4 放浪|(たび)の始まり~北荻(後編)~
うっかり一話目を消してしまったので、書き直しがてら、ちょこちょこ修正してます。間違いなどありましたらお知らせ戴ければ幸いです。
よろしくお願いします。
4.北荻(後編)
おねえ様のお陰で、難なくシュルトマウアー要塞を抜けた私達。
そのまま、豚人の群れの中に入るのかと思いきや、状況はそれを許さなかった。
だか、何かの邪魔が入った訳ではない。私達が全記の書に導かれた先には、確かにあの懐かしのアミョアさんが居た。
居たのだが、彼は、単独だった。
しかも、こそこそと隠れながら、行動していた。
「アミョアさん、お久しぶりです。無事に北の大地に帰れたんですね。おめでとうございます。」
「おお。嬢ちゃんやないか。久しぶりやな。」
周囲を警戒しながら、彼は言った。
「嬢ちゃん、こんな所に何の用や。わいも似たような事しとったさかい、責めたりは出来へんが、ここは豚人の領域やで?」
「あはは。私はですねぇ。ここより更に北の大地に、私の会うべき人が居るらしいんです。アミョアさん、案内を頼めませんか?」
アミョアさんは、ふぅっと溜め息を吐いて、
「安全な道を教えたってもええけどな、条件がある。」
「何ですか?」
「わいを、豚人の王に返り咲かせる手伝いをして欲しいんや。」
「私としては、豚人の王様を辞めて、着いてきて欲しくもあるんですが、そう言うわけにもいかないんですよね?」
「ああ。あかん。わいは、豚人やからな。あいつらを纏めて面倒みたる責任があると思っとる。」
「では、確認なんですが、アミョアさんは、わざわざ無用な争いをシュルトマウアー要塞にけしかけたりしませんよね?」
「今のところは、せぇへんよ。それよりも先にせなならん政策が目白押しやさかいな。軍事力が足らへんうちは、無理やな。それに、争いは消耗しか生まん。」
「そうですか。ところで、アミョアさん。アミョアさんは、王様だったんですよね?何故こんな単独行動をなさっているんですか?」
「聞いてくれるか?」
「ええ。」
「わいな、無事に北の大地に帰れた後、民の為になる政策を実施しとったんや。畑を耕やかしたり、戸籍を作ったり、喧嘩をせぇへんように法律を作ったりやな。なのに、あいつらときたら、突然わいの所に押し掛けてきてやな。武力でわいを追い落として言いおったんや!『力こそ正義だ。力ある者こそ我らを支配するのだ』ってな。わい、サポーターやんか。せやから、あんな力馬鹿に勝てへんかってん。それで、今、追われちょるっちゅう訳や。」
「大変だったのですね。」
私は、彼の話を聞いて、同情した。そして何より、豚人が一時的とはいえ侵攻してこない、という保証が魅力的だった。
だから、くるりと仲間の方に振り返って、
「おねえ様、アリ君、あのですね。私の恩人、アミョアさんのお手伝いをしては駄目でしょうか?いつ侵攻して来るか分からない相手より、話し合いの通じるトップの居る敵の方が、お互いの被害が少ないと思うんです。」
と、説得を試みる事にした。
本当は、アミョアさんが着いて来てくれるのが、一番心強くはあったのだけれど。
「トリス、いいか、トリス。そう言う事はだな。」
アリ君が私の肩をガシッと掴んで、真剣に言った。
「是非ともやろう。いや、やるべきだ。」
「そうよ、トリスちゃん。助けてあげるべきだわ。」
おねえ様も同意してくれた。他の二人も、うんうんと頷いている。
私はアミョアさんににっこり笑って伝えた。
「アミョアさん。仲間の意見も一致しました。是非、お手伝いさせて下さい。」
アミョアさんは、ちょっと意外そうな顔をして、
「すまんな。助かるわ。せやけど、どないすんねや?」
と疑問を口にした。
「そうだな。決闘が良かろう。カイル!お前がアミョアの代理で戦え。」
アリ君が、戦術を練る。
「納得すればそれで良し。あくまで、力に拘ってきたら、やる事は一つだ。」
「「「「「と、言うと?」」」」」
「それでも駄目ならな。こちらも力押しだ。幸い、アミョアのサポート能力の高さは折り紙つきだからな。マリウスの生き物に関する知識の深さや応援は力になりうる。エリスのエルスもいるしな。それに、手数の多いトリス。皆に私が指揮を取れば、大抵何とかなる。」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて、アリ君は続けた。
「という訳で、カイルで様子見の後、向こうさんが力と数で押そうとしたら、何の遠慮も要らない。正当防衛で、力押しだ。」
「でも、話し合いが成立するかも知れないじゃないですか。」
無闇にヒトを傷付けたくない私は、つい意見を口に出していた。アリ君は、私の頭をポンポンと叩きながら、
「まぁ、お前がそう言うのも折り込み済みだ。カイルの前にお前が話してみろ。それで、巧く行けば戦わずに御仕舞いだ。」
