22、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)第10階層 2
遅くなりました。
22、『アルゴス』さんへ~幽世第10階層 2
「あー… それなんだがな 、トリス。ワタシが考えるに、手っ取り早く支配者を倒したいなら、方法が無くもないんだ。」
頬をポリポリと掻きながら、ルミラさんは、事も無げに言った。
「どういう、事何ですか?」
私が、訝しげに尋ねると、彼女は、地面に図を描きながら説明を始めた。
「以前にも話した、暗号については、覚えているか?」
「ええ。幽世を構成しているんでしたっけ?」
「うむ!そうだゾ♪」
「それがどうかしましたか?」
「暗号の読み方、つまり、その世界…この場合『幽世』だな。そこ独自の法則さえ解って仕舞えば、ある程度自分の自由に場を変則させる事も可能なんだ。」
「どういう、事ですか?」
「例えば、ちょっとだけ空中に空気の足場を作ったり、ジャンプする高さを少しだけ高くしたり。こう、自分の好みに世界を変更する事さえ出来るって事ダゾ♪勿論、それなりの危険も伴うがナ?」
「危険ですか?」
「そうだゾ。その幽世を創って維持している神からしたらな、自分の意志を無視して自分のテリトリーを荒らす奴は、目障りな害虫と同じダロ?排除する為に狙われる事になるんだ。そしてナ、ここからが重要なんだが。」
ルミラさんは、一度言葉を区切ると私の眼を見て言った。
「深い幽世ほど、その暗号は難しく、支配者も、より強い。自分の幽世の中にいる魔神は、完全に本来の力を出せる分、現世とは別格の強さを持つんだ。しかも、自分の有利な地形効果の中に存在して。」
「それと、手っ取り早い方法と、どう繋がるんですか?」
「ワタシ達が暗号を読んで、乱して仕舞えば、支配者は怒って攻撃を仕掛けて来るって事ダゾ♪勿論、此処まで深い階層だと、支配者の強さは半端無く強くなってるって事だナ!」
あはは!愉快ダナ♪
とばかりに、けらけらと笑いながら、ルミラさんは言った。
「それって…」
私が嫌な予感を感じて、ルミラさんへと視線を移すと、彼女は、ニヤリと嗤って、立ち上がった。
「まあ、やって見せた方が早いナ♪」
そう言った彼女の長い髪が、赤く発光しながら艶めき、赤い瞳が、残光を残しながら、忙しなく上下左右、縦横無尽に行き交う。指が何かのリズムを刻む様に激しく蠢いた。
ルミラさんは、私に見えない何かを見て、触れて、書き換えている様だった。
否、先程の説明から推測するに、私には見えていない『暗号』を、見て、触れて、書き換えているのだろうと思われた。
現に、ルミラさんがその不可思議な行動を取り始めてから直ぐに、正面の中空3メートル辺りの虚空に異変が現れた。
四角い緑色の、小さくて無数の発光体が、壁紙から剥がれ落ちるように、もろもろと零れ落ちながら、空間に穴が空いていっているのだ。
立体な筈の景色が弛んで、向こう側の風景が歪んで見える。
そして、その歪みから、紅くリズムを刻みながら発光する、大きな球体が、侵入してきた。
その姿は、少し前に、第9階層でお世話になった《クラスター》にそっくりだった。
出会った時と同じ声で、同じ調子で、彼は言った。
『幽世第10階層デノ、異分子ニ因ル暗号への違法改造ヲ確認。今管理システム主防衛プログラム《クラスター》発動。異分子ノ排除及ビ環境ノ修復ヲ開始。上位存在カラノ承認ヲ確認。実行シマス。』
平坦で、不穏な発言をした、球体が金色に光る。
「トリス!!!見た目に騙されんじゃねぇ!ソイツは、さっきのヤツじゃあねぇ!!ここの『支配者』だ!」
ぽけらっとしていた私に、ダンテさんが、激を飛ばす。
「そうだゾ♪油断は大敵ダ!!」
「こんな事態を引き起こしといて、良く言うぜ、ルミラ!!!」
「だが、手っ取り早いダロ?ダンテ!!!」
目の前で、臨戦態勢を取る二人に負けじと、霊剣アストラルを構えながら、私は気を引き締めた。
「悪いナ、トリス!!!びっくりさせたお詫びに、一撃でワタシが片づけるゾ♪」
ルミラさんが、問答無用で、16翼の朱い斬擊を《クラスター》へと叩き付ける。
《クラスター》は、呆気なくパラパラと崩れ落ち、それと同時に、大地がガラガラと崩壊を始めた。
「ちっ。ルミラ!楽しい所を独り占めすんなよな!!」
「あはははは。悪いなぁ、ダンテ!きっとまだまだ強敵は待っているゾ♪それにな。リソースは残して置かないと、きっと先が続かないと思うゾ♪」
幽世の狭間を潜る感覚の中で、彼等は実に楽し気に、そんなことを話していた。
ありがとうございました。
サクッと次の階層に移行します。
次回は、幕間のあの人との関係へと繋げられる、筈です。
遅々として進まなくて、申し訳なく思います。