11、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)・第9階層 2
11、『アルゴス』さんへ~幽世第9階層 2
トレイに多分食料と思われる物体を載せて、ごちゃごちゃと混んだ店内を進む。二階の隅に、空席を見つけて滑り込んだ。
「くぅ~!このチープな感じが癖になるんだよなぁ♪幽世ならではの味だよな♪」
パクパクと猛然と食べるルミラさんは、物凄く生き生きしていた。
「まあ、悪くはないな。」
ダンテさんも、水に合うようで、違和感なくトレイの上の物体を食べている。
私は、というと…
「私の味覚がおかしいのでしょうか…?人間味が感じられません…。生命の味がしないのです…。」
パクっと一口かじって、違和感を拭えなかった。
味覚を刺激する何かの成分は感じる。確かに、感じた事が無いくらい、びっくりする様なバラエティーに富んだ味が、口一杯に広がるのだが…。生物が本来持つ、生命力が、感じられないのだ。地味溢れるパワーのようなものが無いのだ。それは、私の舌には、酷く歪なモノに感じた。
でも、周りから浮かない様に、一生懸命、食べる。
そこで、ふと、気付いた。
私の耳と尻尾のある外見に、全く好奇の目が寄せられていない、という事に。
それとなく、周囲を観察してみた。
そして、納得がいった。
私が異形なのではなく、ファッションの様に、様々な異形が、当たり前に存在していたのだ。
私の様な動物の耳や尻尾、鳥の翼、果ては爬虫類の様な膚まで、実に多様な外見の方々がいた。それどころか、クレアータの部品を堂々と自慢気に晒している人まで、結構な数で居たのだ。
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未知の法則が働く幽世。
その中でも類を見ない位に、私には理解出来ない世界が、此処である、と、私は認識した。
「どうやったらいいのか、見当もつかないのですが、今後どうするか、話し合いませんか?」
こんな切り口で話題を切り出した私には、全く信じられない事だが。
それでも、とてつもなく生き生きと活動出来る存在も居るらしく。
ルミラさんは、サクサクと、今までの様子から、行動方針を弾き出していく。
「先ずは、此処で目立たない為の装備品の入手だな。このお店の受付のお嬢さんが機転の効くコで助かったゾ♪金貨と見て、金としての価値でプリペイドカードなるモノに交換してくれたな?でも、多分だが、コレは凄く運が良かったんだ。お嬢さんが、立て替えてくれてたみたいだったからな。そこを鑑みるに、貨幣価値が、現世とは違う可能性もあるな。と、なると、金のレートを調べて換金してくれる処、さっき小耳に挟んだんだが、銀行とか言うらしい機関で、此処でのお金をゲットするのが第一だな!そして、銀行で資金調達の目処が立ったら、次は衣服類の買い出しだゾ♪このままでは、ちょっと浮いて見えるみたいだからナ。それが済んだら、いよいよルーラー探しを開始しよう。と言うプランでどうだろうか?」
そこまで聞いて、ふと気になったので、手を挙げて質問してみる。
「あの、カードを失くしたら、警察に相談してくださいって言ってませんでした?」
すかさず、ダンテさんから突っ込みが入る。
「ソイツは良くねぇな。だいたい、ルーラーってのは、権力を持ってたり、何らかの力を持ってるもんだ。警察とかって公的機関に関わると、ルーラーに逆に目を付けられちまう。マズイと思うゼ?」
「そうだぞ。基本的なルールもまだ覚束無いしな。慎重に行くのが正解ダゾ。」
と、二人に説得され、私達は、金融機関、なるものにお世話になるべく、活動を開始するのである。