3 教皇庁と私~再会~
よろしくお願いします。
3.再会
グォォォォォ…
豚人であるアミョアさんの特技『黒き咆哮』により、敵は怯み、味方の士気は上がる。敵が怯んだ隙に行うので、こちらの攻撃は、命中力は勿論の事、攻撃力もあがる。ついでに高揚した士気は、受けていたダメージも回復させた。
支援を受けた私達は三人が、ノノさんを守るべく、先手必勝とばかりに敵を殲滅させていく。
こうした連携をとりつつ、野良モンスターを倒しながら草原地帯に入る。
さすがは、と言うべきだろうか。
辺り一面、見渡す限りに広い原っぱである。建物も、人の気配も無い。
「沢山の生物の息吹を感じますね♪ご飯になりそうな動植物が沢山ありますよ。」
私が上機嫌で言うと、
「人が居なくて不安だわ。早く集落を目指しませんか?」
私が上機嫌で言うと、
「人が居なくて不安だわ。早く集落を目指しませんか?」
とノノさん。
「「賛成だ」」
と、アミョアさん以外の二人がこぞって同意した。
「人のいる方角ですね?彼方に5kmくらい向こうに気配がありますよ。」
アミョアさんに、香草を渡しながら告げる。
「なんかトーリィ、乗り気じゃなさそうだな。」
「アリ君との再会に緊張してるんです。だってねぇ、今まで怒鳴られっぱなしですからね?嬉しいような、怖いような、複雑な心境なんですよ。」
苦笑いしながら、カイル君にだけ、こっそりと説明する。
そうそう。私は、フォルフェクスさん達と合流する前に、変身して、髪の色を黒く、目の色を蒼く変え、トーリィ・ラストと名乗っている。
「ところで、フォルフェクスさん、イシュトヴァンさんの国ってこちらですか?」
話題を変えようと、フォルフェクスさんに話しかける。
「間違ってねぇな。あんたの嗅覚通りであってるぜ?追っ手もいねぇし、手っ取り早く入城した方が得策じゃねぇかな。一応、城下町もあるみたいだし、せめて宿くらい決めとこうぜ。」
というフォルフェクスさんの主張により、私達は草原地帯の国へと入っていった。
城下町に入った私達は、二手に別れる事になった。フォルフェクスさんの都合で、彼とノノさんがレクスギルドに向かう為である。
私達は、後に合流する場所を決めて、一時パーティーを解散した。
…そして、今。 私、カイル君、アミョアさんの3人は、お城の謁見の間にいる。
膝を折り、貴族の礼を摂りながら宰相閣下の入室を待つ。
ここまでは、私が追われている以上、アリ君に迷惑をかけない様に、「『トリスティーファ・ラスティン』の情報を宰相様にお知らせしたい、旅の者」という名目で入城している。姿も変装したまま、名前も、『トーリィ・ラスト』で通してある。
何と話そうか、ドキドキしながら待っていると、扉の開く音と、後ろから前に進む足音がした。聞き間違え様の無い、彼の足音だ。
「待たせたな。顔を上げろ。私が宰相をしている軍師のアリス・トートスだ。」
どきん。
と胸が高鳴る。相変わらずの、ちょっと不機嫌そうな、懐かしい声が頭上に降りかかる。ぎゅっと胸が締め付けられる様な感覚がする。懐かしさと切なさに、危うく涙が零れそうになった。
そんな私の事にはお構いなしに、アリ君は続けた。
「それで、君らはどんな用件かな?」
泣いちゃ駄目だ。
意を決して、顔をあげ、彼と過ごした間に考案した暗号を交えつつ、言葉を発する事にした。
「はじめてお目目時つかまつります。トーリィ・ラストと申します。こちら二人は、わたくしの護衛でございます。(アリ君、私、トリス。お久しぶり。何だか良く分からないけど、また教皇庁に追われてるの。)『トリスティーファ・ラスティン』は、さる案件にて、教皇庁に狙われているのでございます。(詳しく話したいから、何処か密会出来る場所に移れないかしら?助けて欲しいの。)」
「なるほど。トーリィ殿、そして護衛の方々、良くわかった。此方で部屋をご用意しよう。暫く滞在なさるといい。ご案内しよう。」
私達は、別室へと移動した。
ぱたん。
ガチャリ。
私達が、案内された部屋に入るのを見届けると、アリ君は後ろ手に鍵を掛けた。
「宰相様、こちらのお部屋、防音は大丈夫でしょうか?」
私は慎重に尋ねる。
「問題ない。私の私室だからな。盗聴等の心配は一切無い。」
アリ君は、言い切った。
そして、つかつかと私の方に寄ってくると、
「いい加減、その偽装と言葉遣いは止めろ。似合わん!」
