6 教皇庁と私~向かうは大学~
よろしくお願いします。
6.向かうは大学
イシュトヴァン王に滞在の礼を述べ、私達は城下に降りた。
追われている私は、勿論、アリ君の部屋を出る時には、トーリィ・ラストの姿に変化していた。
集合場所に着くと、カイル君と、フォルフェクスさん達が遅れてやって来た。
用事が長引いていたらしい。
近くの酒場に入り、今後の打ち合わせ等を行う。
「フォルフェクスさん、ノノさん、アミョアさんは行くべき場所へと向かわれました。代わりに、私の古馴染みで、軍師のアリ君をスカウトしてきました。アリ君、こちらが、今回力をお借りしているフォルフェクスさんと、依頼がバッティングして、私と一緒に守ってもらってる、ノノさん。」
「アリス・トートスだ。アリでいい。」
「フォルフェクスだ。よろしく頼むぜ。」
「アリさん、よろしくお願いいたしますね。」
アリ君は、ノノさんの「さん」付け呼びをあっさりスルーした。私には許してくれなかったのに。
ノノさんが、こちらを見てにやりと口の端で笑う。
…。負けないもん。
「さて、自己紹介も終わったし、話を進めようか?まず、『トリスティーファ・ラスティン』を指名手配した黒幕だが…。教皇領皇帝アンセルの軍師ゲンスルー閣下だ。次に、噂の広まり方だが、やはり大学都市に行かないと情報が流れて来ねぇな。つぅ訳で、大学都市に向かうのがいいと思うぜ。」
フォルフェクスさんは、そう、集めた情報を伝えてくれた。
ゲンスルー閣下と言えば、前述した通り、教皇庁のある教皇領の皇帝アンセル陛下の軍師であり、かの高名な繕いのゲンシュフライスさんの造ったクレアータ(生人形)であり、狂う事の無い精密機械としても有名である。
そんな情報を頭に入れたアリ君は、何やら思案すると、
「ふむ。悪くない手だな。そういう事なら、久々に、大学へ向かうか。」
と、今後の方針を決めた。
こうして、我々は、パーティーを組み直し、大学都市へと向かった。
大学都市への道中は、比較的穏やかに進んだ。 何故なら、アリ君は、出立前に、「イシュトヴァン王の宰相アリス・トートスが、トリスティーファ・ラスティンを保護した」、という情報を、裏社会に流したからである。
その上、アリ君はまだイシュトヴァン王の所に居る様に装わせたから、刺客の目は、イシュトヴァン王国に向く事になった。
しかも、後になって聞かされた事だが、その情報を流すのに、リースさんやアルヴィン君の協力も借りていたらしい。
そんな素振りをおくびにも出さずにしてのけるのだから、恐ろしい。
聞かされた時には、そんな素振りには全く気付かなかった自分が悔しくもあり、アリ君のその心遣いにグッとさせられもしたのだが。
何はともあれ、すんなり大学都市に着いたので、大学(大切な場所)を襲撃されないように、先ずは情報収集すべく、レクスギルドに向かった。
ギルド内では、フォルフェクスさんとノノさんも、やることがあるらしく、二手に分かれての行動時にはなった。
「すみません。『トリスティーファ・ラスティン』の件で情報が欲しいんですが…。」
受付でそう話し掛けるなり、受付のお婆さんがじっと私を観察して、言った。
「ああ?あんだって?あたしゃぁ、耳が遠いでなぁ。よっく喋れる場所さ、移動すんべなぁ。こっこちゃあおいでくだせぇませな。」
そのまま、ズルズルと引き摺られる様に、立派な個室に通されたのだった。
テーブルに着くと、お茶が運ばはれて来た。
丁重にもてなしてくれる様子に、私は変化を解いて、挨拶する事に決めた。スッと変化を解くと、自己紹介に入る。
「改めまして、私は、トリスティーファ・ラスティンと言います。私について、出回っている情報について、知りうる限り教えて頂きたいんですが。」
じっと私を見つめていたお婆さんが口を開いた。
