9、『アルゴス』さんへ~幽世(かくりよ)・第6階層 5
お待たせしました。
戦闘シーンは難しいです。
9、『アルゴス』さんへ~幽世・第6階層 5
時間差はあったが、3人は無事に、それぞれの精神を攻撃して来た闇の塊を撃退した。
全員が揃った何処で、虚空から声が響いた。
『管理下にある世界への侵入者を確認。排除機構による、標的の排除の失敗を確認。これより、最終機構による排除に移行。実行します。』
この不思議な音声は、何処から聞こえるんだろう、と周りを見回していると、
ピコン。
という、妙に甲高い人工音が鳴り、目の前に見たことの無いフォルムのモノが表れた。
可愛らしい音と共に現れたそれは、全体的に、幾重にも重なる金属製の板の塊に見えた。薄い板ではない。堅い重戦士が身に纏う鎧に使う、分厚くて、重苦しくて、刺々しい。そんな重金属の塊に、幾つもの長い筒の様なモノが付いている。その巨体を、小さな金属製の欠片で出来た、車輪の様なモノがキュルキュルと音を立てて動かしていた。
目の前に現れた異形を目にして、ルミラさんは、直ぐに反応を示した。
「おお♪何だかカッコいいぞ!!強そうだな♪ワクワクするぞぅ♪」
ダンテさんも、また。
「アイツをぶっ潰せば良いんだな?イクゼ!」
私は、と言えば、お二人の反応を見て、漸く事態を把握したという次第である。
「え?え?…アレ、敵なんですね?分かりました、死力を尽くします。」
戦闘では、せめて足手まといにはなるまい。
そう思い、私は魔剣を二本、空に浮かべ、二人に告げた。
魔剣は、空に浮かべると、本人と、同じステータスを保持した、いわゆる『分身』の様な働きをする。つまり早い話、私は、手数を増やして、出来る事の幅を増やしたのである。
「アレを調べます!攻撃は、その後でどうぞ!」
「任せた!」
「ワタシは武器の準備をしておくぞ♪すまないが、初撃は二人に任せるぞぉ♪」
という事で、私は真っ先に、敵を調べた。
[《対空中対地上戦闘用超重量重戦車:ヴァルキリー》
HP:30000
AP:1
特殊能力:??? ]
残念ながら、大したことは解らなかった。でも、仕方ありません。
さて、行きますか!
*******************
最初、ソイツ、ヴァルキリーは、動かなかった。
何故なら、見るからに重鈍なヴァルキリーは。見かけを裏切る事無く、圧倒的にスピードが遅かったのである。
ルミラさんが、魔器である素手に、各種武器を融合させながら、準備を整えている。
そして、その間に、彼女のエルス、霊鳥ヤタがその身を4つに『分身』する。
ヤタは、圧倒的にスピードが速い。分身のうち一体が、先手、とばかりに、様々な攻撃への支援魔法を付与してくれた。武器の固定値を1度だけ2倍にする『聖撃』、各種属性の魔法の付与、実ダメージを軽減する『聖盾』などだ。更には、霊鳥の特技で、全て2倍に底上げしてくれていた。
その支援を受け、私達は、全力で持って、攻撃をする事にした。
「いくぜ!」
ダンテさんの、二挺拳銃(エボニー&アイボリー)から、ヴァルキリーへと容赦の無い弾幕が降り注ぐ。
ガンガンッガンガンガンッガガガガガンッ!!!!!!!!!!!!
絶え間ない銃の乱射に、鈍くて重たい金属音が響く。
一気に、5000点近いダメージが、ヴァルキリーに、襲い掛かった。
ダンテさんの攻撃は、相変わらず素晴らしく、私達は、その戦闘力に安心感を持った。
大分、ヴァルキリーの戦力は削れたはずだと、感じていた。
このままの調子で、押し切れると、半ば確信していた。
でも、その時だった。
パシュン。
と乾いた音がして、
ガランガラン
と、ヴァルキリーの一番外側の外装が弾け飛んだ。
其れを見た私は、戦闘のエキスパートである二人に告げる。
理性が、ヴァルキリーへのダメージを確信しているのに、私の野生は、危機感を強めていた。
だから、私は、二人に告げた。
「何でしょう…?嫌な予感がします。私、攻撃ではなく、もう一度、アレを調べますね。」
背中を伝う、途方もなく嫌な予感を信じて、私は、情報収集を優先する事にしたのだ。
******************
結論から言うと。
私の嫌な予感は、当たっていた。
元々は、
[《対空中対地上戦闘用超重量重戦車:ヴァルキリー》
HP:30000
AP:1
特殊能力:??? ]
しか判らなかった敵の能力値が、新たに判明したのだ。
[《対空中対地上戦闘用超重量重戦車:ヴァルキリー》
HP:29200/30000
AP:10
特殊能力:パージ
:攻城砲撃・光化学砲撃・全弾砲撃等]
詳しく言うと、蓄積したダメージは、外装に溜められ、其れをパージ、つまり取り外す事で、本体へのダメージを軽減するのである。更に、パージした装甲の重さが無くなると、その分重量は軽くなるわけで…。
どれだけダメージを与えようと、一度に受けたダメージは、装甲板をパージする事で最小限に留められ、段々とスピードが加速されていき、攻撃力もまだ未知数、という、とんでもない化け物が目の前に居る。そんな状況であることが判明したのである。
