


 雪原を黙々と歩く。

 点々と残す、真新しい足跡に、私は楽しくなる。

 時々吹く風が、横凪ぎに雪を運んで来る。



 アミョアさんの集落から3日。人気の無い道らしき場所を進む。

 此処では、人の気配は薄いが、私には、その分、自然に根付く動植物の逞しい生命力を感じる事が出来る。


 そうして、人気が無くなるにつれ、強まる自然の気配に、私のテンションは上がって行く。


 ただ、それは私だけらしく、アリ君やカイル君は互いに冗談を飛ばし合い、おねえ様とマリウス君は歌を口ずさみながらの行軍を続けていた。



「今日の寝床は、この岩影にしましょう。大きな岩ですし、雪避けにぴったりだと思います。」



 日が中天に近づいた頃、大きな岩(?)が雪像の様になっている場所を見つけた。



「そうだな。そろそろ歩くのも限界だし、ベースキャンプを創るのも時間が居るしな。」



「俺らでテントを張るから、他宜しく。」



「では、僕はエリスさんと火興しを担当します。」



「じゃあ、トリスちゃん、食糧と毛皮の確保を御願いできるかしら?」


「勿論です。向こうに鹿の縄張りが有るみたいだから、追ってみますね。兎も要りますか?」



「獲れる時に、獲っておきましょう。何があるか分かりませんもの。幸い、腐りはしないでしょうし。」



「薪になりそうな木も探して来ますね。」



 そうして、私は狩りに出た。


 私達がベースキャンプに選んだ岩場は、遠くから見ると、どことなく、人が仁王立ちしている様に見えた。

 その為、目印としてはとても目立ち、私は道に迷う不安も無く、安心して狩りに集中する事が出来たのである。






 本日の私の狩りの成果は、大きな雄鹿1頭、よく太った兎5羽だった。

 途中で、よく乾いた倒木があったので、其れを橇代わりに獲物を運んだ。流石に鳥は捕まえられなかった。

 だが、これだけの獲物があれば、暫くは持つだろう。

 即席の橇だが、なかなか滑りがよく、これなら時間も掛けずに帰れそうだな、などと思いながらの帰り道。

 ホクホクしながら、雪の上を歩いていると、人と狼の匂いがした。


(現地の人がいるのかも!貴重な情報源だわ!)


 急いで、匂いを辿ると、足を怪我して動けないマタギのお爺さんと、狼からお爺さんを守ろうと弓をつがえる少年が、いた。

 少年の力では、狼の群れの撃退は無理だと悟った私は、彼らの間に割り込む事にした。

 そして、殺気と共に、


『ガウッ!!!』


(立ち去らないと、群れ毎喰うぞ!去れ!!)


と、気迫を込めて吠え、その意志を狼達に伝えた。

 私との実力の差を感じた彼らは、一様に尻尾を股の下に丸めて、塒へと去って行った。




「大丈夫ですか?お二方。」


 私が声を掛けると、警戒を解かずに、少年が言った。


「お前、盗賊か?俺らを助ける振りして、あいつらの仲間なんじゃ無いだろうな!」


 すると、お爺さんが、


「これ坊主。恩人に下手な事を言うもんじゃない。すまないなぁ。お嬢ちゃん。助けてくれてありがとうよ。」


 少年を嗜めつつお礼を言った。


「それだけの威勢があれば、君は大丈夫そうですね。お爺さん、怪我をなさっているようですが、大丈夫ですか?」


 私は、ニッコリ笑いながら、話し掛ける。

 が、私は、ふと、自己紹介を忘れていた事に気付き、慌てて名乗った。


「ああ、失礼。申し遅れました。私はトリスティーファ・ラスティンと申します。ここより更に北、賢者ロカンドロス様を尋ねて旅をしている者です。」


 そこまで話すと、少年はやっと警戒を解いてくれた。


「なぁんだ。旅の人かぁ。じゃあ、あいつらとは関係無いんだね。しかし、こんな辺境によく来たね。こんな時に会えるなんて、光の巨人様に感謝しなくちゃね。ああ、じいちゃんは、ちょっと足を挫いちゃったみたいなんだ。だから僕たち、ここで立ち往生してたんだよ。キャンプを張らなきゃと思ってたら、狼に見つかっちゃったんだ。」


 緊張が解けたからか、饒舌に話す少年。

 私は彼らを見て、今後の予定を聞いてみる事にした。

 何故なら、私の五感は、もうすぐ嵐になる予感をひしひしと感じていたからである。


「処で、もうすぐ天候が荒れそうですが、集落か避難小屋まで歩けそうですか?もし無理そうでしたら、私達のベースキャンプにご一緒しませんか?幸い獲物は沢山獲れたので、もう二人増えても何とかなると思うんですが。」



