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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
教皇庁と私
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1  教皇庁と私~出会い~


【第3章 教皇庁と私】




1、出会い


 西方暦1076年。私は16歳になっていた。


 私は、今、賞金稼ぎに取り囲まれている。

 カイル君と別行動中の出来事である。


 何故こんな事態に陥っているのか、私にはさっぱり分からない。


 湧水亭のお使いを果たして、東方辺境区(…ハイルランド東方にある、未開の地)からの帰り道での事である。

 普段通りに道を歩いていた、山道での事。


 私は、知らない集団に取り囲まれた。


「お前がトリスティーファ・ラスティンだな。お前の命を頂こうか。」



「どなたですか?物騒ですね。私はまだ死ぬわけには参りませんので、見逃してくださいな。」


「お前には高い賞金がかかっているんだ。見逃せねぇな。」


「本当に、止めては、頂けないのですか?」


 私は、すごく残念に思った。剣を向けて、傷を受けたら、お互いに痛い。私は、自分が痛いのも、相手が痛いのも嫌だ。だから、出来るだけ、戦いたく、ない。

 けれども、相手は見逃してはくれない様で。


「運がなかったな、嬢ちゃん。覚悟しろ!」


 スラリと剣を抜き放ち、彼らは斬りかかってきた。


「はぁ。痛い目見ても、知りませんよ?」


 仕方無く、剣を抜くと、素早く峰打ちで一掃する。

 そして、気絶だけさせて、縛り上げる。リーダー格の人が起きるまで、野宿の準備をしながら待つ事にした。




 パチパチとはぜる火。 私は、捕らえたウサギを捌き、塩胡椒をまぶして、火にかける。ジュウジュウと脂が滴り、炎と合わさって、黒ずんだ煙が上がる。

 それと同時に、お茶の葉を入れたお湯も沸かしておく。お湯が温もりながら、紅茶色に染まって行く。

 持っていた小麦粉と少量の水、塩それから摘んできた野草を混ぜ、棒に練りつけた即席のパンも火に翳す。

 賞金稼ぎさん達の分まで用意したので、いつもより、少し手間取ってしまったが、旅路の途中では、なかなかの食事が出来そうである。

 自分の仕事に満足しながら、賞金稼ぎさん達のリーダーが目覚めるのを待っていた時だった。

 茂みから、ガサリと音を立てて、目深にフードを被った人物が姿を現した。

 その人は、身長が私より拳2つ分くらい高く、横幅も広かった。そして、長旅故だろう。ひどくすえた匂いを漂わせていた。


(道に迷った方だろうか?)


 心配になり、私はその人に声をかけてみた。


「あの…、道に迷った方ですか?良かったら、ご一緒に、如何ですか?勿論、ご迷惑なら強要は致しませんが。」


「…。」


 返事はなく、その人は立ち尽くしていた。


「私が何者かが不安ですか?私は、トリスティーファ・ラスティンって言います。何だか知らない間に、賞金稼ぎさん達に狙われちゃってますけど。貴方に危害を加える気はありませんよ?」




 しばし、相手を見つめる。


「…。こんなでもか?」


 バサリ、と、その人はフードを取った。





 そこに現れたのは、何度か相対した事のある種族、豚人だった。…豚人は、獣人族の内の一種族である。知性は低く、戦闘心の塊で、繁殖力の高い、闇の眷族と言われている。一般的に嫌われており、人類の敵、北に住んでいるので、『北荻』とも呼ばれている。だが、私には、言葉持つ者、心持つ者は、等しく『心通わせられるかも知れない存在』でもある。よって、いきなり斬りかかったりする相手ではない、と考えている。


だから、


「まぁ、オークの方とご一緒できるなんて、私、初めてです♪今晩は、よろしくお付き合いくださいね?お互いに不戦協定を結びましょう。」


と、声を掛けてみた。


「おっおいっお前。わいが怖ないんか?急に襲うとか考えへんのか?」


「少なくとも、貴方から敵意は感じません。それに、私への不意討ちは利きません。これでも多少腕に覚えもありますから、不届きな輩は熨します。」


「…。嬢ちゃん、負けたわ。わいは、アミョア。見ての通り、豚人や。」


 そう会話していると、人の目覚めそうな気配を感じた。私は、面倒な事になる前に、アミョアさんに告げた。


「しっ。ちゃっちゃとコイツらから事情を聞いちゃいますから、暫く隠れててくださいな。豚人と一緒だと、あらぬ誤解を受けちゃいますからね。ちょうどいい事に、匂い消しになる野草の茂みが10mくらい先にありますから。」


