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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
教皇庁と私
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8  教皇庁と私~同窓会~

よろしくお願いします。

8.同窓会




 私が久しぶりに大学に戻ったその夜。

 私以外は皆卒業してしまっていたのに、私の帰還を祝って、同期生達による同窓会が開かれた。

 発起人は、アルヴィン君。

 情報収集する傍ら、同期生に声を懸けてくれたらしい。

 皆、懐かしく思ってくれていたみたいで、かなりの人数が集まった。


 暇をもて余していた、カイル君とフォルフェクスさん、ノイマンさん達も参加していたが。




「じゃあ、同窓会、開始するぞ〜!飲み物持ったかぁ〜!」


 アルヴィン君が皆に声をかける。


「私には、ソフトドリンクをお願いします。」


「ん?トリス、今日は無礼講で少しのアルコールなら見ない振りをする事になってるんだぜ?飲まねぇの?俺は飲むけど。」


 同窓会開催許可書を見ながら、カイル君が言った。


「…。アルコールにはあまりいい思い出がないので、苦手なんです。」


 苦笑いで応える。


「私も、あまりいい思い出は無いなぁ。今日は、アルコールは止めておこう。」


「なんだ。アリもかよ。お前ら何かあったのか?」


 アルヴィン君から、鋭い突っ込みがあった。


「「あはははははは…。」」


 アリ君と私は揃って渇いた笑いを漏らした。


「何モナイデスヨー…。」


 遠い眼をして続ける私だった…。



 ホント、何かあれば良かったんですけどねぇ…。




「皆に飲み物が行き渡った処で、同窓会開始するぞ〜!今回は、久しぶりに戻って来たトリスに乾杯の挨拶をしてもらうぜ!いいよな、みんな!」


「「「イェーイ」」」



「じぁあ、皆さんと再会出来た幸運に、乾杯!」


「「「かんぱ〜い♪」」」



 私の挨拶を皮切りに、あちこちで、雑談が開始される。



 勿論、私の周りでも、レヴィちゃん、クレアさん、リースさんによる、女子トークが開催されていた。


「トリスちゃん、さっきのやり取り、見てたわよ〜!カイル君とアリ君二人も連れて、何か進展があったのかしら♪」


 あからさまに楽しそうなクレアさんに突っ込まれる。


「え?無いですよ?それより、皆さんの方はどうなんですか〜?」


 迂闊に何か話すと、やぶ蛇になってしまうので、周りに水を向けてみた。


「あたしはいつもの通りねぇ…。よりいい男をゲットして、次々魅力のレベルアップをしてるわよ♪」


と、クレアさん。


「ボクもいつもの通りだよ?アルヴィン君と遺跡に潜ったり、アルヴィン君をからかったりしてる。」


と、これも予想通りのリースさん。


 だが、レヴィちゃんが、何だかそわそわしている。


「一番変わったのは、やっぱり、この子よねぇ。ね、リースちゃん。」


「そうだよね。クレアさん。」


 クレアさんとリースさんが二人してにやりと笑った。

 そんな態度に、私の好奇心が刺激される。


「何があったんです?早く教えて下さいよぅ。」



「この子、結婚したのよ。しかも一瞬で愛が芽生えた電撃結婚。」


「更に言うと、相手は、あの、シャイロックのお爺さん。」


「!!!何ですって!?シャイロックさんって、あの、エクセター沿いを牛耳ってた、あの、シャイロックさんですか!!!?」


 思わず、二人に聞いた。


「そう。あの、シャイロックさん。しかも、好い人というか、大物に化けたわよ。あのお爺さん。理解者を得て、活力に満ち満ちているの。レヴィちゃんの愛の力で。」


 うりうりと肘でレヴィちゃんを突つきながら、クレアんが説明してくれた。



 何でも、親が勝手に富豪のお爺さんとの縁談を纏めあげてしまい、レヴィちゃんは、それに異を唱えもせず従った。その相手が、シャイロックさんで、一対一で対面し、その経営手腕や行動原理に、お二人はいたく共鳴するモノを感じたんだそうな。



