1、2度目の卒業試験
前回から、大変に間が空いてしまいました。
環境が変わり、中々落ち着いて執筆出来ない日々が続いております。
申し訳ありません。
では、新章を開始します。
よろしくお願いします。
1、2度目の卒業試験
冬の終わり、もうすぐ春という季節。
長い幽世での旅路を終えて、暫く経った頃。
私は、グリーンヒル先生に呼び出されていた。
「トリス。今回は、無事に卒業出来そうか?単位が取れていないと小耳に挟んだのだが。」
その言葉を聞いて、ギクリ、と私は固まった。
テストやレポートの提出はバッチリな私だが、私にはどうしても越えられない一線が、大学の講義にはあった。
ぐぎぎっと、ぎこちない表情で、私は、グリーンヒル先生を見上げた。
「実は…先生。長い旅の影響で、選択科目は未だしも、必須科目の単位が足りないんです。」
「どういう事だ?」
「えっとですね…。つまり、何と言うか…。私は、………じゃないですか。」
「ん?声が小さいな。すまないが、もう一度言ってくれるか?」
「私は、人が……じゃないですか。」
「うん?聞き取れなかった。すまんが、もう一度言ってみろ。」
「う~…ですから、私は、人が苦手じゃないですか。」
「おう。そうだな。だが、大分改善してきたのではないか?」
「私も、大丈夫だと思っていたのです…。でも、違いました。私が大丈夫だったのは、第47期生の、あのメンバーだったからであって、今の同窓生には、馴染めていないのです。」
そこから、ポツリポツリと、私は、私の現状をグリーンヒル先生に話した。
2回目の大学生としての活動で、前回は全く体験出来なかった学生生活を満喫しようとしていた中で起こった、世界崩壊の危機から始める冒険譚。
現世では短く、体感では密度の濃い幽世探訪。
これ等の冒険は、私の意識と、学生さん達の認識との間に大きな齟齬となり、越えられない壁となって、確実に存在しているらしく。
私はクラスに馴染めずにいたのだ。
「ほう。つまり、まだ人混みに紛れての必須科目への参加が難しい、という訳か。」
「はい、先生。情けないのですが、仰る通りです。」
私の拙い話しから、グリーンヒル先生は、正確に、私の現状を把握したらしい。
ポンと一つ手を叩くと、ごそごそと何かを取り出した。
「トリス。目を瞑って、両手を胸の前に突き出せ。そして、私が良いと言うまで待機だ。」
私にとって、グリーンヒル先生の、師匠の言葉は絶対である。
「はい、先生!!!」
私は、一も二もなくグリーンヒル先生の言葉に従った。
そうして直ぐに、私の腕に、ガチャンと、何やら錘の様なモノが嵌まる感覚がした。
「よし、もういいぞ。」
「はい!」
グリーンヒル先生の言葉を合図に目を開くと、私の両手首に、材質の分からない不思議な腕輪が嵌まっていた。と、同時に、とてつもない脱力感が、私を襲った。
「トリス。お前は、今、とてつもない脱力感に支配されている筈だ。違うか?」
「いいえ、違いません。」
「そうだな。その、お前の両手首の腕輪だが、入学当初と同等にまでお前の力を封じる腕輪だ。今回の卒業試験は、その状態で、セリカの山中から神拳寺まで旅する事だ。ゴール地点に着けば、私が持つこの鍵で、その状態を解除しよう。因みに、その腕輪は、使いきりの魔導具で、私が使おうと思っていた特注品だ。怖いならば、止めても良いが、どうする?」
ここまでされて、否と言うのは、弟子として、失格ではなかろうか?
私は、間髪入れずに、
「やります!!!」
と、応えていた。
ありがとうございました。