 にこりと笑って、隠れる様に指示した。


「お、おう。頃合いを見て戻ってくるぜ。」


 私の勢いに押されたのか、彼は、素直に指示に従ってくれた。




 それからおよそ五分後。


「起きましたか?」


 リーダー格の人が真っ先に目覚めたので、私は彼の猿轡を外して聞いてみる。


「貴方がたは、何故私を襲ったんですか?私は悪い事はしていない、一般人なはずですが。犯罪者でない私に、誰が賞金なんてかけてるんですか?知っている事を素直に話してくれたら、そろそろ食べ頃の食事を分けてあげなくもありませんよ?」


「だっ誰が喋るか。」


「あのねぇ。君たち、私が優しいから生きてるけど、普通、殺されても文句言えませんからね?」


「うぐ。それは、そうだな。すまん。」


 素直に謝ってくれたので、続きを促す。


「それで、何故私は襲われたんでしょうか?」


「あんたにゃ、暗殺者ギルドから、賞金が掛かってるんだ。詳しい内容は無かったがな。200クラウンだぜ?捨て置けねぇよ。」


「私の事は諦めて、他の真っ当な仕事で稼いでくださいな。そうしてくれるなら、皆解放しますし、夕食を持たせて上げます。流石に一緒に一夜は過ごしたくありませんが。」




「諦める。諦めるよ。なぁ。」


「おぅ。」


 うんうんと頷く一同。

 私は彼らを解放し、即席パンに焼いたウサギの肉を挟み、特製のスパイスをかけて持ち運びしやすくした。皆に一つずつ分けてあげる。


「彼方に、村があったはずです。貴方がたはそちらでゆっくりしてからお家に帰るといいと思いますよ?」


 そう言って、送り出す。


「魔獸とかも出ますし、日暮れも間近です。お気をつけくださいね。復讐なんて考えたらだめですよ。」


「分かった。ありがとう。」


 彼らは律儀にお礼を言ったので、私は、村に着いたら、お茶を飲むことを勧めた。

 このまま引き返してきたら、暫く痺れるように、スパイスを調合したからだ。


 村の特産茶で解毒可能な、独特なものではあるが。







「もうええか?」


 ガサリガサリと藪を掻き分け、アミョアさんが戻ってきた。


「大丈夫ですよ。」


 私は新たにウサギの肉と即席パンを焼きながら、アミョアさんに返事をした。


「アミョアさんは、どちらに向かう予定だったのですか?」


 毒は入れてない事を証明する為に、私は率先して即席ウサギパンにかじり付きながら話を聞く。

アミョアさんは、


「北に帰ろうと思うてるんやがな、中々辿り着けんのや。なんせ、ほら、豚人やし。」


「あぁ~…なるほど、ですね。」


 もそもそと二人でパンをかじる。

 私は、最後にお茶を渡しながら、話を進める事にした。


「私も、何故だか賞金首になってしまっているみたいです。良かったら、暫く一緒に行動しませんか?お互いに補佐し合えると思うんです。どうでしょうか?」


 恐々と聞いてみる。何せ、相手は豚人。普通はお互いに敵対してても可笑しくない種族だ。でも、アミョアさんからは、非道な行いをするヒト特有の下種な空気をあまり感じない。私はそこに賭けてみた。


「ははは。お嬢ちゃん、おもろいなぁ。気に入ったで。ほんなら、暫く同行さしてもらおうか。よろしゅうな。」


「良かった。こちらこそ、よろしくお願いしますね。」

 お互いに固く握手を交わす。


「これからの事を決めようと思いますが、アミョアさん、地理には通じていらっしゃいますか?」


「いや、全く知らんねや。」


「では、まず私達の状況を知る為にも、冒険者の集まる街、ケルバーで情報収集をしましょう。ケルバーの街は、ここから近いですから。」


「有名な街やな。わいも知っとる。」


「はい。有名です。それから、アミョアさんは、この草を服の中に入れてください。ローズマリーと言って、匂いの強いハーブです。多少、体臭が誤魔化せると思いますよ。私も、見た目を変化させます。普通の村娘っぽく、こんな風に。」




 そうやって作戦を立て、細々と打ち合わせや準備を整えて、私達二人は、ケルバーの湧水亭を目指したのだった。





ありがとうございました。

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