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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
教皇庁と私
31/151

13  教皇庁と私~姉妹~

よろしくお願いします。


13、姉妹




 さて、その頃、カイル君は、というと。

 根性でトリスと歩調を合わせて着いて来ていた。

 ただ、ノノと、その前に現れた謎の女性には警していた。つまり、トリス達から見えない角で立ち止まり、彼女らの会話に耳を澄ましていたのだ。いつでも飛び出して行けるようにタイミングを計りながら。


(トリスの前で彼女を庇いたい所だけど…情報を拾ってからの方がいいって、何だか感じるぜ。ここは、ちょいと様子見だな。)


 そんな事には一切気付いていない私、トリスは、ノノさんの呟きにびっくりして、足を止めた。そして、道の脇に立っていた女性を見た。


「ノノさん、この方とお知り合いですか?」


「ええ。私の姉の…」



と言った所で、件の女性が口を開いた。


「ネネよ。貴女には、ちょっと協力して欲しい事があるの。」


うふふ。


と、艶やかに笑う。


 彼女が目で、ノノさんを見る。と、同時にバチバチッと雷撃が私の身体を貫いた。

 ノノさんに、雷の杖をお見舞いされたらしい。

 崩れ落ちる私の身体を、ノノさんが担ぎ上げた。

 暗くなる視界。闇に落ちそうな思考を必死で保っていると、私の耳に、彼女らの言い争いが届いた。




「じゃあ、ノノ。この『器』に我が主、魔神ボリヴァトス様を降ろして、教皇庁を壊滅させるわよ。生け贄はそうね。この街一つとかどうかしら?」



「ちょっと、お姉さま、話が違うじゃない。私達は、復讐にこの『器』を使うってだけで、教皇庁全ての破壊を目論んでいた訳では無かったわよね?」



「だからあんたは甘いのよ。全て壊滅させてこそ、復讐は完了するの。そうね。そのまま全てを破壊しつくすのもいいわね♪クックックッ。」



 私は、精一杯の気力を振り絞って、何とかその身を動かそうとしながら、足掻いていた。


 尚も話は続く。



「お姉さま、前から脳筋だと思っていましたけど、もう着いて行けませんわ。この『器』は、もっと有効に、私の役に立ってもらいます。お姉さまには渡しませんわ。」



「何ですって!?妹なら大人しく、姉の言いなりになりなさいよっ!」



「出来ないわねっ!」





 余程強い雷撃だった様で、私の身体の麻痺は、まだ解けない。




 だけど、彼女らの言い争いが激化するに連れて、どんどん《神々の欠片》の輝きが増してゆく。


「ノノぉ…仕方無い子ねぇ…あんたも、生け贄におなりなさいな。」



 ネネさんがそう言うと、メキメキと音がした。


 そして、私は手荒く、ネネさんとは反対側に放り出された。



ドサッ、ゴロゴロ…ドン。


 放り出され、転がされ、ようやく背中が壁にぶつかって止まる。

 何とか目を開けると、そこには異形化したネネさんと、《神々の欠片》を輝かせたノノさんが対峙していた。


 目の前で、今にも姉妹喧嘩が始まりそうだった、その時。


「大丈夫か?トリス。」


 私の肩を優しく抱き上げ、姉妹に気づかれない様に介抱してくれる存在がいた。

 カイル君である。

 彼は小声で話ながら、私を物陰へと移動させた。


「どうやら仲間割れっぽいな。ノノさんが敵ってのは意外だったけど、どっちもトリスに害なすなら、俺も容赦はしないよ。」


 何とか小声を出せる迄には回復した私は、カイル君に告げた。


「カイル君、《神々の欠片》が輝いています。私は、極力戦いたくはありません。私達は、彼女らの問題が解決するのを見届けてから対峙しても、遅くはないと思いませんか?」


 血気に逸って姿を現そうとしていたカイル君は、それを聞いて、


「…。トリスの言う通りだな。暫く様子を見よう。トリスの回復もまだまだかかりそうだしね。」


と言って、パチリと私にウィンクした。

 そうして、物陰から二人して戦況を眺めていると。


 姉のネネさん相手だからか、それとも《神々の欠片》が輝いたせいか。ノノさんの、一般人への偽装は、私達からその効果を失わせていた。


「お姉さま。異形に堕ちて、全てを破壊なさるおつもり?手駒としても使えない女に成り下がったのね。」


 侮蔑を込めて、ノノさんが言う。


「ええい。お黙り。強大な力を持ってこそ、我が復讐は成されるのだ。邪魔立てするなら、あんたといえども、贄にしてやるわ!」


 思考が殺戮者そのものになったネネさんには、段々理性はなくなってきていた。その様子を見て、潮時と思ったのだろう。


「仕方無いわね。こうなったら、あんたを滅して、あの『器』を手土産に、あのお方の元に馳せ参じるまでよ。滅してあげるわ。」


