7 教皇庁と私~乱入者~
よろしくお願いします。
7.乱入者
クレアさんの美しい所作に見惚れていたところで、早々に大学に着いた。
「って、話してるうちに着いたわね。こっちよ。」
クレアさんに導かれ、裏門から校内に入る。
懐かしくて、愛しい、私にとって大切な場所だ。
応接室に案内されると、そこには、懐かしい顔触れが揃っていた。
「あらあらまあまあ、お帰りなさいねぇ。トリスさん。」
ウララ理事長先生の歓迎に始まり、
「トリスさん、また追われているそうですねぇ。でも、皆君の味方だからねぇ。どんな問題でも、なんとかなるなる。」
ナルナル学長先生。
「トリスさん、大丈夫でしたか?わたくしも心配しておりましたのよ。」
とレヴィちゃん。
「よぉトリス、珍しい格好じゃねぇか。まぁた厄介事だろ?さすがだなぁ。面白そうじゃねぇか。」
ニヤリと笑うアルヴィン君。
「ボクも協力するよ。トリス。」
暖かい眼差しのニースさん。
「とにかく、君が無事で良かったよ。この二年半、音沙汰がなかったからねぇ。」
優しい口調の楊先生。
「せや。トリス、連絡はせなあかんで?」
ジョン先生にも諭される。
そして、ばさぁっと、私の目の前を、羽毛が埋め尽くした。
「心配したんだぞぉ~。トリス。よくぞ無事で戻ったなぁ。」
私は、久しぶりに、恩師グリーンヒル先生の翼に覆われたのである。
一頻り、皆さんとの邂逅を楽しんだのち、私は状況を各自に理解してもらうべく、説明を開始した。
「皆さん、こちらが、私を護衛してくれているフォルフェクスさんと、そのフォルフェクスさんが護衛をしているノノさんです。依頼がバッティングしたため、フォルフェクスさんは二人を護衛している形になっています。が、カイル君も居ますので、私の方は、情報収集の役をお願いしてあります。その結果わかった事は、私の個人情報をリークして、捕まえようとしているのが、ゲンスルー閣下である、と言うことです。幸いにも、個人情報の流出は、この街のレクスギルドの独自判断でストップがかかっています。魔狩人さんにも追われていたんですが、そちらは事情を話してる誤解が解けています。」
くるりと向きをかえ、
「フォルフェクスさん、ノノさん。こちらの一同が、私の身元保証人の方々です。」
「あらあらまあまあ、よくトリスさんをここまで連れてきてくれたわね。ありがとう。理事長のウララよ。皆を代表してお礼を言うわね。」
「学長をしています。どうぞよろしく。」
大学の二大トップに挨拶され、フォルフェクスさんはたじたじになっていた。
クレアさん達もそれぞれ自己紹介する。
「私はクレア・ラ・シール。この子の姉貴分って所かしら?」
「俺はアルヴィンってんだ。」
「ボク、リース。」
「わたくし、レヴィと言いますわ。」
「指導教官のグリーンヒルだ。」
「私は楊。歴史学者だよ。」
「ジョンや。」
皆さん、あんまり興味がないのか、それとも、警戒しているのか、必要最低限の自己紹介だった。
「状況は理解出来たな?アルヴィン、リース、ゲンスルー閣下の手下の動きを見張ってくれ。私は楊と打ち合わせる。」
アリ君が、早速作戦を立てるべく、行動指針を口にした。
「了解。」
と、アルヴィン君が立ち上がり、
「行って来る。」
と、リースさんも連れ立って部屋を出ていった。
そして、アリ君と楊先生は、研究室の方へと行ってしまった。
「あらあらまあまあ。それでは、お暇な皆さんは、暫くゆっくり休むといいわ。お部屋を準備するわね。」
パンパンと手を鳴らし、ウララ理事長先生がそう言うと、ザザッとメイドさん達が現れ、あっと言う間にフォルフェクスさんとノノさんを別室へと誘った。
アルヴィン君とリースさんが情報収集をし、アリ君と楊先生とが作戦会議をしている間。
私は、レヴィちゃん達を相手に、旅に出てから今までの長い話をしていた。
グリーンヒル先生には、場所の情報を伝える手紙は認めていたが、アリ君にも怒られた通り、私の定期連絡は不足気味だったらしい。
皆にとても心配をかけていた様だった。
レヴィちゃんとグリーンヒル先生には泣かれ、クレアさんにはアリ君みたいに怒られ、ジョン先生には嘆息された。
…人付き合いって難しいなあ…。
そんな事を考えていた、丁度その時だった。
ガシャーンッ
パリーンッ
という音がして、窓ガラスが割れた。
それと共に、
「トリスティーファ・ラスティン!!!俺と勝負しろ!!!!」
と大音声で宣う大男が侵入してきた。
「誰だ!お前はっ!!」
私より先にカイル君が誰何する。
「おぅ。俺はノイマン。ゲンスルー四天王の一人だ。と言うわけで、勝負しろ!」
彼は、ブンッと長剣を薙いでじろりと室内を一睨みした。
因みにその時、私は、硝子が突然割れた音にびっくりして、反対の壁際まで跳びすさっていた。
耳と尻尾がビンビンに逆立っている。
だが、私に用があるらしい、と察した私は、レヴィちゃんやクレアさん達に迷惑をかけたく無かったので、グッとお腹に力を入れて応えた。
「いきなり窓から侵入とは、無礼ですね。そんな無礼な輩と交える剣は持ち合わせていないのですが、お引き取り願えませんか?」
「怯えてる嬢ちゃんには言ってねぇ。こん中で一番腕の立ちそうなお前がトリスティーファ・ラスティンだろ?」
ブンッと剣を向けられたのは、何とカイル君だった。
「…。なあ、トリス?こいつ馬鹿だろ?」
