19、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)第9階層 10
19、『アルゴス』さんへ~幽世第9階層 10
『ご主人様。此方が大図書館になります☆』
そう案内されて、踏み込んだ扉の中に、大図書館はあった。
『ナビ子』に案内されて、辿り着いた大図書館は、その名の通り、とても広大な建物だった。但し。外見が、ではなく、内側の空間が、である。
外見は、とても高い建物で、沢山のドアが付いている、集合住宅の様な感じである。大図書館は、その、無数にある扉の一つを潜った先にあった。
訝しげに思いながら、中に入ると、私達は、絶句した。
確実に、外側と内側の容量に差があるのだ。
何故なら、扉から考えられる内側の広さは、せいぜいが、5メートル×15メートルくらいの間取りに思える配置。
それが、中に入ると、先ず、地面が無い。天井も、壁も無い。私達は、宙に浮き、無数の書架が上へ、下へ、奥へ、手前へと、何処までも広がり、勝手に動いている様に見える。
「…『ナビ子』。ここで、間違いないのですか?」
私の知っている図書館とは、余りにも違う光景に、思わず、私は疑問を口にした。
ピコン!と現れた『ナビ子』は、にこやかに答えた。
『やだなぁ、ご主人様。当方は自立支援型ナビゲーションシステム『ナビ子』ですよ?業務は、完璧なのです☆ミ』
決めポーズまでされてしまい、私は言葉に詰まる。
私が、呆気に取られてフリーズしている間に、ルミラさんは、いち早く状況に適応した様だ。
「おお!この端末に触れると、内部に圧縮してある情報が脳内に流れ込むのだナ♪凄いゾ!」
謎の言葉を話しながら、板状の盤面に指を滑らせている。
「あの、『ナビ子』?ここは、図書館なのよね?」
私は、ルミラさんを無視して、『ナビ子』に頼る。
『肯定です☆ご主人様♪』
図書館であると言う事を確認すると、私は、当然の要求を口にした。
「司書さんは居ますか?私一人では、必要な情報をピックアップするのに時間が掛かりすぎます。よって、リファレンスサービスをお願いします。」
『肯定です☆当方、『ナビ子』を、情報統括管理AI:《クラスター》へと接続。情報の検索、閲覧を《クラスター》へと移行しまーす♪』
『ナビ子』が告げると、ポン!と軽快な合成音が鳴り、目の前に巨大な環を纏った球体が現れた。その球体は、表面を無数の文字で覆った発光体であり、ゆっくりと回転していた。
『当方、情報統括管理AI:《クラスター》、図書館内における、図書館利用者のアクセスを確認。承認。閲覧要項をご提示ください。』
落ち着いた、壮年の男性を思わせる、落ち着いた声音が、頭に響いた。と、同時に、音声に合わせて、目の前の球体が、モコモコと蠢いた。どうやら、この球体が、司書をしているらしい。
「では、この世界の大まかな歴史と、今抱えているこの世界の情勢から、世界の問題点について考察したいので、情報を教えてくださいますか?」
私は、少し悩んで、この、幽世世界の法則や、ルーラーを探す為の、簡潔な質問をしてみた。
『閲覧希望要項を確認。閲覧を承認。情報が多岐に渡ります。利用者の知識との統合化及び最適化をします。了承しますか?yes/no』
難しい単語が並んでいた。
私には、未知の言葉の羅列である。
私は、何か答えなくては、との、強迫観念に駆られた。
そして、思わず、
「い…いえ…す?」
と答えていた。
これが、今後の活動に、大きな影響を与えるとは思わずに。
ありがとうございました。