26、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)第13階層 1
遅くなりました。
よろしくお願いします。
26、『アルゴス』さんへ~幽世第13階層 1
「雷号、轟天号。このあとはどうするのです?」
スサノオ君が、庵を収納しながら雷号さん達に聞いた。
「直ぐに報告に上がりたいところですが、我々の修練がてら、更に幽世深部へと潜る積もりです。中々来れる階層でもありませんし、式神の一つでも手に入れたいですね。」
察するに、彼らの行き先も、私達と被るらしい。否好意で着いて来てくれるみたいである。
指摘しようとすると、轟天号ちゃんに睨まれた。
「嬢ちゃん、勘違いしちゃあいけねぇぜ?俺らは、あんたの為に行くんじゃねぇ。俺らの為に行くんだ!」
とんだツンだった。黒猫に睨まれて、心が和む。萌えるなぁ。とか考えてたら、轟天号ちゃんは、雷号さんの肩にストンと飛び乗って、私から見えない位置に移動してしまった。残念。
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「良いですか?此処から先が、13階層への入口です。準備ができたら、突入しましょう。」
スサノオ君が、幽世の境の壁に穴を開けて、道を創る。
いよいよだ。
ドキドキしながら、私は足を踏み出した。
ぐにょんとした、独特な感触を潜り抜けると、辺りの風景が一変した。
うっすらと一面に輝く、蒼白い地平が、広がっている。空中には、キラキラとした細やかな欠片が、宙を舞っている。何処か幻想的で、でも無機質な、そんな空間だ。
「漸く来たのね。ロスタイムが多すぎるんじゃないの?遅刻よ遅刻!!遅すぎだわ!せっかくご招待したのに、レディを待たせるなんて不届きよ!!私を待たせる罪と、私の幽世を乱した罪は重いんだから!あんた達は、私、『ナビ子』が、電子に代わって成敗しちゃうんだから☆」
見慣れた緑色のショートカットの髪型、そして、聞き慣れたハイ・トーンの声。少女の形を模した姿が、目の前に現れた。
「貴女の幽世を乱す積もりは無かったのです。それに、貴女に招待される覚えも、私達には無いのですよ。」
第9階層で、ナビゲートして貰って以降、『ナビ子』には、お世話に成りこそすれ、彼女の邪魔をした覚えも、彼女の招待に応じた覚えも、私には無かった。
だが、彼女(ナビ子)にとっては違ったらしい。
「整然とした電子配列の支配する世界で、外から紛れた異分子、神々の欠片を宿せし者。通称、バグ。汝等は、この私の幽世では、『悪』その物。確実に排除出来る領域で、我が力と成す事は、正義!!」
ナビ子の感情?が高まるに連れて、幽世にノイズが走る。ザザッ。ザザッ。と、砂嵐の様な不快な歪みが、ナビ子の姿と形、存在を変質させて行く。
蒼白い世界が、赤く染まった。
『アラート!!!アラート!!!』
けたたましい警報音が鳴り響く。
『警告シマス!主神《電脳神・ゼウス》ノ、疑似人格《なび子》ノ変質ヲ確認。主神《電脳神・ゼウス》モードヲ起動シマシタ。』
いつか何処かで聞いた様な、理知的な電子音声で、事態を告げる警告が鳴る。
警報音が止み、砂嵐が治まると、其処には、黄金色の巨大な球体が出現していた。
此方が事態を把握する前に、目の前に現れた、元『ナビ子』だったモノが、徐に口を開いた。
『我が名は偉大なる《電脳神・ゼウス》!神々の欠片を宿せし者どもよ、我が力となれ!!!此度は虐殺の宴なり!』
その男とも女ともとれない声には、『ナビ子』だった時の怒りの感情が溢れんばかりに籠っていた。そんな様子を察知したのか、先程の理知的な電子音声が、穏やかに告げた。
『《電脳神・ゼウス》ノ過剰行動ニヨル負荷ニヨリ、幽世順行システムダウン。自己防衛システム《電脳神・クラスター》分離、自律行動ヲ 開始シマス。然ル後、ばぐノ排除ヲ実行シマス。』
ピコン。
と、甲高い音がした後、現れたのは。
巨大な黄金色の男性の頭部。
第9階層で助けてくれた、情報管理システム《クラスター》だった。
「成る程ナ。今回巡ってきた幽世は、同質世界を構成する多重層的構造の一連世界なのダナ。最下階層から上階層へと幽世を侵攻してきていたのか。で、その首魁が《電脳神・ゼウス》なる存在で、《ナビ子》の人格は、ソイツの隠れ蓑なのダナ!ここに来て、素が出てきたと見えるゾ!」
ルミラさんが、嬉々として状況を語る。
「そうか!主神格の《ゼウス》とやらのサポートが《クラスター》である、と。なぁ。ルミラ?これは、不味くないか?」
パチンと指を鳴らして、ダンテさんも状況を理解した模様。
「不味いナ!でも、幸運とも言えるゾ♪幽世からの異世界侵攻を未然に防げるんだからナ!それに、あれらを屠れば、強く成れるゾ♪」
あははははは、と、楽し気に嗤うルミラさん。
「いいねぇ。滾るぜ!!!」
ダンテさんにも、戦闘のスイッチが入ったのが分かった。
そう。この第13階層の幽世の主は、二柱の、超上位魔神だったのである。
ありがとうございました。