「おめでとうございます、レヴィちゃん。びっくりしました。どんな方なんですか?」


「ありがとうございます、トリスさん。旦那様は、素晴らしい方ですわ。わたくしは、この方のお力になりたいんですの。」


 顔を赤らめて、レヴィちゃんはのろけにのろけた。そのマシンガントークは止まらず、それからしばらく、解放して貰えなかった。




 同窓会では、いろんな人と話をした。

 船乗りのカメロン船長と、同じく船乗りのジェラート船長は、留学生として、一時机を共にした仲である。

 でも、私が旅に出てから、あちこちに船旅に付き合ってくれるようになってからの方が、この方々との付き合いは深い。

 実は、ケルバーからの帰り道も、ジェラート船長にお世話になっている。

 アミョアさんが豚人であっても、文句も言わず、むしろ面白がって運んでくれた。

有難い人材なのである。


 久しぶりに話をしたら、このお二人も、夫婦になっていた。

 元々、カメロン船長の副官をジェラート副船長がしていたらしいのだが、ふとしたきっかけでくっついた、というのだ。

 カメロン船長は、たしか、妻子持ちだったんじゃないか、と疑問を呈したら、


「そうじゃ。じゃから、わしは、カメロンの第二夫人じゃの。」


と、からから笑いながら教えてくれた。


 何事も、昔のままではないのだなぁ、と痛感したひとこまだった。



 弥都からは、刀十郎さんが来ていた。

 斜刀術の使い勝手の良さを絶賛すると、嬉しそうだった。

 残念ながら、スサノオ君は、諸事情で来れないという連絡があったそうだ。


 残念である。










♪パンパカパーン♪



 賑やかなファンファーレが鳴り響いた。


「これから、『ラ・モール』オーナー謹製のスイーツを贅沢に使用した、大食い大会をはじめるぜっ♪我こそはと云うものは、集合〜!」


 よく響く、アルヴィン君の声で、イベントの開催が告げられた。


「別に参加しなくても、『ラ・モール』オーナー謹製のスイーツは食べれるから、無理して参加しなくても構わないぜ?」


 司会のアルヴィン君はそう説明したが、なかなか今回の同窓会は豪華なものである様だ。

 そもそも、『ラ・モール』とは、ハイデルランドでも3指の指に入る洋食の名店。そのオーナーの作り出す料理の数々は、『至高の一品』とも呼ばれ、人々の心を掴んで放さない美食であると言われている。その分、お値段もそれなりにお高かったりする。

