17、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)第9階層、8
後れ馳せながらも明けましておめでとうございます。
遅々として進みませんが、本年も、宜しくお願い致します。
17、『アルゴス』さんへ~幽世第9階層 8
ビービーと言うやたら賑やかな警報音が鳴り響き。チカチカと赤い光が明滅する中。新たに侵入して来た武装集団に取り囲まれたのは、銀行強盗を制圧後、およそ3分後の事であった。ガチャガチャと、無数の銃が突き付けられる。
隊長格と見られる男性が拡声器越しに声を上げる。
「テロリストども!!銀行での武装の現行犯で、お前達を連行する。」
その音声を確認したタイミングで、ヴンッと、『ナビ子』が腕のIDシール(?)から浮かび上がった。
『否定。イエローエリアにおける、戦闘行為を確認。主ネットワーク《クラスター》への報告を完了。当方、主人の市民ランクがホワイトである事を証明しました。警察機構の、捕縛権限より、上位ランクである事を提示します。』
警察と思われる、武装集団に囲まれ、どうしようかと思っていたら、『ナビ子』は、そう宣った。
次いで、ルミラさんとダンテさんのIDも読み取った、私の『ナビ子』は、
『同行者のIDより、両固体もまた、ホワイトランクである事を証明、提示します。襲撃者より、著しく上位ランクにつき、捕縛対象外にあたると判断。当方への捕縛は、越権行為になります。』
隊長格の後ろで、何やらカタカタと中空を叩く様な仕草をしていた女性が声を上げる。
「主任!!管理AIも、彼らの行為は、民間人保護の為の自衛行為であり、かつ、存在上位者への捕縛禁止要綱に触れるとの判断を下しております。我々には、彼らへの不干渉が求められます。」
主任と呼ばれた男は、一瞬嫌そうな顔をして、ぎりりと歯を食い縛った後、絞り出す様に言った。
「(ちっ。仕方ねぇ。身分が上じゃあ手が出せねぇ…。)…強盗犯の捕縛協力に、感謝であります。」
一瞬で感情を切り替えた主任が敬礼しながらそう言った。
同時に、無遠慮に向けられていた武器と殺気が、瞬く間に私達から、制圧した銀行強盗へと向けられる。
「ホワイトランクだからって、いい気になりやがって」
銀行強盗の、主犯が、忌々し気に私達へと捨て台詞を吐く。
どうやら、彼は、階級制度に、不満を抱いているらしい。
確かに、ホワイトランクである、というだけで、この幽世では、かなりの優遇が受けられる様だ。『ナビ子』が、私達を保証したことで、不審者から一転、不自然なくらいに信用されてしまった。
この事から考えられることは、この幽世では、ランクと言う身分差が、何かしらのトラブルの元ではないか、と言う事だ。
『ナビ子』と『管理AI』なるものも、要チェック項目でありそうである。
事件発生から、約20分。元の静寂を、取り戻した銀行内で、私達は、重要人物対応を受ける事になった。
最上級の部屋へと通され、高級茶菓子付き天然物の緑茶で、支店長自らが対応してくれたのだ。勿論、武装もそのままで構わないとの変貌ぶりである。
「ホワイトランクのお方が、わざわざ私共の支店に、ご足労下さったのです。当然の対応でございます。」
とは、支店長の言葉である。
そうして、漸く、私達は、ある程度自由に使えるクレジットなる物を入手できたのであった。
ありがとうございました。