と、小さい子供に言い聞かせる様に言い含めた。
(ああ、やっぱり私は妹のポジションなんですね。)
私は、その扱いに、地味にショックを受けたけれど、妙に落ち着いていて、『こんな扱い、他のヒトには絶対にして欲しくない』と、そんな気分にもなっていた。
そんな私の心の内はさておいて。
「それはいい案やな。ほな、それで行こか。よろしゅう頼むな。」
アミョアさんも納得してくれたので、このプランでアミョアさんの王位奪還は決行する事となった。
周囲を豚人の群れに囲まれて、私達は、豚人の王と対峙している。
「正統な王はアミョアさんです。豚人の繁栄の為の統治を行っていたアミョアさんを追い落とすのは、道理に反すると思うんです。どうか、王位を彼に戻しては頂けませんか?」
私は、一際屈強な容姿の豚人の王に言い募る。
「小娘。ここではな。力こそが全てよ。力あるものが王なのだ。」
聞く耳を持たない豚人の王。仕方なく、私は仲間内で決めた方針を口にする。
「では、アミョアさんの代理として、こちらの戦士と戦って頂き、勝った方を新たな王とするのは、如何でしょうか?他人に力を借りれる度量も、強さの内だと思うんです。」
ちっと舌打ちをして、豚人の王は了承した。
「小賢しい。そいつ諸とも、八つ裂きにしてくれるわ!」
カイル君がスラリと剣を抜き放ちつつ、獰猛に笑った。
「ハハハッ。力しかない豚人に殺られるかよっ。さぁ、かかってきな。相手をしてやるよ!」
そうして、カイル君と偽王の戦闘が始まった。
カイル君は、彼からはあまり斬り込んで行かず、偽王に攻撃させている。右に左にと撃ち込まれる斬撃を受け止めていたのだ。一見、相手の剣技に圧されている様に見える戦闘スタイルである。偽王は、それを良い事に
「小僧、受けてばかりでは我には勝てぬぞっ。ほらっそこだっ!」
と、強烈な攻撃を繰り返していく。
じりっ…じりっ…と、カイル君は後退していく。遂には豚人の輪のギリギリの所まで追い込まれた。
ガシッと、カイル君の後ろから、豚人の一人が羽交い締めにした。
ここぞ好機とばかりに、わらわらと群がる豚人達。
偽王は、調子付いて一刀を見舞う。
「ほうら。後が無いぞ、小僧!死ぬが良い!!!!」
と、今度もまた受けるのかとみえたカイル君が、不意にニヤリと笑い、ギラっとその瞳を光らせた。
「もうそろそろ、良いかな。」
カイル君は、蓄積されたダメージをカウンターに込めて、周囲諸とも偽王を凪ぎ払った。
「ぐはっ…」
豚人の偽王は、ガクッと膝を付いた。
「こちらの勝ちです。諦めて、条件を飲んで下さい!」
私は、勝負はついたと思い、言いはなった。
「おのれ…者共、数の暴力というモノを思い知らせてくれる!やれ!!!!」
豚人の偽王は、負けを認めず、アリ君の読み通りの行動に出た。
すかさず、アリ君から、指令が下る。
「聞いたな、皆。全力でやれ!」
アリ君からのゴーサインは、私の意識のリミッターを解除した。
『戦いたくない』という自我から、『剣士としての意識』が目覚める。普段は戦いたくない私だが、一度戦うと決めたら手は抜かない。宙に魔剣を浮かべて、宣言した。
「こうなったからには、お覚悟なさいませ。手加減は致しません。」
「おっし。第二ラウンドだな♪本気で行くぜ!」
カイル君は、頬を伝う血をぺろりと舐めて、戦闘意欲が高まっている様だ。
「出でよ、魔導書に棲まいし精霊よ!篤く我に従え!」
おねえ様が、自身の僕たる精霊を喚び出した。
「わいの統治を望む者に、我が神※魔神カース※の加護を!」
アミョアさんの独特な、でも強烈な守護で、体の底から力が充ちる。
「英雄たる戦士に、神の御加護の在らんことを!」
マリウス君のバックアップも加わり、通常よりも沢山動けた私達の攻撃は、数を圧倒するモノだった。
結論から言うと、さほど時間も掛けずに、カイル君の渾身のカウンターで、偽王は倒れ、私の多重広範囲攻撃で、主要な豚人の要を撃破するに至った。
更に、アリ君とおねえさまが予め仕掛けておいた雪玉による雪崩のトラップによって、豚人の数は著しく減ったのである。
こうして、頭を失った豚人の群れは、アミョアさんの統治を受け入れたのだ。
「助かったわ、嬢ちゃん達。またなんや困った際は、力になれるかも知れんな。元気でおってくれたら嬉しいわ。ああ、暫くは人間どもと敵対もせぇへん予定やさかい、安心しとき。ほな、この先を抜ければ、洞窟がある。わいらの活動エリアはそこまでや。そっから先はよう分からん。すまんなぁ。」
「いいえ。いいんです。案内して戴いて、ありがとうございました。アミョアさんと再開出来て、嬉しかったです。王様業、頑張ってくださいね。」
こうして、私は、内心一緒に行けない事を残念に思いながら、アミョアさんに再びの別れを告げた。
アミョアさんのサポーター能力、惜しいなぁ…と未練がましく思いながら。