[幕間:sideアリ君]
[幕間:sideアリ君]
『危なくなったら、必ずアリ君を頼りますから。だから…、どうか、アリ君は、『私』の楔に成ってください。』
真剣な瞳をして、私を見上げる、彼女。
出会った頃には、考えられない位、強い意志を宿しつつも、未だに、生命力に溢れるとは言い難い、彼女。
何時にも増して、真摯な願いをする彼女を前に、私は何時も通り、彼女と共に旅立つのだと思っていた。彼女の願い通り、彼女の暴走や衝動を止める役として。
『では、私も…』
そう思って、私が、同行をしようと言いかけると、慌てたように、彼女は言った。
(やめろ。)
『待ってください。アリ君。今回は、アリ君と、別行動したいんです。』
彼女がそう私に告げた時、私は不安を抱いた。
彼女が消えてしまいそうな、漠然とした衝動に駆られたのだ。
彼女の覚悟が、彼女の死を連想させて、胸が騒いだ。
『どういう事だ!?』
長年の想いが成就して、念願叶って私と恋人になったばかりだと言うのに。彼女は、その安寧を楽しむ事なく、旅立つのだと言う。
『アリ君。私は、幽世第13層の更に奥、奈落の手前に封じられていたらしい、アルゴスさんの所迄向かいます。命の危機にも見舞われるでしょうし、何より、私が心から惹かれる奈落があります。私は、現世への強い想いがなければ、消滅を願う自分に負けて、奈落へ下って仕舞うでしょう。だから、アリ君。私の最愛にして、最高の軍師のアリ君にお願いです。私が呼ぶ迄、待っていてください。』
(行くな!)
キラキラと輝く瞳を前に、好きな女の願いを踏みにじる事が出来るだろうか。少なくとも、私には無理だった。
だから、私は、彼女に、こう約束させた。
『いいか、トリス。奈落にだけは、絶対に行くなよ?危なくなったら、直ぐに引き返すんだぞ。』
彼女は、花が綻ぶ様に笑うと、
『ありがとうございます、アリ君。約束します。絶対、奈落になんか、行きません。』
と言って、指切りを交わした。
(帰って来い!)
『アリ君。私の戻って来る場所は、|《貴方の腕の中》(ここ)ですから。』
(待て…!!)
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何時もの夢。
アイツが旅立ってから、最後に交わした場面を何度も夢に見る。
繰り返すその度に、私は彼女を止めようと悩む。変えようのない過去を、改変しようと心が騒ぐ。
意識が覚醒するに従い、胸の辺りに重さを感じる。
「おとーさん。泣いちゃ、メ、なのよ?」
…。
そうだった。
今の私には、トロメアがいる。
私と彼女を繋ぐ、大事な娘。
「大丈夫だよ、トロメア。」
ポンポンと、トロメアの頭を撫でてやる。
心がざわついて、心配で堪らない気持ちはあるが。私は待とう。それが、私を信じてくれている、トリスとの約束だから。
だから。早く戻って来い。トリス。私は、現世に居るぞ。
幕間、続きます。
ありがとうございました。