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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
[幕間:現世では。]
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[幕間:sideアリ君]

[幕間:sideアリ君]







『危なくなったら、必ずアリ君を頼りますから。だから…、どうか、アリ君は、『私』のくさびに成ってください。』


真剣なをして、私を見上げる、彼女。

出会った頃には、考えられない位、強い意志を宿しつつも、未だに、生命力に溢れるとは言い難い、彼女。


何時にも増して、真摯な願いをする彼女を前に、私は何時も通り、彼女と共に旅立つのだと思っていた。彼女の願い通り、彼女の暴走や衝動を止める役として。


『では、私も…』


そう思って、私が、同行をしようと言いかけると、慌てたように、彼女は言った。


(やめろ。)


『待ってください。アリ君。今回は、アリ君と、別行動したいんです。』


彼女がそう私に告げた時、私は不安を抱いた。

彼女が消えてしまいそうな、漠然とした衝動に駆られたのだ。

彼女の覚悟が、彼女の死を連想させて、胸が騒いだ。


『どういう事だ!?』


長年の想いが成就して、念願叶って私と恋人になったばかりだと言うのに。彼女は、その安寧を楽しむ事なく、旅立つのだと言う。


『アリ君。私は、幽世かくりよ第13層の更に奥、奈落ならくの手前に封じられていたらしい、アルゴスさんの所迄向かいます。命の危機にも見舞われるでしょうし、何より、私が心から惹かれる奈落ならくがあります。私は、現世への強い想いがなければ、消滅を願う自分に負けて、奈落ならくへ下って仕舞うでしょう。だから、アリ君。私の最愛にして、最高の軍師のアリ君にお願いです。私が呼ぶ迄、待っていてください。』



(行くな!)


キラキラと輝く瞳を前に、好きな女の願いを踏みにじる事が出来るだろうか。少なくとも、私には無理だった。

だから、私は、彼女に、こう約束させた。


『いいか、トリス。奈落ならくにだけは、絶対に行くなよ?危なくなったら、直ぐに引き返すんだぞ。』


彼女は、花が綻ぶ様に笑うと、


『ありがとうございます、アリ君。約束します。絶対、奈落ならくになんか、行きません。』


と言って、指切りを交わした。


(帰って来い!)



『アリ君。私の戻って来る場所は、|《貴方の腕の中》(ここ)ですから。』




(待て…!!)



****************


何時もの夢。

アイツが旅立ってから、最後に交わした場面を何度も夢に見る。

繰り返すその度に、私は彼女を止めようと悩む。変えようのない過去を、改変しようと心が騒ぐ。



意識が覚醒するに従い、胸の辺りに重さを感じる。



「おとーさん。泣いちゃ、メ、なのよ?」




…。

そうだった。

今の私には、トロメアがいる。

私と彼女を繋ぐ、大事な娘。



「大丈夫だよ、トロメア。」


ポンポンと、トロメアの頭を撫でてやる。



心がざわついて、心配で堪らない気持ちはあるが。私は待とう。それが、私を信じてくれている、トリスとの約束だから。


だから。早く戻って来い。トリス。私は、現世ここに居るぞ。







幕間、続きます。

ありがとうございました。

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