21、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)第10階層 1
お久しぶりです。
短いのですが、どうぞよろしくお願いします。
21、『アルゴス』さんへ~幽世第10階層 1
ナビ子が消え、けたたましい警報音が止まった後、荒野に立ち尽くす私達に近づく疎らな人影があった。
恐らく支配者だと思われるナビ子によって操られているであろう、罪なき人々を虐殺するのは、私の良心の望む処では無い。それが正当防衛だったとしても。
だから、私達は、人々から逃げる様にして、荒野を駆けた。
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人々から逃れ、荒廃した大地の裂け目に身を隠しながら、私は考える。
自分の持ち得る手段と、有効な活用法について。
まず、私は、『時間と時空と次元を自在に行き来できる特別な列車のチケット』を3枚持っている。アリ君と共に、かつて行った冒険の報酬だったのだが、詳細については、今は語らない。いや、『語れない』と言った方が正しいのかも知れないが。もし、機会があれば、いつか話したいと思う。
次に、私の武器は、沢山ある。その中でも、銘の在るものの代表が3つ。次元を裂ける霊剣・『アストラル』。黄金外套王の転生者の証『名も無き王の剣』(ナーズィル・イェーガー)。旅行鞄の形をした記憶媒体装置『パンドラ』。この内、霊剣・『アストラル』と『パンドラ』は、私の《神々の欠片》(ピース)の一部である《魔器》でもあり、意志を通わす事が出来る。
現在の状況を考えると、ナビ子は、完全なる敵であり、これから先の道程は、大ボスクラスの死闘の連続になるに違い無い。
だとするならば。
私は、そろそろ保険を掛ける時期なのかも知れない。
後退する意志が無い以上、戦いは激化するのだ。
決意を固めると、私は、手早く手紙を認めた。
これからの事を、彼に託す為に。
それから私は、おもむろにパンドラを地面に下ろした。次に、パンドラに手を翳し、幾つかの操作をした。そして、彼女に話し掛ける。
「起きなさい、『パンドラ』。」
すると、パンドラはぽわんぽわんと光を溢しながら、その姿を幼女の姿へと変えた。稼働時間を反映して、3歳くらいの姿をしている。すっと目を開いた彼女は、私のイメージした通りに、私とアリ君の姿を模していた。
これなら、大丈夫だろう。
私は、彼女の両肩に手を乗せ、目を合わせながら、彼女に語り掛けた。
「いい。【パンドラ】。私は、これから、あなたを、アリ君、アリス・トートスの元へと送ります。彼は、私の番よ。この意味、分かるわね?…私はあなたに、運命を託します。あなたの記憶等には、プロテクトを掛けておきます。必要な時には、あなたの記憶が開放される様にしてあるわ。…あなたの経験が、いずれ私を、皆を助けてくれるはずよ。だから、彼の下で、安心して色々学んで来なさい。行っておいで。」
ぎゅっとパンドラを抱き締めて、
「私の番に宜しくね。」
と囁き、私は、2枚のチケットと、手紙、それから、身分証の代わりに、『名も無き王の剣』(ナーズィル・イェーガー)を持たせ、彼女を例の列車に乗せた。
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「良かったのか?アイツはお前の、一番手に馴染んだ武器なんだろう?」
一連の私の行動を見守っていた、
ルミラさんとダンテさんが、心配そうに此方を見ていた。
「だからこそ、ですよ。武器性能に頼ってたら、目的地まで行く覚悟を見せられ無いでしょう?それに。一番辛い時に、好きな男に良いトコ見せたいじゃないですか。」
晴れやかな心で、私は彼等に向き合った。
「さぁ。準備も出来ましたし、迎え打ちましょうか。ナビ子と、この幽世の支配者を倒しに!」
ありがとうございました。