4 教皇庁と私~魔を狩る者~
ありきたりなタイトルで失礼します。
でも、これが一番しっくりくるんです。
4.魔を狩る者
魔狩人…その人は、魔神や殺戮者を専門に相手をする、戦闘のプロフェッショナル。名を、ダンテさんと言う。ピザやストロベリーサンデーをこよなく愛し、報酬として要求する事もあるという。
時を遡る事、半日ほど前。イシュトヴァン王との打ち合わせの後、私はカイル君に頼んで、フォルフェクスさんに伝言を頼んだ。合流の時期と、魔狩人さんについての情報を得る為である。
上記の情報は、そのフォルフェクスさんの調査でもたらされた情報である。
そこには、襲撃予測時間まで含まれていた。
それによると、襲撃は今夜らしい。
私は考えた。
争わないで引いて貰う為の方法を。
結果、イシュトヴァン王お抱えの特級厨師、マオさん(♀)と相談の上、ストロベリーサンデーを用意して貰う事にした。
好みが分からなかったので、スタンダードタイプ、流行の一品、マオさんオススメタイプの3種類である。
氷でキンキンに冷やし、溶けないように準備した。
そして、今。
バルコニーでゆったりと寛ぎながら、仲間と共に、ダンテさんを待っている。
大丈夫、アリ君もカイル君もついている。怖くない怖くない。
そう、自分に言い聞かせながら。
「デヴィル メイ クライ。」
不意に、背後から声がした。低い、闇に響く様な声色。振り向くと、そこには一人の男が立っていた。見たところ、二十歳くらいの様だ。
赤と黒のを基調としたデザインのレザースーツ。服の所々に、銀色の鋲が付いている。
「貴方が、魔狩人さんですか?ようこそお越しくださいました。わたくし、トリスティーファ・ラスティンと申します。以後、お見知り置きを。」
私はそう言って、彼に淑女の礼をとった。
こちらの挨拶に合わせたのか、
「ああ、そうだ。俺はダンテだ。よろしくな。」
と、返事が来た。
私は、ニコリと笑い、さらに声をかけた。
「いらっしゃると伺いましたので、ストロベリーサンデーをご用意してみました。少し、お話でも致しませんか?勿論、毒など入っておりません。」
「おっ、有り難いねえ。」
「三種類ありまして。
スタンダードタイプ、流行の一品タイプ、料理人オススメタイプです♪特級厨師の作品ですから、どれも美味しいですよ?お好きな物をどうぞ。」
「スタンダードが一番だな。」
そう言って、ダンテさんは、美味しそうにストロベリーサンデーを食べ始めた。
どうやら、お話は聞いてくれそうである。
私は、料理人オススメタイプを食べながら、ダンテさんに、
無駄な闘いや流血は不得手である事。
自分が痛いのも、ましてや相手が痛いのも嫌な事。
もしかしたら、手違いがあって私が狙われているのではないかと疑問に思っている事。
などを伝えてみた。
ダンテさんは、ストロベリーサンデーを食べ終えると、
「成る程な。確かに、あんたが邪神に操られてたりとか、闇に堕ちてる感じじゃねぇな。だが、俺も依頼で来ている。手合わせしてみて、その太刀筋で判断させて貰うぜ?」
「わかりました。そう言うことでしたら、やむを得ませんね。私を試す、試験と思って、努めさせて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします。」
これで誤解が解けるなら、と、私はダンテさんと手合わせする事になった。
戦う前に、幾つかの取り決めをした。
まず、お互いに殺さないこと。もし危なそうな時にはストップをかける審判をおく。この役は、カイル君とアリ君にしてもらう。
次に、ダンテさんが経験値から見ても、戦士として見ても、圧倒的に強いので、ハンディをつける事。具体的には、リミットとして、剣は使わない。
最後に、手は抜かない事。
