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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
記憶喪失
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3  旅の仲間~湧水亭~

よろしくお願いします。


3、湧水亭




 無事に川を上り、ケルバーの手前まで送り届けてもらった私達。

 ケルバーに入る門の前になかなか繁盛しているお店があった。カイル君のご実家だという酒場兼宿屋《湧水亭》だ。

 カランカランという軽快なベルの音と伴に室内へ入ると、冒険者の集う宿屋らしく、荒々しくも活気に満ちた空気に包まれた。


「只今、母さん。ついでに親父。こちらはトリスと、エステルだ。で、紹介するよ。この二人が両親。」


「あら、お帰りなさい、カイル。そちらのお嬢さん達はお友達かしら?それとも遂にカイルにも春が来た?」


「ちょっと母さん、失礼な事を言うなよ。こいつらは…」 カイル君が慌てている間に自己紹介する。


「はじめまして。私は、トリスティーファ・ラスティンというらしいです多分。自分についての記憶が全く無いので、持っていた学生証を確認するため、バルヴィエステにあると言う大学を目指しています。カイル君には、旅について、色々とお世話になっています。」


「ども。自分はエステルっす。トリスさんの記憶を取り戻す旅に同行中っす。よろしくお願いするっす。」


「ほう。君らがあの…。」


 店主は、何やら値踏みする様に私達二人を見回し、


「私はこの酒場の主で、アーサガと言う。ふむ。トリスさんと言ったか。愚息がお世話をかけているようだな。単なる酒場のオヤジの戯言だが…。君は一刻も早く大学を目指し、記憶を取り戻すべきだな。頼りにならないかもしれないが、こんな愚息でも、君の盾くらいにはなる。カイル、お嬢さんに付いていってやれ。」


 アーサガさんはそう言って、晴れやかに笑った。豪快な笑みだった。


「トリスさんにエステルさんですね。ご丁寧な自己紹介をありがとう。私はリューネ。カイルの母よ。よろしくね。随分な長旅だったみたいね。今日はゆっくり休んで頂戴ね。」


と、リューネさんからは、温かく迎えられた。

 その日は久しぶりにカイル君のご実家で、暖かいお風呂と、ふかふかのお布団と、美味しい手料理に持てなされ、幸せな夜を過ごしたのだった。





 カイル君のご両親への報告が済み、翌朝には旅立つ予定だった私達だったが、久しぶりの暖かい寝床と、懐かしい感じのする家庭的な雰囲気に、トリスが熱を出してしまった。

 熱の効果で記憶が戻りかとも期待されたが、残念ながら、それもなく。 熱に魘される彼女の記憶が戻る事は無かった。

 トリスは、熱が引くと、直ぐにでも出発しようとしたのだが、リューネさんを始めとして、皆に止められた。

 トリスの体調を優先して、出立は予定より、1週間程延期となった。

 そんなハプニングはあったものの、バルヴィエステへの道のりは、順調そのものだった。特に盗賊に遭遇もせず、何とも安全かつ快適な旅と言えよう。

 そして、馬車を乗り継ぎ乗り継ぎしながら、5日。ようやく、バルヴィエステ内にある、大学都市へと辿り着いた。




「…この街で、間違いないのでしょうか?心配です。まずはレクスギルドで、トリスさんの情報を集めましょう。」


ドキドキしながら、レクスギルドの受付へ向かう。


「すみません。突然の訪問、失礼致します。この学生証の方をご存知ないですか?」


「こいつか?いくらだせる?」


「これくらいでしょうか?」


チャリチャリと、フローリン銀貨を並べていく。15枚を数えたところで、手持ちの予算が切れた。宿代などを考慮すると、これ以上は厳しい。

これ以上出せない悔しさを表情に出さない様に、私はニコリと微笑んだ。

受付のおじさんは、そんな私の内心を知ってか知らずか、嬉しそうにフローリン銀貨を数えると、口を開いた。


「毎度♪じぁあ、教えられるのはコレだな。そいつには、捜索願が二件出てるぜ。嬢ちゃん。」


「二件、ですか?」


「ああ。大学と教皇庁からだな。何をやらかしたんだろうなぁ。どちらも極秘扱いだ。気を付けな。」


「わかりました。ありがとうございます。」


 私は、トリスさんが大学からも捜されている事に驚いた。そして、真相究明の為に、先ずは大学から訪問してみる事にした。




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