2 放浪|(たび)の始まり~アリ君の過去~
よろしくお願いします。
2、アリ君の過去
出立するにしても、今すぐに、というわけにはいかないのが、冒険というものである。
話し合いの結果、ヒーラー募集の期間も含め、1週間ほど余裕を取ってからの出発となった。
準備期間中、おねえ様はお父様に引き継ぎと、弟のジャックには両親の手綱の握り方の伝授に奔走していた。
カイル君は、一度実家に戻って、ご両親へ旅の予定を報告に行った。
私は、アリ君の実家に伺う事にした。何故なら、彼宛に手紙が届いていたのだ。アリ君は、何の返事もする気がなさそうだったので、私は、アリ君を連れて、手紙の主、アリ君のお母様にご挨拶に伺う事にしたのだ。
勿論、旅の道連れにする事に対するけじめを着ける為である。
実家に着くとアリ君は、まず、家の跡地に案内してくれた。其処は一面の白い百合の花が咲き乱れている、綺麗な場所だった。
其処で、アリ君は、今回の動機を、ポツリポツリと話してくれた。
「…。以前、話したと思うが、私には、大事な妹が居てな。大事な兄も居たんだが。」
アリ君は、何度も言葉を区切りながら、ゆっくり話す。
「ここに、彼女が眠っている。」
ザアっと、風が吹き抜けた。
「実家に連絡が出来ないのも、兄を打倒したいと思う自分に、引け目を感じるから、なんだが。」
「うん。」
私は、相槌を打って、続きを促す。
「正直に言うと、兄を打倒するためには、イシュトと一緒の方が、奴には真っ当に対峙できると思う。だがな。」
暫くの沈黙の後、
はあ。
と息を吐いて、
「まだ、我々3兄弟が仲良く過ごしていた頃。妹、ルナミスの為に、私は彼女の好きだった白百合を植えてあげたんだ。誕生日にプレゼントとしてな。そしたら妹は喜んでくれたんだが、アレスの奴にな。『馬鹿か貴様は。この花の繁殖力を甘く見おって。どうなっても知らんからな。』と言われたんだ。」
「え?何だか、アレスさんのイメージが違うんだけど。」
「トリスは、どんな風に感じているんだ?」
「え?高飛車で冷酷な人の様にお見受けしますが…。」
「奴は、アレスはな。天才なんだ。しかも、完璧超人。妹が死んだのも、奴のせいではないと、理性では理解しているんだ。だが、感情が納得していなくてな。」
じっと、アリ君は私を見つめて言った。
「だから、お前達が、今回の旅に誘ってくれてな、嬉しかったんだ。後な。母に会いに連れて来てくれた事にも、感謝をしている。」
すぅっと息を吸い込み、彼は続けた。
「だからこそ、きちんとお前に伝えたい。私にとって、お前はな、妹なんだ。ルナミスもお前みたいなところがあってな。どうしても、妹としか見れない。ごめんな。」
こうして、また私はアリ君に振られたのだけれども。真摯に考えてくれている彼に、私はまたも胸を貫かれてしまった。
だから、私も、にっこり笑うと答えた。
「いいんです。妹でも。それでも、貴方の特別なのだったら、嬉しいのです。話してくださって、ありがとうございます。アリ君。」
話が終わり、アリ君のご実家に案内してもらった。アリ君のお母様は、
「まぁまぁ、トリスさんとおっしゃるの。この子達も素直じゃないからねぇ。早く仲直りしちゃえばいいのにと、私は思っているんだけどねぇ。ああ、夕飯を食べて行ってね?アリスがお友達を連れてくるの、珍しいからおばちゃん嬉しいわぁ。」
とマシンガンの様に喋り通し、夕飯を用意してくれた。
その味は、とても懐かしく、優しい味がした。
…まるで、魂が懐かしんでいるかの様に…。
ありがとうございました。