24、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)第12階層 1
よろしくお願いします。
24、『アルゴス』さんへ~幽世第12階層 1
煌々と光る足場に、私達は、導かれる様に降り立った。
足下の光源以外は一面の闇が広がっている。
他のモノは何一つ存在しない、静寂が、其処にはあった。
コツコツと、足音が響く。
暗闇の中、やって来る足音へと視線を向けると、肩に黒猫を乗せた、一人の青年が、此方へと向かって来るのが見えた。
彼らが、私達の目の前に来ると、青年の肩からトンっと、黒猫が降り立った。
彼は、私達を見上げると、目を細めながら口を開いた。
「霊鳥ヤタガラスを盗んだのは、あんたらで間違いないか?」
突然の申し出に、私は驚きながらも、黒猫ちゃんの愛らしさにクラクラしていた。
「にゃんこさんだぁ♪」
私は即座に、口をきく、一般的には不思議な黒猫を抱き上げると、猫の気持ち良くなるポイントを的確に撫でながら、自己紹介をする事にした。
「にゃんこさん、そして、飼い主さん、はじめまして。私はトリスティーファ・ラスティンと言います。霊鳥ヤタガラスさんがどんな存在なのか解りませんが、よろしければ、お話しを伺ってもいいですか?」
ぶっきらぼうな黒猫ちゃんは、喉をゴロゴロと鳴らしながらも、両前足で突っぱねる様に私から逃れようとする。その様もまた愛らしくて、私は余計に黒猫ちゃんを構い倒す。
「止めろっ!!猫扱いすんなっ!」
黒猫ちゃんが怒鳴った。
しかし、残念ながら、数多の猫好きさん達を統括するサークル、『猫好き同盟』の副会長である私に、猫を愛でないと言う選択肢は無い。お怒りな様子もまた、私には、美味しいご褒美である。
「その姿である限り、無理ですね。私には、貴方は可愛いにゃんこさんです。ウフフフフ…ここですか?ここが気持ちいいんですか!!?」
スリスリと頬擦りしていると、困った様に、飼い主の男性が話し掛けて来た。
「済まない。そろそろ、轟天号を解放しては貰えないだろうか?」
飼い主さんからの制止が掛かったので、過剰な猫っ可愛がりを止める。
「この子、轟天号ちゃんって言うんですか。良い名ですね。それで、貴方は?」
「私は雷号。弥都で陰陽師をしている者だ。」
「弥都の方なのですね。」
「実は、弥都の最高神、アマテラスの使者である霊鳥ヤタガラスの卵が一つ、ここ10年ほど、行方不明になっているのだ。私は、アマテラス神からの依頼で、その、行方不明のヤタガラスの追跡調査をしている。」
「勉強不足ですみません。その、ヤタガラスってどんな姿何ですか?」
「霊鳥ヤタガラスとは、白烏で三本足の霊鳥で、太陽神アマテラスの御使いだ。ところで、君は、本当にわかっていないのか?」
「????何がです???」
「いや、君自身の事なのだが。」
雷号さんの苛立ちの理由も分からず、私は混乱する。
轟天号ちゃんが、本気で嫌がってきたので、残念だけど、しぶしぶと彼を足下に下ろす。そして、いそいそとロイヤル猫缶を準備する。飲み水も用意した。
「轟天号ちゃん、ごめんなさいねぇ。お詫びに、どうぞ。」
誠意を込めて、轟天号ちゃんをもてなす。
「なぁ、雷号。」
はぐはぐと可愛らしく猫缶を食みながら、轟天号ちゃんは、雷号さんに語り掛けた。
「ああ、轟天号。この子は、敵では、無いな。」
私の方を見ながら、雷号さんも、何やら同意した。
「うぇ!!?私、敵に見られてたんですか!?」
ペロリと口元を舐め上げながら、轟天号ちゃんがさらりと爆弾を投下する。
「正確には、何か情報を持って居るのではないかと疑っていた。」
轟天号ちゃんの捕捉をするように、雷号さんは続ける。
「私達としては、ヤタガラス誘拐の現行犯で、君らを忠滅する覚悟だったんたが…。」
じっと此方を見る二人(というか一人と一匹)。
「霊鳥ヤタの気配も此処にあったしな。」
雷号さんの肩に飛び乗りながら、轟天号ちゃんが言った。
「だが…君の行動を見る限り、違う様だ。反応は、この幽世で間違いないのだがな。」
掌に収まる位の大きさの円盤を視ながら、雷号さんは独り語散る。
「ああ、良かった。ヤタガラスって言うのが何かは知りませんが、ルミラさんの使役獣の霊鳥ヤタさんならば知っていますよ!」
「「ソイツだ。」」
「えっ!!?ルミラさん、ヤタさんって、霊鳥ヤタガラスなのですか?」
「ちょっと見せて貰っても良いだろうか?」
「ルミラさん、どうなんですか?」
と振り返ると、ヤタさんとルミラさんは、わたわたとしながら、何やら相談をしていた。
「ヤタ、お前は、ワタシが霊鳥ヤタガラスの卵を弥都で拾って育てたのだよな?これは、不味いのでは無いのか?」
「ルミラ。俺は産まれたときからあんたの使い魔で、使役獣だぜ?霊鳥ではあるが、主はルミラだぞ?」
こそこそとしていた密談も意味を成さず、雷号さんは、ヤタさんをじっと霊的に視ると、ははぁ、と呟いた。
「成る程。確かに、元々は零れ落ちた霊鳥ヤタガラスの卵だったモノが、ルミラさんと仰ったか。貴女の手に渡った事で魂の伴侶たる使い魔になり、使役獣としての存在に変化したモノが、霊鳥ヤタなのだな。」
そう言うと、雷号さんは、虚空に向かって何者かに呼び掛けた。
「こういう事だ。『ヤタ』は、ルミラの使い魔であり、アマテラスの使者『霊鳥ヤタガラス』ではない。存在その物が、本来のモノと既に別物である。と、認識されている。これで、良いだろうか?お目付け役殿。」
雷号さんが、じっと見詰めていた虚空から、ストンと人影が降りて来た。
その方は、神々しくも、強いオーラを纏い、武神としての格の高さを顕現した、がっしりとした出で立ちだった。
「結構。姉上には、私からも報告を上げておきましょう。雷号。ご苦労だった。そして、お元気そうで何よりです。トリスさん。」
ニッコリ笑って、私の名を呼んだのは、三ヶ月前にお世話になった、あの、スサノオ君だった。
ありがとうございました。