[幕間:sideサラ]
幕間:二話目。
書くにあたって、過去の分を加筆修正しました。
パンドラ初登場回です。
[幕間:sideサラ]
私の名前は、サラスティーファ・ラスティン。親しい人は、私をサラと呼びます。
私の一族、ラスティン家は、貴族。位階は子爵です。
武器防具が大好きな一族で、巷では、有名なコレクターとして名を馳せている…らしいです。
しかし、その実態は、好きなことや好きなものに対しての欲望に忠実なだけの、極普通の家庭だと、私は考察します。
好きが高じて、父と母は、自作で、格好いいと思う機能やフォルムをした作品を作り出し。長兄は魔導書に傾倒し。長姉は魔導具を愛し。次姉は武器を偏愛するあまり、数多の武具を使いこなそうと鍛練し。次兄は発掘品の収集をライクワークにしているだけなのです。そういう私は。武具好きが高じて、一通りの武具や防具に精通し、あまつさえ『武具や防具から直接その情報を聞き出せる』と言う特殊能力に開眼していたりするのですが、普通ですよね。
****************
さて、暫く前に、母から呼び出しを頂き、夫のギル様とハイルランドの実家に滞在していた時の事です。
トリス姉様からの預かり児だと言う、トリス姉様とアリ義兄様に外見がそっくりな子どもに会いました。
その児、『トロメア』に触れて、解ったのです。
彼女が、湧水亭で、カイル・オニッツさんの方を見て『親父殿』と、アーサガ・オニッツさんの方を見て『師匠』と呼んだ理由が。
彼女は、オニッツ親子を見ていた訳ではありませんでした。
彼らの武器達に対して、そう呼んだのです。
何故ならば。
彼女の意識がぼんやりとしていた頃。武器達の間では、アーサガさんの名剣『リンケ』は、武器としての武勇を、誇らしげな噂と共に語り囃されており、武器としての貫禄を、彼女に叩き込んでいた様です。
そして、カイルさんの愛剣『マクスウェル』は、凍える大地での旅路の間、武器としての在り方を彼女に伝授していた様なのです。それはもう、父親の様に。
私には、その情景が、ありありと見えました。
そして、得心が入ったのです。
彼女の事について。
****************
彼女がもたらしてくれた情報は、多岐に渡ります。
ですが、少なくとも。
彼女は、『パンドラ』の自我、その物。
つまり、パンドラが擬態して、自立行動している姿が、『トロメア』と言う子どもだったのです。
しかし、残念ながら、私には、『パンドラ』の創造主の事までは読み取れませんでした。『高位過ぎる存在の関与』は読み取れたのですが、全てを知るには力及ばず、私では表層意識と、加工風景しか、読み解けませんでした。
ですが、彼女『パンドラ』は、『武器』である前に、『記憶媒体装置』です。お母様が仰っていた通りです。
プロテクトが掛かっていて、一部しか解りませんでしたが、私には、『パンドラ』が送られてきた背景が見えました。
トリス姉様は、これから危機に陥る様です。
その危機を救うのは…。
トリス姉様は、予期していた様です。
いずれ、味方が必要になる事を。
その為の準備期間が、必要な事を。
そして、誰に、助けを求めるべきなのかを。
私が禁忌に触れずに、アリ義兄様に話せる事は、そう多くありません。
ですが、大丈夫です。
トリス姉様は、必要になったら『パンドラ』の記憶に掛けた封印を解除出来る様に、細工してありました。
きっと、そろそろ…。
****************
そこまで考えた時です。
後ろから、私の肩を掴む方が居ました。
「おい、ジャスティンはいるか?」
禍々しい気配に、体が震えます。ですが、彼には逆らえません。
彼は、お母様や、何より、トリス姉様に縁の深いお方だからです。
「はい、母ですね。こちらです。」
震えながら、母様の工房へ、その方を案内しようとした、その時です。
ヒトガタを取っていた『トロメア』ちゃんの、擬態が、一瞬で、外れました。
「御父様。どうして、此方に?予定では、まだ、私の封印は解けない筈ではありませんか!?もしや、主に異変でも?」
姿こそ『トロメア』ちゃんでしたが、彼女の口調が急に大人びました。
驚きに目を見張って居ると、ジャスティンお母様がやって来ました。
お母様は片膝を着き、その方に恭しく語り掛けました。
「ダァト様。如何なさいましたか?わたくしの下へ御出でになるとは、恭悦にございますが、何か異変でも?」
その方、異界の神ダァト・ナイアール・アーは、言いました。
「予定外の事態だ。パンドラ…。既に真名がトロメアに換わっているな…。まぁいい。ジャスティン。お前の娘の危機だ。パンドラの能力を借りるぞ。」
そうして。『トロメア』としての『パンドラ』が、約束の時を迎えたのでした。
覚えていますか?
同窓会の回に出てきた魔神さんです。
やっと再登場させられました。
お読みくださり、ありがとうございました。