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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
『アルゴス』さんへ
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28、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)第13階層  3

遅くなりました。

宜しくお願いします。

28、『アルゴス』さんへ~幽世かくりよ第13階層 3








「待たせたな、トリス!」




虚空を切り裂いて現れた、鉄の箱。その側面から、シューっと扉が開く。

懐かしくも、恋しい、最愛の人の声が、私の耳を擽る。



「アリ君!」



私は、歓喜の声を上げた。



私にとって、『アリ君』という私の心の援軍と、『パンドラ』という私の唯一無二の武器があれば、怖いモノなど無いからだ。


「アリ君!来てくれたんですねっ!!!ありがとうございます!『パンドラ』も、持って来てくれたんですね!助かります♪」




枯れ木に水を与えた様に、私は、私の心が満たされて行くのを感じながら、パンドラを掲げるアリ君に駆け寄った。



「勿論だ。」


タラップを踏んで、コツコツと箱から降りて来たアリ君は、続けて、私の耳を疑う台詞を言った。


「援軍を連れてきたぞ!」



「うえぇ!!?援軍?アリ君が、『パンドラ』を持って来てくれる事が援軍、ですよね!?」



私は、そう言う意図で、『パンドラ』を過去へと送った筈である。

だが、残念な事に、『解釈』とは、時に、人によって異なるモノでもある。私は、まさか、あの伝言が、こんな事になるとは、予想しても居なかった。

アリ君が、慌てた様に言う。



「えっ!!?私の力が必要なのだろう?お前の為に、私が力を振るうに足るだけの、出来得る限りの軍勢を連れてきたぞ。」



『は?軍勢?』



アリ君の言葉が頭に入って来ないままに、


「えぇ?どういう事ですか!!?」


と、私は問いを発した。それに、応える様に、アリ君の背後から、執事の様な出で立ちの男が、優雅にステッキを付きながら、降りて来た。そして、アリ君に、恭しく一礼して、中に居るらしい人物を外へと誘う。



「さて、目的地でございます。お荷物共々、確かにお届け致しましたよ。」



珍しく笑顔のアリ君が、その人物に礼を言った。


「車掌、ありがとう。」



それは、とても慇懃な態度だった。だが、『車掌』と呼ばれた男は、意にも解さずステッキをクルリと1回転させる。



「構いませんよぉ。チケットさえ持っていらっしゃいましたら、何方でも、どちらへもお運びするのが、このデウスライナーの役目ですからねぇ。時の運行を守って頂けるならば、強力は惜しみませんよぉ。」



目の笑っていない笑顔で、『車掌』と呼ばれた男は言った。



「おう、お疲れな!で、軍師殿。俺らの標的は、アイツで構わねぇのか?」


そんな車掌の肩に手を置き、次に箱から降りて来たのは、『紅の傭兵団』のイシュトヴァーンさん。昔、短い期間ではあるが、一国の王だった事もある、元・アリ君の上司にして、現・凄腕の傭兵団団長である。



「ああ。イシュト。お前達は、楊の指揮で、アッチの方を頼む。私は、トリスの援護に回る。」



続いて、ぞろぞろと出て来たのは。剣匠卿マリオンさんと魔界一の剣豪を名乗るゴーガンダンテスさんに両サイドを挟まれた楊先生。心優しき狂戦士バーサーカーアーサガ・オニッツさん。戦友カイル・オニッツ君。友人セリカ皇帝から派遣されたらしい名のある将軍数名に、スサノオ君が推薦してくれた耶都の武将数名、他、総勢50名を超す、現世の最高戦力とも取れる、過剰戦力な団体だった。


「腕が鳴るなぁ♪楽しみだぜ!」


等と話す団体に、私が絶句していると、更に、私の脇に訪れた人影があった。


「トリスティーファ・ラスティン。約定の刻かどうか、確かめに来た。せいぜい死なぬ様励め。」


ダァト君である。


「ダァト君まで、来て頂けたのですね。ありがとうございます。でも、アリ君がいれば、私は大丈夫です。それでも、万が一の時には、宜しくお願いします。」


ダァト君に言うだけ言うと、私は、アリ君に向き直った。


「アリ君。私の伝言、届いたんですよね?」


アリ君は、


「ああ。届いたぞ。些か、びっくりはしたがな。」


悪びれもせずに、そう言った。



「思っていた以上に、援軍が過剰な気もしますが、来て下さって、ありがとうございます。アリ君。アリ君への伝言が必要が無かったら、そのまま帰る心積もりでしたから。届いて嬉しいです。でも出来れば、伝言が無効であってくれれば良かったのですが、やっぱり無理でしたね。」


耳を項垂れてしゅんとした私に、



『御父様が来ましたから、私のプロテクトが緊急解除されてしまったのです、お母さん。おとーさんは悪くないのです。』



と、パンドラから、幼子の声がする。



「御父様?どなたでしょう?しかし、あの軍勢は何ですか?アリ君。パンドラに持たせたチケットでは、アリ君しか来れない筈ですよね?」



「まぁ、話せば長くなるんだが、パンドラの言う御父様とやらが、ダァトで、この軍団は、軍師たる私が指揮する援軍、つまり私の『荷物』だな。」



「荷物…ですか。」



「荷物だ。」



その、アリ君の『荷物』さん達は、私がアリ君とコミュニケーションを取っている間に、さっさと戦闘を開始していたらしく。派手な剣檄や衝撃音、鍔競りの音等を鳴らして、あっという間に《電脳神・ゼウス》を屠ってしまっていた。



「オーイ!アリ!!!トリス!!!こっちは片付いたゼ!!?そっちは譲ってやるから、さっさと終わらせな!!!」



「せっかくだから、お前らの闘いを肴に一杯引っ掛けとくぜ♪」



「物足りねぇから、アイツらが終わるまで、腕試しと行こう。」


「応!」


等々、カイル君の明るい声が、辺りに響く中、魔神一柱では物足りないのを堪えながら、『荷物』の皆さんが宣う。役割を終えた『荷物』の皆さんは、各自で楽しみを見つけた様だ。




「はい!待たせてすみません。」


《電脳神・クラスター》を前に、私の中の絶望は既に払拭されていた。

何故なら、私の横には、私の最愛が居るのだから。



「全力で行きます!絶望や失望はしませんよ!だって、好きな人の前で、無様な自分は曝せませんもの!!!」




パンドラを手に、アリ君を背に、私は《電脳神・クラスター》に立ち向かう。

今までの不利が帳消しに成る程昂った自分を感じながら。





次回、漸く幽世編の結びでしょうか。

ありがとうございました。

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