20、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)第9階層 11
20、『アルゴス』さんへ~幽世第9階層 11
ドクン。
一つ、大きな鼓動の音を、耳の奥で聞いた様な気がした。
次の瞬間、私は、数多の文字や映像といった情報の波に飲まれていた。
身体を通り過ぎる様に、様々な事柄が、情報が、『私』と『彼』との間を行き来する。躰中が、情報で埋め尽くされる様な時間が過ぎる。それは、体感的には永劫の刻。けれども、外観的には一瞬の刻。
身動きの出来ないその刹那に、主導権を握って居たのは、『彼』で。
私が、情報の閲覧をしている最中、『彼』もまた、私から情報を読み取って居たらしい。
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気が付くと、私は、一人荒野に立っていた。
遠くに聳え立つ、高い高い大地を見上げながら。
(…此処は、一体、何処なのでしょう?)
途方に暮れる中、私は、この幽世の案内人であるらしい『ナビ子』を呼び出す事にした。
「『ナビ子』?此処は、一体、何処なのですか?同行していたルミラさんと、ダンテさんは、何処なのですか?」
すると、ピコン!と軽快な音と供に、緑色の髪をした女性が現れた。
『はいはーい♪『ナビ子』ダヨ♪異分子は、排除なの♪ご主人様と、危険因子は、排除機構にポイされたんダヨ♪此処は…』
いつもの様に明るく告げる彼女の言葉を遮って、ザシュッと、『ナビ子』が、見慣れた紅い残光に掻き消された。
振れる『ナビ子』の姿。
(あれ?『ナビ子』って、使用者にしか見えないんじゃなかったですか?)
そんな疑問を思い浮かべる、私の上空の虚空から、『ナビ子』へと攻撃するルミラさんと、ダンテさんが現れた。
「「無事か!?トリス!」」
緊迫感溢れる二人の問いに、私はのほほんと答える。
「え、あ、はい。無事ですが…お二人は、何処から現れたんですか?」
「それは後で良い!トリス。そいつは敵だ!」
「ソレはさっきまでの『ナビ子』と違う存在だゾ!!」
そんな私を、油断無く後ろに庇いつつ、ルミラさんとダンテさんが、戦闘体制に入っていた。
そんな中、フォンと浮かび上がった『ナビ子』。
『ご主人様♪行きなりの攻撃行動、酷いですよぅ♪この幽世でも、排除対象になりたいですか♪』
彼女は、異様な明るさで、私に話し掛けてきた。
「トリス!交戦前に、端的に説明するゾ!」
ルミラさんの教えてくれた事によると、以下のような事が起こって居たらしい。
****************
私が《クラスター》へ返事をした、その後。
《クラスター》はルミラさん達に告げたらしい。
『異変探知。未来よりの来訪者と確認。排除機構の要請により、排除を承認。実行中。完了しました。』
そして、砂嵐に飲まれる様に、私の姿が掻き消え、次いで、ルミラさんとダンテさんも、赤い光の渦に飲まれたのだと言う。
私と故意に引き離された二人は、自身の『ナビ子』を即座に起動したらしい。
辛うじて通じたノイズまみれの『ナビ子』の情報から、二人は、第9階層と第10階層の次元の狭間に、自分たちが追い出された事を確認する。そして、私が先に単独で第10階層へと跳ばされた事を知るや、通信の通じる内に、私の位置を特定させて、次元の壁を無理やり突き破って登場したのだそうだ。
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「え?この『ナビ子』、ルミラさん達にも見えているんですか!?」
「ああ、見えている!さっきまでのソイツと、同じと思うな!」
俯いて、私を騙すからくりを見破られた事を悟ったのか、落ち込む様にしなだれていた『ナビ子』は、小さな声で、クスクスと笑い出した。その声は、次第に大きくなり。
『あははははは。』
哄笑となって、荒野に響いた。
一頻り嘲笑った彼女は、悪戯が成功した妖精の様に楽しげに、ピコン!と、世界中に告げた。
『愉しいなぁ♪全世界みんな★ナビ子からのネットワーク、緊急通信ダヨ♪只今、異分子が発生したゾ☆さぁ、異分子狩りの時間の始まりダネ!参加しない子も、勿論排除するから、張り切って異分子どもを排除するんだヨ♪』
赤い光が明滅し、私達3人の映像が、『ナビ子』の手のひらに浮かぶ。
「!?なっ…何なの!?」
ビービーと、けたたましい音が鳴り響き、否応無く危機感を煽られる。
そんな空気を作り上げて、ニタリ。と嗤うと、
『さぁ♪ご主人様♪世界中が敵に回ったヨ?楽しい逃走劇を期待しているゾ☆』
ブォンと言う音を残して、『ナビ子』は消えた。
ありがとうございました。