と言う言葉と共に、
ゴチン。
久しぶりの拳骨が降ってきた。
「っいったぁ…。久々の再会でいきなり拳骨はないでしょ~。相変わらずですねぇ。」
ぷくっと膨れて変装を解く。そんな私にアリ君は、
「二年半近く音沙汰無かったヤツが追われてるなんて情報が入れば、心配もするわっ。この馬鹿者がっ!しかもいきなり訪ねてきたと思ったら、偽名だし姿も変えるとか驚くだろうが?定期連絡とか入れとけよ!!!!」
かなりお怒りの様で、私の頬をぐにょ~んと引っ張りながらお説教をくれた。
「イヒャイいひゃい!ひゃべりぇまひぇんよ?」
じたばたしていると、言うだけ言ったアリ君は、ほっぺを解放してくれた。
「他に言うことは?」
ギロリ。と腕組みで睨まれる。
「…。心配かけて、ごめんなさい。」
しゅんと項垂れて誤った。
「反省したな。ならよし。」
「改めまして、お久しぶりです。アリ君。お元気そうで何よりです。」
「ああ、お前もな。で、どういう事か、詳しく話を聞こうか。何、時間は十分ある。ゆっくりでいいぞ。」
私は、アリ君に、事の詳細を話始めるのだった。
何を話そうかと考えながら、私はゆっくりと後ろを振り返った。
先ずは旅の仲間の紹介からだろう。
「アリ君、以前から行動を共にしてる、カイル君と、」
「よっ!アリ君お久しぶりだな!」
カイル君は軽く右手を挙げて挨拶した。
続けて私は、バサリとアミョアさんのフードをはだけて、
「…迷い豚人のアミョアさん。《神々の欠片》を宿した北荻の王様。そして、わがパーティーの大変優秀なサポーターです。」
たっぷり3秒くらい間を開けて、
「はぁ!?何だとぉ!!?」
アリ君が奇声を上げた。
「なぁ、お嬢ちゃん、こいつホンマに信用出来るんかいな?」
「大丈夫ですよ。アミョアさん。彼は私が1番信頼をしている優秀な軍師様です。久しぶりに私が来たんで、ほっとしたところに、私が予想外の行動ばっかりしてるんで、驚いちゃったんでしょうね♪」
「トぉーリぃースぅ…厄介事は、さ・き・に・言・え!!!!」
怒ったアリ君に、再び私は、ほっぺたぐにょ~んとお仕置きされた。
私は真っ赤な頬を擦りながら、
「一緒くたに賞金稼ぎに狙われたんですよっ。だからっ、逃げるのに、暫く協力しているんです。」
と説明し、真顔になって続けた。
「アリ君、どうもね?私の出生の秘密というか、能力が、リークされたみたいなんですよ。しかも、魔狩人さん?も追っ手にいるらしくてね。巻き込みたくは無かったんだけど、私、どうして良いか分からなくて、アリ君の知恵を貸して貰おうと思って訪ねてきたのですよ。私はどうしたらいいんですかね?」
怒られるだろうなぁ、
と思いながら、私はアリ君に問題をまるっと投げる事にした。
私の丸投げした難題を前に、アリ君は、すぐに返答をくれた。
「先ずは、アミョアとか言ったか。ソイツを北に帰す事だな。私からイシュトに言っておく。」
「え!?王様のご助力を頂けるんですか?【中の人心の声:嫌だ(>_<)優秀なサポーターと離れたくない(ノ_<。)アミョアさぁん】」
「何!?わい、北に帰らして貰えるんかいな!有難いわ♪兄ちゃん、ええ奴やなぁ。」
アミョアさんは、大喜びだった。
「次に、魔狩人の事だが、トリス、お前は、ソイツを知ってるか?」
「否え、知りません。」
「そうか。魔神何かを専門に退治してる奴なんだが、相当強い。」
「え?只でさえ戦闘は嫌いですのに、そんな方と戦いたくなんて無いですよ!?私、邪悪な部類の人間じゃありませんし、勿論、魔神でもありません!!お話して、引いて貰う訳にはいかないでしょうか?。」
「まぁ、お前ならそうだろうと思ってな、調べてみた。ピザとストロベリーサンデーに目がないそうだ。誘き出すにしても、イシュトと相談してみるといいだろうな。」
「で、噂の出回り方なんだが、大学都市で拡大が止まっている。それどころか収束しているようだ。これについては、現地調査が必要だな。」
アリ君は、そこで一旦話を止めて、カーテンをバサリと捲った。すると、鋭い野性的な容貌をした男性が現れた。
「という訳だ。イシュト。俺は彼女らに着いて行く。いいよな?」
アリ君は、にっこりと極上の笑みで、爆弾を投下した。
「アリ君、イシュトって、まさか、イシュトヴァンの王様の事ですかっ?」
(おっ…王様が居るなんて、聞いてないですよ~!!?)