 そうして、ビシッとノノさんが指差した先に、彼女らの言うところの、『器』たる私は居なかったわけで…。


「ちょっと、居ないじゃないのっ!っ!こうなったら次善索よ。えいっ!」


 煙幕を投げて、辺りの視界を奪った隙に、彼女は、その場からあっという間に消えてしまっていたのだった。


 ノノさんが突如去ってしまい、怒り心頭のネネさんは、現場にまだある《神々の欠片》の方へと向きを変えた。


「あぁムシャクシャする…。そこのネズミども。コソコソしてないで出ておいでなさいな。ふふふ。じっくり血祭りにしてあげるわ。安心してね?《神々の欠片は》ちゃぁんと有効に利用してあげるから。」


 優しい口調で、怖いことを口走るネネさん。

 その様子を見ながら、自分を『器』扱いしかしなくなった彼女に、理性がなくなった事を悟った私は。彼女を浄化する決意を固めた。

 先程のネネさんとは、明らかに様子が違い、言葉が通じないのが分かってしまったから。


「カイル君、どうしましょう?まだ私、痺れが抜けきってないんですよ。多分、立てはするけど、何時ものスピードは出ないと思います。どうしましょうか?」


(ホントは喋るのも精一杯ですし、気を抜くと、意識が飛びそうですけど…頑張らないと。カイル君一人じゃ、無理だわっ。)


 戦いたくない気持ちを押し殺し、自分の状態を悟られない様に、カイル君に告げる。


「戦う気力はあるんだな。なら、大丈夫だ。俺が守るから。無理しないで守られててくれるか?」


等と、敵前に飛び出して行く相談をしていると、


「こっちっす!こっちから《神々の欠片》の共振を感じるっす!」


という、とても聞き慣れた、期待を裏切らない一行が此方に向かってくる気配を察知した。


そして、


「トリス、無事かっ!」


そう言って駆け付けてくれたアリ君の姿を見た私は。

 アリ君と、彼の率いる軍勢を目にした私は。

 安堵のあまり、フッと、ついに意識を手放した。



 闇に飲まれていく意識の端で、


(アリ君が皆を率いてくれているのなら、もう大丈夫ですね。良かった…。)


と安心して後を託せる仲間の頼もしさを感じながら。









さて、意識の無くなったトリスを守るべく、アリ君の指揮下に入るカイル君。

 アリ君は、ランスロットさん、エステルさん、カイル君、フォルフェクスさんをアタッカーに、ギルデンスサンさん、クレアさんをサポーターにして、存分に指揮を振るったらしい。


 その戦いは、スムーズで、私が目覚めた時には、キレイサッパリ跡形もなく片付いていた。


 戦闘が見れなくて残念だったが、私はこの後、明かされる事実に驚愕する。

 それは、私だけでなく、話を擦り合わせた全員に言える事でもあったのだが。




 私が目を覚ました場所。其処は、例の萎びた教会だった。

 エステルさん達の活動拠点である。

 私が目覚めた時点で、皆で、話し合いをした。

 そうして、今までのそれぞれの経緯を纏めると、以下の様な全容が見えてきた。


1、私ことトリスティーファ・ラスティンを《神の器》としてリークし、入手せんとした相手は、ゲンスルー閣下。

これは、各証言や四天王の動きから明らか。


2、ゲンスルー閣下は、狂っている様である。

これは、ギルデンスサンさんとフォルフェクスさんからの証言。エステルさん達も、この事態の調査をしていたらしい。


3、ゲンスルー閣下とは別に、ノノさんが、何者かの意図で動いているらしい。

これは、ノノさん本人が、『あのお方』なる人物への手土産に、私を持って行こうとしていたので、間違いない。



「問題は、誰が、ノノの言うところの、『あのお方』なのか、だがな…。」



 司会進行役を勤めていたアリ君が言葉を区切った。


「現段階では、不明、としか言えない。推論は立つが、迂闊に決めてかからない方がいい。」



 疑問に思った私は、質問した。


「では、どうしたらいいんですか?」



「端的に言うと、だな。ゲンスルーの下へ殴り込みに行くしかあるまい。」


という、非常にストレートな返答が返ってきた。



「侵入経路が幾つかあるっすから、小隊に別れて、各個撃破しながら進むのがセオリーっすね。魔神も動いているっていう報告もアルヴィン君達から入ってるっす。でも、元ゲンスルー四天王の皆さんも手伝ってくれるみたいっすからね。何とかなるっすよ♪」

 エステルさんが、地図を拡げながら、あっさりした口調で告げた。





どうやら、一大決戦になるみたいである。






立ち回りの巧い人に憧れます。

まず私には出来ない芸当ですが( ̄▽ ̄;)

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