1 旅の仲間~記憶喪失~
第二章の始まりです。
よろしくお願いします。
【第二部 旅の仲間】
1.記憶喪失
…ザザーン…
……ザザーン…
目が覚めると、波の音がした。頬にあたる感触は、湿った砂の様だ。
起き上がってみる。若干、力は必要だったが、起き上がれた。体に着いた砂を払い、自分の体を確かめる。痛いところはない。四肢はちゃんと思い通りに動く。
着衣に乱れも無い。意識もはっきりしている。
と、
くきゅるるる。
お腹が鳴って、猛烈な空腹を感じた。
ポケットを確認すると、財布があり、お金もそれなりに持っていた。でも、非常食などは見付からなかった。
(お腹空いたな。お店でご飯が食べたいわ。)
そう思いながら顔を上げ、周囲を見回すと、向こうから、一人の人影がやって来るのが見えた。
(ここが何処の海岸か分からないけれど、あの人が地元の人だったら、お食事のできる所を知っているかも知れないわね。聞いて見ましょう。)
私は、そう判断して、向こうから歩いてくる人影へ、近付いて行った。
「すみませ~ん。そこの方~!」
私は駆け足で人影に近付いて、呼び掛けた。そして、続け様に畳み掛けた。
「この辺りで、美味しい料理の食べれるお店を知りませんか?この土地は初めてで、土地勘がないものですから、どっちに行ったらいいかも分からなくて。お腹ペコペコで倒れそうなんです。近場で何か食べさせてくれる所ならどこでもいいんですけど。」
その人は、15~6歳くらいの少年だった。彼は旅人らしく、旅装をしている。少年は、すごく迷惑そうに言った。
「お前、誰?」
私は、言葉に詰まってしまった。
…。しばらく考えて、
「そういえば、私、誰なんでしょう?」
と呟いた。
「はぁ?分かんねぇの?」
心底怪訝そうに少年は私を見た。
「はい。先ほど気付いたら、あそこの浜辺に倒れていまして。体に異常は無い様ですし、着衣に乱れも無く、お腹が空いている事に気付きまして。貴方をお見掛けいたしましたので、声を掛けさせて頂きました。あ、お金もちゃんと所持しておりますので、支払いは可能なハズです。」
と、自分の事を説明した。
すると少年から、
「おいっ。落ち着いてんなよっ。自分の事が分からなくて不安じゃねぇのかよっ。持ち物とかから身元の分かるもんとか無かったのかよっ!!」
と説教された。
ムッとして言い返す。
「そういう事は人心地に着いたら考えます。普通、ヒトは『自分が何者であるか』、なんて常日頃から考えてなんか居ません。私に先ず必要なのは、空腹を満たして人心地に着く事です。お食事処を知らないのであれば、失礼致します。」
プンスカ怒りながら、少年の進行方向とは真逆に進もうとする。
「ちょっと待て。お前、このまま行く積もりかよっ!」
ぐぃっと肩を捕まれる。
「そうですよ?お腹空いてるもの。悪いですか?」
「俺も悪かった。だから、取り敢えず、酒場に案内してやるから着いてこい。」
何だか食事にありつける様だ。
有難いので、着いていく事にした。
ガヤガヤと賑やかな店内。
目の前には、記憶に有る限り、初めて見るヒト。
「オヤジ、エールと冷えた林檎のジュース、それからオススメの料理を2~3品後お手拭きを頼む。席は個室で。」
彼は、入店すると、手慣れた感じで注文した。
彼に着いて行き、正面に座る。
「まずは、自己紹介だな。俺の名前はカイル・オニッツ。旅の剣士だ。取り敢えず、飯が来るまでに情報を整理しようか。お前、名前は?」
「思い出せません。」
「持ち物見たか?」
「まだですよ?お腹空いてましたから。」
「じゃあ、持ち物を出してみろ。何か手掛かりがかるかも知れないだろ。」
呆れたと言わんばかりにカイルさんは言った。その態度は、まるで小さな子供をあやす様であった。
私は、しぶしぶ鞄の中身をテーブルに並べていく。
ケルバーソードの等の武器類多数、手帳、ハンカチ、筆記用具、学生証等が出てきた。
その全てに、[トリスティーファ・ラスティン]と名前が書かれていた。
この道具の持ち主は、随分と几帳面な性格らしい。
この時代、身分証に顔など書かれている物は無い。写真などという物は存在せず、似顔絵等は、人の手による模写に限ったからだ。なので、学生証にも、名前と生まれと在学証明くらいしか書いていない。
「…。お前、トリスティーファ・ラスティンっていうんだな。」
「何故ですか?私が、この品々の持ち主とは限らないではないですか。」
「疑り深いなぁ。じゃあ、このトリスティーファ・ラスティン宛ての手紙を読めばいいじゃねぇか。身元が分かるかも知れねぇだろ!?」
そう言って彼は、テーブルに並べた荷物から、手紙を指差した。
「人様の手紙を勝手に読むのはよくありません。駄目だと思います。」
私は、自分の良心に基づいて反対した。
「…。分かった。じゃあ、学生証が本物か、あんたがこの学生証の主か分かるまで、着いていく。それであんたの身元が分かればよし。分からなければ、その時は、その手紙を読もう。これでいいよな?」
「分かりました。」
「じゃあ、仮称だが、あんたの身元が分かるまで、あんたの事は、トリスと呼ぶからな。」
「妙にしっくりきませんが、仕方ありません。それでお願いします。」
ぐぅ。
話がまとまった途端に、私の空腹はピークを迎えた様だ。
急いでテーブルを片付ける。
すると、頃合いを見計らったかの様に料理が運ばれてきた。
海辺と言うこともあり、魚介類が中心のようだ。 アサリと蛤の酒蒸し、海老たっぷりのアクアパッツァ、パエリアに白身魚のホホバ包み焼き等々。 出来た順に熱々なメニューが並ぶ。
パクパクと留まること無く食べていたら、店主がサービスで、焼き立てのプディングもおまけしてくれた。
いいお店だ。
やっと人心地に着いたら、目の前のカイルさんと目があった。
カイルさんは、黒髪に深い蒼の瞳の、つり目気味な少年で、将来は美丈夫になりそうな外見だ。
「ありがとうございます。やっと人心地につきました。カイルさん、とお呼びすれば良いですか?」
「あんまりさん付けは好きじゃねぇなぁ。呼び捨てで構わねぇぜ?」
「何だか、呼び捨てはしにくいですので、心の良心を優先して、敬称をつけて呼びますね?カイル君。これから、よろしくお願いいたします。」
こうして、私は、『トリス』と呼ばれ、カイル君という旅の剣士の同行者になったのである。
先日、初めてブックマークなるモノを頂きました。
小躍りしたくなるくらい嬉しいです。
なろう小説家の先達方の気持ちが分かった気がします。
感謝します♪