 そんなお店のスイーツを食べ放題なんて、夢の様である。



「私は大食いには興味が無いですね。少しずつ、色々食べたいです。」


 私が言うと、カイル君は、


「おっ、面白そうじゃねぇか。俺、参加してみようかな。トリス、応援よろしくな♪」


にっと笑い、上機嫌で参加を表明した。



「勝負事だとっ!?勿論参加だっ!!」


と、ノイマンさんも参加を表明した。



 他にも何名かの参加があった。

 応援を頼まれた私は、仕方無いなぁと思いながらも、カイル君を応援する事にした。


 私は、お皿に一口大のプチケーキを色々並べ、一つ一つ堪能しながら、見るともなしに眺めていた。

 すると、


「遅れてすまない。」


と、ダァト君が入って来た。彼は、スポーツや各種部活で人外じみた高成績を叩き出していた、ある意味有名人である。



「お久しぶりです、ダァト君。今、大食い大会開始直前ですが、参加してみませんか?」


「トリスか…懐かしいな。イベント参加より、旧交を暖めたいかな。」


 ダァト君は不参加の様である。


 そうこうしていると、ケーキが運ばれてきた。一個目のホールケーキは、生クリームたっぷりのデコレーションケーキ。

 初めから、かなりのボリュームがある。


 カイル君は、美味しそうにパクパクと上品に、ノイマンさんは見た目を裏切らない、ガツガツした食べ方で、一個目のケーキを征していった。

 他の参加者は、ケーキがホールだったこともあり、次々脱落してゆく。

 二個目のケーキ、ガトーショコラのホールケーキに辿り着けたのは、5人にまで減っていた。

 それも、カイル君は美味しそうにパクパクと上品に、スピードそのままで難なく食べきった。

 ノイマンさんは、ややスピードが落ちてきたが、やっぱり完食した。

 他の方々は、惜しくも食べきれなかったようで、脱落していった。


 三個目のホールケーキは、ふんわり軽やかなスフレケーキだった。

 二人は、やっぱり完食した。

 カイル君は、余裕で。

 ノイマンさんは、根性で。

 4個目は、ロールケーキだった。

 ここで、ノイマンさんが、ついにギブアップした。

 カイル君は、まだ余裕で食べており、その後もベリータルト、シフォンケーキ、モンブラン等、10ホールを完食した。

 ぶっちぎりで一位だった。


 私は、彼の何処にその質量が消えたのか、不思議でならなかった。



「やっぱり、『ラ・モール』のオーナーの創るケーキは絶品だよな♪他ではここまで喰えないもんな。」


とは、見ていた私に、カイル君が発した言葉である。




カイル君は、甘党なんですね…。









 賑やかな同窓会も、お酒が入った辺りから、右も左もないような混沌とした場になっていた。

 誰が何をしているかも、把握していないような状況になってきて、周りを気にする人なんて居ない様なそんな中。

 ふと、ある人物が外に出たのを見つけた私は、その場の空気に酔った風を装い、庭に出てみた。

 姿を見かけた時から、一度は余人を交えず、秘密裏に会話を交わしたいと考えていた人物だ。


 そっと後をつけたのだが、その人にはバレていたようだ。


「トリスティーファ・ラスティン。何故着いてくる?」


 漆黒の髪に剥製みたいな顔立ちの美青年、ダァト君である。


「バレていましたか。貴方と二人きりで内密のお話がしたいのですが…都合はつきませんか?」


 恐る恐る、姿を現し、恐々と目線を合わせて話す。蒼い澄んだ夜空を思わせる瞳が、私を捉えた。


「では、こちらで話そう。」


 何でもない事の様に、彼は同意を示し、彼は、彼の持つ領域へと案内する。私は、素直に着いていく。

 扉を開けると、弥都に伝わる茶室を思わせる部屋へと辿り着いた。

 中へ入り、扉を閉めると、時空間が歪む独特の違和感を感じた。



「わざわざ、ありがとうございます。ダァト君。」


「何、私も君には注目していたからな。で、話とは?」


「その前に、ここの情報が外に漏れる心配はありますか?」


 重ねて尋ねると、ダァト君はニヤリと笑い、


「私の領域だからね。その心配は全くないよ。」


と、予想通りの返答をくれた。


「さすが、堕ちたる者、ダァト・ナイアール・アー様ですね。」


「まぁな。それにしても、良く私の正体に気が付いたな。」


 お茶を出してくれながら、ダァト君が言った。

「ダァト君は、名前を隠したりしていませんでしたから。それに、この部屋を創れる所を鑑みても、明白でしょう?」


 有り難くお茶を貰いながら、微笑む。


「それもそうだな。で、君は、私を糾弾しに着たのかい?」


 私など、簡単に消してしまえる、というオーラを漂わせながら言った。


 ダァト君。本名を『ダァト・ナイアール・アー』と言う彼。その正体は『墜ちたる者』と呼ばれる、異世界からの来訪者であり、真教に於いて『魔神』に分類される、元々居た世界では、『創造神』と呼ばれる神様だった方である。因みに、『墜ちたる者』は、強制的に此方の世界に飛ばされて来た方々の通称で、此方から元の世界に戻る術は無い、と言うのが、一般的見解である。…が、彼は、元の世界に帰る術を探して、日夜励んでいる、努力家でもある。生来の強さから、自分の正体を隠さず学生生活を送っていた豪の者でもあると言うのが、私の、ダァト君に対する人物評である。