カイル君が呆れた様に言った。
「カイル君、初対面の人に失礼ですよ。それから、ノイマンさんとおっしゃいましたか…。トリスティーファ・ラスティンは私です。音にびっくりしただけで、別に怯えていませんよ。」
ちょっと半眼になりながら伝えた。
そんなやり取りが行われている処に、コンコンと扉を叩く音がした。
中の返事も聞かずにパターンと扉が開き、一人の妙齢の女性が入って来た。
ツカツカとノイマンさんに向かって足を進めながら、立て続けに喋りだした。
「ちょっと、ノイマンさま?貴方また勝手に暴走して、何やってるんですか!?どうせ窓から侵入したのだって、『カッコいいから』とか言う、くっだらない理由なんですよね?始末して回る私の立場ってものも少しは考えたらどうなんですか?それとも、そんな配慮も出来ないほど脳筋だったんですか?ああ、そうですよね。そんな事なんてちっとも考えちゃいませんよね?副官の私に苦労掛けっぱなしですもんね。皆さんにご迷惑なんですから、今日は予告だけって約束でしたよね?違いますか?」
ここまで、一息だった。
私は驚いて、再び固まった。
「あの…、失礼ですが、貴女は?私は、今、ノイマンさんに交戦を申し込まれた、トリスティーファ・ラスティンと申します。」
挨拶してみた。
彼女は、ピタリと立ち止まり、ノイマンさんをゴンッとグーで殴ると、クルリと向き直り、綺麗なお辞儀をした。
「連れが大変失礼を致しました。わたくし、ノイマン(この馬鹿)の副官をしております、カレンと申します。トリス様、この人は、戦闘狂で、強い相手とは戦わずには居られないアホではありますが、ゲンスルー四天王の一人でもあります。申し訳ありませんが、手合わせしてやっては頂けませんか?勿論、勝っても負けても、ゲンスルー様に近づく手掛かりをお教え致します。どうでしょうか?」
「正直、戦闘で誰かが傷ついたり、痛い目にあったり、死んじゃうのは嫌です。ですが…。」
私は、グリーンヒル先生を見た。
グリーンヒル先生は、うんうんと頷いた。
「この学園には、闘技場がございます。そちらで、勝負、と言う形であれば、お受け致します。」
「ノイマン様。構わないですよね?」
「お、おう。」
カレンさんに圧されて、頷くノイマンさん。
「と言うわけで、先生、闘技場の使用許可をお願いします。」
「ああ、いいぞ。審判は、私が勤めよう。トリスの成長も、楽しみだからな。」
私達は、ぞろぞろと、闘技場へと向かった。
呼吸を整え、意識を集中する。
目の前には、身の丈、2メートルを超える筋肉質な男が一人。
ノイマンさんだ。
今回は、チーム戦ではなく、タイマン戦である。
ノイマンさんは、引き摺るような大剣を手に、下段の構えをとっている。
私は二本の魔剣を浮かべ、更に一本、剣を正面に構えている。
ピリピリと、相手の強さを肌に感じる。
ダンテさん程のスピードは感じられないが、重い一撃が飛んでくるであろう事が感じ取れた。
…先に仕留めなければ、殺られる…。
私は、真っ先に仕掛ける事にした。
クレアータの技である、超加速を発動させる。
一発、二発、三発…
縦から横から下からと、次々に打ち込むが、中々倒れない。ダメージが小さすぎるのだ。
私は、切り札の、自身の体力を代償として削り、武器を己の闘気で纏い、攻撃力を底上げする特技、通称『闇の闘気』を使い、ダメージの底上げをした。
そして、一度鞘に刃を仕舞うと、抜刀のスピードを基に相手へと剣を飛刃させる、渾身の斜刀術を叩き込んだ。
「ぐわっ」
ノイマンさんが倒れたかに見えたその時。
ノイマンさんは、重戦士の意地で絶対必中の妙技を繰り出し、私の攻撃の間に割り込んで攻撃を仕掛けて来た。 私は、咄嗟に、如何なるモノにも縛られない、自由人だけが可能である、転移技法でその攻撃が当たる場所から逃げた。
《神々の欠片》を宿した者達の力は、同等の力か、魔神の持つ《魔の欠片》と呼ばれる高位の力(魔神与えるの《魔の欠片》は、《神々の欠片》対極にあるとも言える力で、魔神や殺戮者等が持つ力である。)でしか止める術は無い。
だが、ノイマンさんは諦めなかった。倒れる前ならば、と、鍛練者の力である、因果応報の力で直接、蓄積しているダメージを私にぶつけてきた。
…こうなったら、私も…。
私は、咄嗟にノイマンさんの力を模倣して、更に私が受ける蓄積ダメージを上乗せして、ノイマンさんに叩き付けた。
激しい激突音が止んだ。
舞い上がっていた砂煙が晴れる。
そして、
…バターン…。
ノイマンさんが倒れた。
「勝者、トリス!!」
グリーンヒル先生の声が響く。
やっと戦闘が終わったのだ。
私も、剣を杖にしないと、立っていられなかった。
だけど、お互い、力を尽くした戦いだった。
「カレンさん、ノイマンさんが起きるまで、どうぞゆっくりさせてあげてください。彼は、素晴らしい戦士です。」
私は、剣士として、最大級の賛辞を、ノイマンさんに贈った。
倒れて、意識の無いノイマンさんの代わりに、カレンさんが、ペコリと頭を下げた。
彼女は、
「そう言ってくれてありがとう。伝えておくわね。」
と、慈愛に満ちた微笑みで、誇らしげに呟いた。
それを見届けて、私もまた、ゆっくりと意識を手放したのだった。
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