25、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)第12階層 2
よろしくお願いします。
25、『アルゴス』さんへ~幽世第12階層 2
「スサノオ君!?」
唐突に現れた友人に、私は驚きの声を上げた。
だが、彼と直接の面識の無い者には、唯驚くと言う訳にはいかなかかった様で、
「敵襲かっ!!?」
ダンテさんは身構えてしまっていた。
私は、ハッとして即座に仲間に、仲介する事にした。無用な争いは避けるべきである。
「ストップです、ダンテさん!!ルミラさん!!彼は敵ではありません!!私の友人です!」
私は、ダンテさんとスサノオ君の間に立ち塞がる様に立って、宣言した。
「何だ、トリスの知り合いか。びっくりしたゾ!」
滾らせた殺気を瞬時に引っ込め、暢気な声を上げたのは、ルミラさん。
「かなりの上位魔神の様だが、敵では無いのか。」
と、くるくると人差し指で二挺拳銃を回しながら、カチャカチャと格好良く武装を解除したのはダンテさん。
そして、
「ようこそ。僕の領域へ。僕は、弥都で武神をしているスサノオと言います。トリスさんの友人ですよ。」
ニコニコと笑いながら、穏やかな空気を纏って私達を受け止めてくれたのは、やっぱり頼りになる、友人のスサノオ君だった。
****************
柔らかな光の中、スサノオ君が囲炉裏のある板の間を出現させる。
「此方へどうぞ。立ったまま話すのも疲れますから。」
完全に敵意の無いことを示す為の演出らしい。
寒々しかった今までの旅で、初めての、暖かい空間が出来上がっていた。
「ありがとうございます、スサノオ君。せっかくなので、お邪魔させて頂きますね。」
向けられた好意を無下にするのは、私の流儀ではない。だから、有り難く私は靴を脱いで板の間に上がり、囲炉裏の周りに用意されていた座布団に座った。座には、ご丁寧に、玉露とお茶菓子まで用意してあった。スサノオ君のお宅にご厄介になっていた時と同じように。
「わぁ♪水羊羹に緑茶じゃ無いですか!スサノオ君、頂いちゃっても、良いんですか!!?」
わざと明るく、私は言った。
スサノオ君は、自分も座に着くと、ニコニコしながら、一同に話し掛ける。
「勿論良いですよ、トリスさん。それから、皆さんもどうぞ、座に着いてくださいね。あ、毒とか仕込んではいないですよ?安心してくださいね。むしろ…。」
「うぁぁぁぁ。此れはまた美味しいですねぇ。疲れが取れる様です。」
「さすがトリスさん。それらは、私に捧げられた、神力の籠った一品です。こんな幽世の深部迄回復も無く潜って来られて、トリスさん達、お疲れでしょう?僕からの細やかな応援ですよ。」
私達の旅路を見ていたらしいスサノオ君は、柔らかく笑うと何でもない事の様に言った。
「有難いのだ。ワタシも、結構ギリギリだったからナ。トリスを見習って遠慮無く頂くゾ!」
ルミラさんは、スサノオ君の好意が魔神としては破格な事を察して、私に続き、座に着いてお茶を飲んだ。
「トリスがそんなに警戒せずに居るって事は、安全なんだな?」
私やルミラさんに合わせる様に、ダンテさんは警戒しつつも、お茶を飲む事にした様だ。
そんな様子に、同じように座に着いて、恐々とお茶を飲んでいた雷号さんは、スサノオ君に思う所があったらしい。
「スサノオ様、人間に肩入れし過ぎではありませんか?」
私達への持て成しに、軽く異義を唱えた。
「雷号。構わないんですよ。彼女らは、唯一神アーの信仰深いハイルランドの出身ですが、それぞれが、単なる唯一神アーへの信仰に縛られない、柔軟な思考をしています。僕は確かに、ハイルランドでは邪神や魔神扱いされますが、彼女らは、地域が変われば『神』の定義が変わることを理解しているんですよ。それにね、それがなくたって、僕から見れば、彼女らは、『武』則ち『戦い』に対して、並々ならぬ信念があります。それは、宗教を越え、武神の加護を得るのに相応しいレベルのモノです。僕が手を差し伸べるのに、十分な位ね。」
スサノオ君の言葉に、雷号さんは、フゥと溜め息を漏らすと、
「成る程。スサノオ様を邪神だとか、魔神だとか言わないだけでも、良しとしますか。」
と、納得していた。
そんな雷号さんの様子を、目を細めながら眺めていたスサノオ君。ふと、雷号さんに話し掛けた。
「ところで、雷号。君は確かに、優秀な陰陽師で、式神として、僕ら『神』の力を借りる立場であるのは、間違いない。そして其処には当然ながら、対価が発生する。今回は、姉上の代理として、此方(神様)からのお願いで行動して貰った訳だけど。判定役として、僕が、力を貸したよね。だから、君には神の力を借りるべく、対価を支払う義務が発生するわけだ。そこで提案だ。僕の願いも、一つ聞いて貰おうかな。難しい事じゃあ無いよ。トリスさん達に、力を貸してやって欲しいんだ。」
ニコニコと、良い笑顔のスサノオ君。
「スサノオ様。アマテラス様への報告は此方でしますから、スサノオ様が、彼女らの守護に回られては如何ですか?」
「そうだぜ!!?ぽっと出の俺らが、嬢ちゃんの手助けをして良いのかよ!?俺らは、喚ばれたら駆け付ける、位の支援が妥当じゃ無いのか?」
ペロペロと毛繕いしながら、轟天号ちゃんが言う。その言葉を待っていた、とばかりに、スサノオ君が、残念そうに言った。
「仕方がありませんねぇ。雷号や轟天号の言う通りかも知れません。人の力を介して助力を能えようと思って居ましたが、こんな幽世の深部ですし、僕が、支援するのも、致し方無いですよね。」
スサノオ君は、神様としての越えられない一線を守りつつ、友人を手助けするという目的も果たせるように、雷号さんと轟天号ちゃんの口を借りて、理を調えたらしい。
「そう言う事です、スサノオ様。」
「分かりました。では、雷号達に代わり、此処から先の階層へは、僕も守護者として、お供します。トリスさん。良いですよね。」
こうして、幽世の更なる深みへの道連れとして、心強い味方が増えたのです。
お読み頂き、ありがとうございました。
今回も、難産でした。
拙い文にお付き合い頂き、感謝します。