半ばパニックになりながらアリ君に聞いてみると、なんとご本人から返事があった。
「ああ、そうだが?」
カーテンの裏に居た人物から応えがあった。
「ミギャア!」
私は、素早くアリ君の後ろに隠れた。
尻尾がブワッと膨れ上がる。
(闇の眷族である殺戮者や魔神を倒すと、《神々の欠片》は空へと帰り、星々や月の瞬きが増える。その際、《神々の欠片》を宿す者は、その身に授かった《神々の欠片》をトレードする事により、より強くなる事が可能なのである。魔神についても、同じ事が言えるのだが。私は、この2年で《神々の欠片》交換を繰り返し、今は獣人族の力を宿している。その証拠が、狼人の尻尾と猫人の耳である。)
ガタガタと振るえていると、頭の上に、宥める様なポンポンという感触と、心地好いアリ君の声が降ってきた。
「すまんな。イシュト。こいつ人見知りなんだ。トリス、お前もその人見知りグセ、変わってないのな。」
アリ君に宥められて、少しだけ落ち着いた私は、スーハーと息を整えた後、自己紹介すべく、貴族令嬢らしく膝を折りスカートを持ち上げる正式な礼をとった。
「大変失礼を致しました。わたくし、アリス・トートス様の同期にあたります、トリスティーファ・ラスティンと申します。お見知り置きを。」
「ア゛ア゛ン?」
…。王様は、右斜め下から見上げるように、じっくり睨みを効かせた後、
「堅苦しいのは苦手だ。楽に話せ。」
と、至って砕けた口調で仰った。
ついでにアリ君まで、
「そうだぞ、トリス。似合わない口調はよせ。こいつなんてイシュトで十分だ。私の事を様付けで呼ぶのも、お前が相手だと気持ちが悪い。」
と、せっかく形を整えたのに、散々な言われようだった。
「王様はともかく、アリ君まで酷いですよ。」
ぷくっと膨れた私に、
「トリスだったか。そこの豚人、アミョアの事は任されてやる。」
王様は、そう言ってにやりと笑った。
「アリよぉ、離れるのは構わねぇが、戻って来るんだよな?」
イシュトヴァン王は、アリ君に尋ねた。
私は、アリ君が答える前に、素早く口を挟んだ。
「当然です!私は大切な友人の離職を求めている訳ではありません。勿論、王様がアリ君を酷使っていれば、話は別ですけどっ。」
私はイシュトヴァン王に喰ってかかった。
「してねぇよ。ってかお前はこいつの何だって言うんだよ?」
イシュトヴァン王も負けじと反撃してきた。
「大事な仲間で、大切な学友ですよっ。(不本意ながら『妹』ポジションのっ。)」
言ってて、私は胸が痛かった。
「俺だってこいつのダチだぜ?」
その言葉に、私は愕然とした。何故なら、『アリ君の世界は、私達学友との間にあるものだけではない』という当たり前の現実に気付かされたからである。更には、私の初恋は、まだ終わっておらず、それどころか、気持ちが育っていると自覚してしまったからでもある。
そんな私の内情を置き去りにして、話は進む。
「イシュト、私は暫く離れるだけだが、無茶するなよ?今は、国造りの大事な時期だからな。」
「分かってるよ。心配すんなって。」
軽口を叩きながら、仲良さげに話す二人。
私は、自分の気持ちを一新したくて、話題を戻した。
「王様、魔狩人さんに渡りをつけたいんですが、ピザとストロベリーサンデーって手に入りませんか?」
王様は、
「なら、うちにいる特級厨師を紹介してやるよ。」
…。
……。
………。
こんな感じで、アリ君を間に挟みながらも、イシュトヴァン王との打ち合わせは進んでいった。
ありがとうございました。