「大変ですっ!ダンテさんっ!ダメージが800点程しか通っていません!それ以上のダメージは、特殊能力で、パージされました!しかも、スピードも上がってます!」
パーティーに戦慄が走った。
何故ならば、私達のパーティーは、一撃必中、高火力なメンバーが多いから、である。
「一枚ずつ、剥がしていくしかねぇようだな…。ルミラ、トリス、手数で押すぞ!っつても、相手さんの攻撃が来るんだが。」
そうダンテさんが注意を促したその時だった。
「いかん!来るゾ!」
ルミラさんが、ヴァルキリーからの攻撃を感知した。
ブォンブォンブォン…
空気の唸る音が響く。
ガコンガコン。
ギギギィ…ガコン。
ヴァルキリーの体から伸びる、謎の筒が、軋む音を立てながら、その口をこちらに向ける。向けられた筒口の先端に、光が集まって行く。
キュイイイイイイン…
甲高い音を立てながら、光は収束し、遂に。
パシュー…ン
と、轟音を轟かせて、幾筋もの光の雨となって、私達に降り注いだ。
飛んでくる攻撃を、いなし、或いは避け、弾き返し。多くの攻撃を、私達は乗り越えた。しかし、それでも尚、ヴァルキリーの攻撃は、熾烈を極め。
避けきれない攻撃を覚悟した時だった。
上空からの光の雨が、陰った。
ルミラさんのエルス、ヤタさんが、私達の範囲をその大きな翼でもってして、包み込んだのだ。
「偉いぞぉ、ヤタ♪残りの行動で、お前は回復しておくんだぞ♪手数ならば、ワタシが一番多いからな♪ああ、わくわくするな♪さぁ、セカンドフェイズと行こうか!」
深紅の翼を広げて、否、深紅の翼状の大剣を中空に浮かべて、ルミラさんは、獰猛な笑みを浮かべた。
「とは言え、速さから言えば、ダンテが一番速いんだがな。」
この戦闘の最中、ルミラさんは、暢気そうにぽりぽりと頬を掻く。
「ああ、そうだな。こいつはちょっと骨だぜ。いくぜ!」
ルミラさんの発言を受けて、ダンテさんが、先程より威力は落ちるが、回数の多い攻撃に切り替えて、二挺拳銃を撃ち出す。
ガガガガガンッ!
ガンガン!
という、派手な音がして、二挺拳銃の銃口から煙が上がる。
彼の行動は、上手く着弾した様で、ヴァルキリーから、またしても、パシュンパシュンと装甲板が外れた。
ガランガランと音を立てて剥がれ落ちた装甲板は二枚。
順調に攻撃は効いているらしい。
「フッフッフ。いよいよワタシの番だな♪何時まで持つか楽しみダゾ♪」
ルミラさんの猛攻が始まった。
「クリムゾンレイン」
深紅の大剣を乱舞させて、紅い鋼の翼から、雨の様に刃を降らせる。
その数、8対、16翼。
一撃に、2000点に届かんばかりのダメージの嵐が乗った、その猛攻でも、ヴァルキリーのパージ能力の前には十分な威力を発揮出来ず。
パシュン。
パシュン。
と音を立てて、剥がされた装甲は、漸く六枚。
そして、恐ろしい事に、装甲が剥げて行く度に、ヴァルキリーは、スピードだけでなく、攻撃力と命中力をも向上させていった。
「残念♪装甲を剥ぎ取る事しか出来無かったぞ!でも、終わりは見えて来たかな?ダンテ、トリス、気張り時だぞぉ♪」
楽し気な、ルミラさんの声がする。
その楽し気な様子と相反する様に、
「攻撃範囲、範囲選択。攻撃場所、視界内全て。総攻撃、開始します。」
ヴァルキリーから、無機質な音声が聞こえる。
パージによって、全ての装甲を剥ぎ取られたヴァルキリーは、私のスピードを超えた。奴は、攻撃を開始する様だ。
全ての筒口が、
ジャコン
と音を立てて、こちらに向いていた。
容赦なく降り注ぐ、数多の光。弾幕。砲弾。火炎弾。
見たことの無い、デクストラ技術の、更に進化したと思われる、兵器の数々からの攻撃に、私は、危機を感じた。
けれども。
『まだ、です。ここで切り札は使えません。まだ、道のりは長いのです。ならば、私に出来るだけの事をしましょう。』
私は本能を捩じ伏せて、理性をフル稼働させた。攻撃をしていない私には、まだ動けるだけの余力が残っていた。
だから、攻撃を止めて、皆の盾になる事を選んだ。
私は、二人に比べて、どう仕様もないくらいに、経験不足で、未熟で、弱い。
だけど、戦士として、戦場に立っている。
出来る事を見極め、味方の力になりたい。
私の理性は、必死に、自分の為すべき行動を弾き出した。
皆の盾になる、と言う行動を。
私は即座にパンドラを剣へと変移させる。
そうして、私に集約された射撃攻撃を、私は向かって来た軌道に合わせて、ヴァルキリーへと打ち返していった。
幸いな事に、私の反射は高い。動体視力も鍛えられている。
だから。
キィン…ガキィン…
甲高い音を立てて、撃ち込まれた砲撃の、その全てを、ヴァルキリーへと打ち返す事が出来た。
打ち返した砲撃は、そのまま、ヴァルキリーへと着弾し、もうもうと爆煙を上げる。
そして、赤々とした炎が、その巨体を包んでいた。
その炎上も収まらないうちに、
ピコン。
と、人工音がしたかと思うと、
[本体への致命的な損傷を確認。補修、不能。最終プログラムへと移行。自爆と共に、このゾーンの破棄を実行します。]
という機械質なメッセージが辺りに響いた。
そして…
ちゅどーん
という爆発と共に、私達は、更に深い幽世へと弾き飛ばされたのだった。
ありがとうございました。