戦闘で以て語り合う以上、本気でかからないのは、失礼にあたる。勿論、ハンディを貰ったからと言って、それが手抜きになるわけでは無い。リミット内での力の出し方というものがあるのだ。
これらを守れないならば、私は討伐されても文句は言えないし、ダンテさんに分かって貰うには、私の全力を受け止めて貰わなくてはならない。
仮に、私がダンテさんに剣を使わせる事が出来たなら、私を一人前と認めて貰う事にも繋がる。
これらを踏まえた上で、私とダンテさんは対峙した。
ダンテさんは、二挺の拳銃を手に。
私は、二本の魔剣を空に浮かべて。
ピンと張り詰めた空気の中、一歩も動かず睨み合う。
私は、後手は得意では無い。けれど、準備をせずに突っ込む程自信も無い。ピリピリと感じるダンテさんの強さを前にすると、余計に慎重になる。 私は素早く自身に強化をはかると、浮かべた魔剣をダンテさんに射刀術で連射した。
ダンテさんは素早く回避をするが、若干掠めたようで、頬から血が流れた。
が、次の瞬間、沢山の銃弾が私に襲い掛かる。
私は勘を目一杯に働かせ、何とか身を回転させてかわす。
…当たったら、不味い…。
抉れた地面を見て、私は意を決した。
必殺技、とも言える、超加速を使って、私は畳み掛ける様に体力の続く限り、剣を抜き、放った。
幾つかは当たり、幾つかは弾かれた。
私の全力を出し、体力も半分になった所で、ダンテさんが、自身の魔剣で私の攻撃を弾き始めた。
そして、
「ここまでだ。まさか、俺に魔剣を持ち出させるとはな。俺の負けだな。」
唐突に、ダンテさんは言った。
「え?でも、貴方はまだ戦えますよね?」
素直に疑問を口にする。
「ああ。だが、これ以上は、魔神用だからな。本気な殺し合いではない以上、ここで終わりだ。あんたからは、魔神の気配も、闇に堕ちている心配もない。良くわかった。合格だ。」
「良く分かりませんが、剣を納めても、いいのですね?」
「ああ。構わない。」
私が剣を納めるのを見守ると、彼は、スタンっと屋根に飛び乗った。
「俺は依頼主に苦情を出しにいく。またな。」
その言葉と共に、ダンテさんは去って行った。
嵐の様な一時だった。
「ふぅ…。終わり…ました、か?」
極度の緊張から解放された私は、ペタリと地面に座り込んだ。
「おい、大丈夫か?トリス。」
カイル君が心配そうに声を掛けてくれた。
「大丈夫、ですよ。」
にっこり笑って、何とか言い繕う。
「足腰立たなくなってる癖に、強がるな。よく頑張ったな。」
そんな私の強がりも見透かして、アリ君が私の頭をポンポンと叩いて、労ってくれた。
(何故、この人は、私の弱い所ばっかり突いてくるんでしょうね…。)
そんな想いをひた隠しにしながら、有り難く差し伸べてくれた手にすがって立ち上がる。
「あはは。ダンテさんってば凄く強くて、私、疲れちゃいました。ねぇ。アリ君。私達それぞれに部屋を用意してくれてるって、本当ですか?汗を流したいんですが。」
「本当だ。トリスの部屋には風呂の準備もさせてある。必要だと読んでいたからな。ゆっくり休むといい。」
「ありがとうございます。所で、カイル君。フォルフェクスさん達への報告は、どうしましょうか?」
「早めに伝えた方がいいんだろうな。よし、俺が伝えて来るよ。トリスは疲れてるだろ?ゆっくり休んでて。旅支度も整えとくからさ。」
「ありがとうございます。カイル君。お言葉に甘えますね。」
「おう。任せなって♪」
打ち合わせを済ませ、私は案内された部屋へ向かった。
ゆっくりと、湯船に浸かりながら、私は思いを巡らせた。
過去と今との自分の気持ちを。
戦いのせいで、気分が荒ぶっていたせいもあると思う。
私は、どうしてもアリ君と二人きりで話がしたくなって、仕方無かった。
だから、勇気を振り絞って、アリ君に会いに行く事にした。自分の気持ちを整理するためにも。
ありがとうございました。