 ダァト君の黒いオーラにも怯まず、私はにこりと微笑んだ。


「違いますよ。ダァト君。貴方は、自分の世界に帰りたいんですよね?文献を漁っても、情報を収集しても、そういう結論に至るんですが、間違いありませんよね?」


 ダァト君は、黒いオーラを引っ込めて、


「ああ、そうだ。」


と、続きを促した。


「では、私が、《神の器》であることは、ご存知ですよね?」


「無論。だが、先に言っておくぞ?女の身体なんて真っ平だからな?いくら帰りたくても、お前の意識を消す気は無い。」


 きっぱりと断られてしまった。

 …そうなのだ。私は、私の死後、この身体を有効に使える相手として、彼に目星を着けていたのだ。


「うぐっ。私の死後、でもですか?」


「当たり前だっ。自分自身の力で帰る事が目標だからな。」


「むぅ。先に断られてしまいましたか。残念です。何故、私がそう言うと思ったんですか?」


 悔し紛れに訊いてみた。


「お前が《神の器》という事実は、魔神と呼ばれる者たちの間では有名でな。さらに、同期生として見てきたお前は、消滅願望が強いのも、明白だったからだ。」


「そうなのです。私は、消滅したい欲望に負けそうな時があるのです。『奈落』に向かう事も考えましたが、彼処には、魔神シャハスが…真教における唯一神の対極とも言える魔神の魂が居るとも言いますしね。私は、魔神シャハスにも、こちらの唯一神にも、この身体を使われたく無いのです。私がダァト君を観察していて思ったのは、貴方には邪心が無い、という事です。ただ、帰りたいという、強い願いだけ。だから、その力になるなら、貴方にこの身体を使って貰うのが、平和的活用法なのかな、と、思ったのです。」



 一気に伝えて、グッとお茶を煽った。


「でも、振られちゃいましたね。」


 残念、と伝えると、ダァト君は、代案を提示してくれた。


「ふむ。では、お前が何かの切っ掛けで死んだら、誰にもお前の身体を使われ無いように、私自らが、粉々に破壊してやろうか。」


 多分、気紛れだろう、ダァト君の提案に、私は食い付いた。


「いいんですか?」


 パッと顔を輝かせて目線を上げると、相変わらず煌めく夜空の様な瞳が見つめ返していた。


「ああ、それくらい、造作もないからな。ただ…私の身体の欠片の情報を掴んだら、教えてくれないか?私も、必死なんだ。」


 私は、必死で、過去、旅をしていた時の記憶を漁った。


「勿論です。一つは、噂で聞いた事がありますよ。『陰りの森』の、『森守り』が心臓を拾ったそうです。」


「陰りの森か…。確かに、現世に於いて最も幽世(かくりよ)に近いあの、魔境とも呼べる場所の管理人ならば、有り得るな…。有難い。寄ってみるか。」


 納得した様に一人頷くダァト君。


「まだまだ、足りないのですよね?貴方の身体。」


 ダァト・ナイアール・アーには、この『ハイルランド』に墜ちた時に、彼の身体は分断された、との伝承がある。

 私の憂いを祓ってくれるかも知れない相手の今後が心配になって、聞いてみた。


「まぁ、な。」


 苦々し気に、ダァト君は肯定した。私は、彼を助けたいと思った。


「では、此れからも、何か掴んだら、ご協力します。私も、必死ですから。死なないための保険にさせて貰いますね。」


「ああ。協力者同士という事だな。構わんよ。」


 私とダァト君は、こうして、互いの為の約束を交わしたのである。






ありがとうございました。

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