「何から何まですまんな、お嬢さん。わしも、天候が心配じゃったんじゃが、足がこれでは動けそうもない。孫だけでも、助けては頂けんかね。」



「なっ!じいちゃん、それは無いよ!じいちゃんを見捨てろなんて言わないでくれよう!せっかくキャンプを張らなきゃって思ってたのにっ!」



「お二人とも見捨てませんので、ご安心を。さて、御老人。即席の橇にしている灌木ですが、貴方がたお二人を乗せても進行に差し支えはございません。この辺りの土地柄、情勢などもお聞きしたいので、招かれて頂けると嬉しいです。」



「なんと!それでは…!」



「ええ。情報を対価に、安全を保証します、と云う事です。」



「有難い。光の巨人様に感謝を。」



「光の巨人様に感謝を。」



 二人は、この土地独自の宗教であろう神への感謝を呟くと、私が押す灌木という名の橇に跨がり、私達のベースキャンプへと運ばれたのである。



 こうして、薪と食糧とお客様を運んで、ベースキャンプにしている岩場(?)に近付いて行くと、少年達に変化があった。



「お嬢ちゃん、もしや、あの光の巨人様の像の辺りにベースキャンプを張っとるのかね?」


 恐々尋ねる老人。


「え?そう言う云われのある場所なのですか?あの岩場が、ちょうど良い遮蔽物だと思ったんですが、いけなかったでしょうか?」


心配になる私。


「いや、旅の人には関係無い事だし、仕方無いよ、爺ちゃん。それに、悪人に居付かれるより、困っている旅人さん達の役に立てる方が、光の巨人様もお喜びになるはずだよ!」


「それもそうじゃな。」


 私は、二人だけで納得されて、非常にモヤッとした。


「どういう事なのか、その辺りも含めて、私の仲間の所でお話頂けると大変助かります。何か力に為れる事があるかも知れませんし。」


「ああ、配慮が足りなくて済まなかったねぇ。」


「いいんですよ。それよりも、急がないと本格的に吹雪いてきそうです。時間も惜しいですし、急ぎましょう。」


 話している間にも、風は強まり、吹き付ける雪も大きさを増してきていた。真っ白な雪景色の中、目立つはずの巨大な人型の岩場(?)※雪が積もってそう見える※ の方角も肉眼では確認し辛くなっていた。

 私は、匂いを頼りにベースキャンプを目指すのだった。




 凡そ15分後。私は無事にアリ君達の居るベースキャンプへと辿り着いた。

 ベースキャンプは、十人が寝れるくらいの広さに、三重にしたテントが張られ、中央では赤々と火が燃えて暖かかった。

 これは、以前学園で調べた、北方の移動民族のテント『包』を参考にした、快適な移動式住居である。何故持っているかというと、丁度交流があるとかで、アリ君が、イシュトヴァン王から取り寄せたんだそうだ。


 何はともあれ、パサリと入り口を開き、中へ橇ごと入る。


「只今!薪と食糧と現地の方を運んできました♪」


「お帰りなさい、トリスちゃん。待っていたわよ。それにしても大荷物ですわね。お客様も、どうぞ早く中にお入りくださいな。」


 おねえ様がいち早く状況を察知して声をかけてくれた。


「すみませんな。助けて頂いた上に、お招きまでして頂いて。」


 申し訳なさそうな御老人にアリ君が一言。


「気にするな。じいさん。我々としても、情報はどうしても必要なんだ。」


 言外に、アリ君は私が彼らを運んで来た経緯を察した様で、突っ慳貪な物の言い方をした。


 …つまり、お互い様だと言いたいらしい。



「先ずは身体を暖めて、一息着こうぜ?薪が切れそうだから、俺が薪割りしとくし。」


 そう言ってくれたのがカイル君。


「ありがとうございます。じゃあ、獲物を捌いちゃいますね。」


「わしらも手伝おう。」


「お爺さんは、怪我の手当てが先ですわ。マリウスさん、お願いしますわ。」


 怪我をしているのに、率先して動こうとする老人に、やんわりと釘をさし、おねえさまが、マリウス君に指示を出した。


「じゃあ、おいらが手伝うよ。」


「ありがとう。助かります。」


 私は少年にお礼を言うと、一緒に肉を捌き始めた。

 捌いた傍から、アリ君が料理を作り、おねえ様は飲み物の用意をしていく。




 外は激しい吹雪だったが、快適な空間を確保し、私達はゆっくりと情報を 交換することになった。





ありがとうございました。

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