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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
放浪の始まり
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3  放浪(たび)の始まり~北荻(前編)~

よろしくお願いします。

3.北荻(前編)







そうして、いよいよ出発の日がやって来た。



「さて、これから北へ向けて出発する訳だが。」


皆を集めて、アリ君が言う。


「こちらが、今回の募集に応じてくれた、勇気あるヒーラーの…」


と、紹介しようとした所、その人は自分から引き継いで話始めた。


「レアなお宝大好きな、神官のミストレスです。宜しくね♪」


 マテラ族らしい容姿の、私と大差ない身長をした女性だった。

 私も負けじと自己紹介をする。


「私は、トリスティーファ・ラスティンと言います。今回は私の我が儘で未開の地へと向かう事になりました。宜しくお願い致します。」


「なるほどぉ。トリィだね♪宜しく宜しく!」



 続けて他のメンバーも自己紹介する。


「この子の保護者の、エリスティーファ・ラスティンよ。」


「エリィだね♪」


「アリス・トートスだ。アリでいい。」


「アリ君かぁ。面白い愛称を思い付かないなぁ。まぁいいか。」


「カイル・オニッツだ。」


「おお。君のお父さんとは昔よく冒険させてもらったよ♪愛称が被っちゃうといけないから、君はカイル君だね♪」


 …。彼女は、私達を独特な渾名で呼ぶことにしたらしい。


「え?親父と?じゃあ、あんた…もがっ」


 おねえ様が急いでカイル君の口を鬱ぐ。


「いけませんわ。カイル君。女性に年齢は禁句ですわよ!」




 そんな調子で、私達のパーティーが結成された。

 北までは、辻馬車で行く事になり、まずまずの出だしになる予定だった。



 実際、シュルトマウアー要塞までは、何事もなく、のんびりとした旅程だったのだ。ただ、ある町で、私が体調を崩し、1週間ほど動けなくなる、というトラブルがあるにはあったのだが。



 私が熱で寝込んでいる間に、皆は思い思いに過ごしていた。

 特筆すべきはカイル君である。

 カイル君は、旅の安全を確保すべく、一人先行して、シュルトマウアー要塞の様子を見に行っていた様なのだ。

 彼は自分の機巧馬を持っているので、とても機動力が高い。だから、当然の選択だったのだと私は考える。


 5日程で戻って来たので、私は退屈を紛らわせる為に、話をせがんだ。


「カイル君、シュルトマウアー要塞は、どんな所なのですか?アミョアさんはシュルトマウアー要塞の向こうに行ってしまったのですよね?どんな土地柄か、非常に興味があります。教えてくださいよ。」


 今回の旅に備えて、アリ君が揃えてくれた地図を広げながら、聞いてみる。わくわくしつつ回答を待っていると、カイルは何だか蛇に睨まれたカエルみたいにダラダラと汗を流し始めた。


「?どうしました?顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」


 カイル君は何かを誤魔化す様に、乾いた笑いを漏らした。


「ハハハっ。ナンデモナイヨ?トリス、その地図、古いんじゃないかな。」


「出発前に私が新調した最新版だが?」


 アリ君が何か文句あるのか、と、すかさず指摘する。

 さて、私の熱も退き、体調も整えたので、私達一行はいよいよシュルトマウアー要塞に出向いた。

 事前にカイル君に聞いていた通り、シュルトマウアー要塞は、地図とは違った赴きに変わっていた。

 …ジグザグしているのだ。


 しかも、地面は新たに地表に出たとおぼしき新しい所と、無理やり載っかったと感じるくらい不自然な所にはっきり別れていた。

 明らかに超自然的な力が働いている。



「護りやすそうだな。」


アリ君がカイル君に言った。


「ハハハ…。ソウダネ…。」


カイル君は気まずそうにしていた。



 そんな中もう一人、気まずそうにしている人物が居た。ミストレスさんである。

 ミストレスさんは、皆を集めて、話始めた。


「トリィ、皆、ごめん!私は新しいクエストに呼ばれて、此処までしか一緒に行け無いんだ!」


 期待のヒーラー(神官)の突然の告白に、一同唖然とした。

 ミストレスさんは続けた。


「それでね。代わりと言っては何なんだけど、新しいヒーラーさんを見繕って来たんだよ。それで許してね?じゃあ!」



 ずずぃっと、一人の品の良さそうな青年を私達の方へと押しやると、ミストレスさんは脱兎の如く走り去って行った。


 青年も、唖然としていたが、誰よりも早く立ち直り、コホンと咳払いを一つして、自己紹介をしてくれた。


「初めまして。僕、マリウスって言います。吟遊詩人をしています。神官でもあるんで、一応回復も出来るけど、吟遊詩人として英雄譚を求めて旅をしています。こんな僕で良かったら、よろしくお願いします。」


 とても感じの良い青年だった。

 私達はお互いを見回して、頷きあった。


「私は、トリスティーファ・ラスティンと言います。英雄とは程遠いので、唄の題材には向かないかも知れませんが、よろしくお願いいたします。」


 深々とお辞儀をした私に続いて、


「わたくしは、トリスの保護者のエリスティーファ・ラスティンと申します。どうぞよろしくお願いいたしますわね?」



「アリス・トートスだ。アリでいい。」


「俺は、カイル・オニッツ。よろしくな!」


と、それぞれに自己紹介をして、彼をパーティーに迎え入れた。


「え?いいんですか?僕、ほとんど回復できませんよ?」


「心配するな。マーテルの加護があるだけで十分だ。後は、自分らしく行動してくれれば、どうとでもしてやる。私はそういう軍師だからな。」


 アリ君が、不安そうにしていたマリウス君にそう言って、安心させていた。





「さて、此処で問題が発生する訳だが。」


「え?何ですか?」


「我々北へ向かうよな?」


「ええ。」


「シュルトマウアー要塞を抜けるには、少々問題がある。何故なら、ここから先は北荻がいるから、一般人は立ち入り禁止だ。」



「言われてみれば、そうですわね。どうするんですの?」



「アミョアさんの居る辺りをこっそり抜けましょうよ。確か、彼は北荻の王様です。」



「場所が解れば、移動しやすいんだがな。」


「解りますわよ?知りたいんですの?」


おねえ様はそう聞くと、


『全記の書よ。アミョアへの警護の最も薄い道筋を示せ。』



と、手にした魔導書に語りかけた。


 そのお陰で、私達は安全かつ的確に、アミョアさんのいる北荻の集落へと辿り着けたのである。







ありがとうございました。

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