「あたしゃぁ、ここのぉ、ギルドマスターをしちょるでなぁ。今回のぉあんたの情報は、話さねぇ事にしただぁよ。国際化の現代、個人情報のぉ流失って奴はぁ、良かねぇな。うん。良かねぇ。あたしゃぁよぉ、あんたの情報が回ってきたときゃぁ止めにゃならんと思ったでなぁ。漏らさん様にしただぁよ。」
がくがく手足が震えていたが、しっかりした口調?で教えてくれた。
「それで、なのですね?私があんまり追われずに来れたのは。ありがとうございます。でも、何故黙ってくれたんですか?」
「あたしゃぁはね、あんたがまだ大学におった頃からぁ、あんたば応援さぁしとったでなぁ。あんたば、良い子じゃったぁでなぁ。陰ながら応援ばしちょったで。」
(びっくりしました。
まさかの人徳による口止めでした。)
お婆さんの言葉に、私は胸が熱くなった。
「ありがとうございます。」
涙を堪えて、やっとそれだけ伝えると、お婆さんは、優しく背中を撫でてくれた。
そんな訳で、情報の流通、拡大はこれ以上心配無いと判断できた。
安心出来た私達は、今後の計画を立てる為に、フォルフェクスさん達と合流し、ギルドを出た。
すると、一台の馬車が目の前に停まった。
「アリス様ご一行ですね?」
馭者さんが声をかけてきた。
「あぁ、そうだが…。」
アリ君がそう答えた時。
ガラリと馬車の窓が空いた。
「二人とも、久しぶりね。案内するから、早く乗って頂戴。あぁ皆さんもご一緒に。」
懐かしのクレアさんが、顔を覗かせた。
私はパッと顔を輝かせ、
「ありがとうございます。」
とお礼を述べた。そして、私達一行は馬車に乗り込んだ。
「あの…。クレアさん。お久しぶりです。でも、どうしてこのタイミングで、ここへ?」
「ふふふふふ。私達も、貴女の動向には注目してたのよ。この馬車はリースちゃんとアルヴィン君の協力でここに、このタイミングで迎えに来れたの♪私達の大事な妹分が困った事態に陥ってるのよ?助けるのが当然じゃないの。」
凄く楽しそうにクレアさんは説明してくれた。
…そうでした。私は、皆の間でも妹ポジションでしたね。
長いことカイル君に、対等の立場で接してもらっていたので、忘れていました…。
「えっと。でも、私はちゃんと頑張れそうでしたよ?」
「馬鹿ねぇ。トリスちゃん、貴女、私達の誰かが追われてたら、どうする?助けようとしてくれるでしょう?」
違う?
と、クレアさんは問いかけてきた。
「勿論です。助けようとしますね。」
「私達にとっても、同じ事なのよ?そろそろ、自覚して頂戴。」
「ありがとうございます。私なんかの為に、力を貸して下さって。私なんかの為に、意識を向けて下さって。嬉しいです。」
半泣きでクレアさんに抱きついた。
そこで、フォルフェクスさんが口を挟んだ。
「ちょいといいかい、お嬢さん。二つ程、確認したい。」
クレアさんが応えた。
「何かしら?というか、貴方は何方かしら?」
厳しい口調で切り込む。
「おっと失礼。俺はフォルフェクスっていう、まぁ、しがない探偵だ。
で、気になってるんだが、トーリィの嬢ちゃんってのは、まさか、あの、噂の『トリスティーファ・ラスティン』なのか?特徴とは合わねぇが…。」
手配書を眺めながらフォルフェクスさんは私を見た。
私は、変化を一時解除し、
「どのような噂なのかは知りませんが…、私の本名は、トリスティーファ・ラスティン。途中でフォルフェクスさんはお気付きだったと存じますけど…。目立たない様に変化していた事は謝ります。」
と答えた。
「変化、か。成る程な。で、二つ目。そっちのお嬢さんは、今後一緒に行動するのかい?」
クレアさんはにっこりと微笑むと、
「作戦会議も含めて、トリスちゃん、一度大学に行くわよ。皆、心配してるんだからね。」
と、ウインクした。
とても魅力と色気に溢れる動作だった。
ありがとうございました。