6、『アルゴス』さんへ~幽世かくりよ)・第6階層 2
6、『アルゴス』さんへ~幽世・第6階層 2
《トリスの場合》********
気が付くと、私の目の前に、自信に満ち溢れて、他者を見下した雰囲気を醸し出す私自身が居た。
辺りは一面の闇。
鏡合わせのように、ただ、二人だけが向き合っていた。
薄闇の中、コツコツと、足音だけが鳴り響く。
足音を立てて、ゆっくりと近づいて来たソイツは、私の前で立ち止まる。
私の身体は、ピクリとも動かせない。
焦る私の内面を無視するかの様に、ソイツは、優しく私の肩を抱いた。
そして、私の全身を、下から上へと舐めるように視線を這わすと、耳許で、毒気たっぷりに、囁いた。
「ふんっ…こんなに醜いのが私だとはね…。あなた、情けなくは無いのかしら。ねぇ?生きていて恥ずかしくは無いのかしら?貴女には生きている価値なんて芥程も無いんだから、大人しく私に精神を渡しなさいよ。どうせアリ君の後をついていかないと、自分の力で立ってさえ居られない、そんな今のあんたなんて、『器』としてくらいしか価値は無いんだし。ねぇ。私と、代わりなさいよ。あんたなんかに、アリ君は、勿体無いって、分からないの?」
クスクスと不快な嗤い声で、私のコンプレックスを脳内に直接流し込んでくる。
正直、私は、カチンっときた。
アリ君や、グリーンヒル先生、モーリィさん、その他にも沢山の人達に育てて貰った私の自我を、コイツは何だと思っているのだろうか?
なのに消えない消滅願望の強さを、コイツは何だと思っているのだろうか?
活きたいと願いながらも、自分の裡から湧き出て来る絶望感を、コイツは何だと思っているのだろうか?
『絶対に《奈落》には行くなよ!約束だからな!』
と、アリ君と交わした約束の重さを、コイツは何だと思っているのだろうか?
それなのに、《奈落》へと向かいたくなる、私の消滅願望を、コイツは舐めているんじゃなかろうか?
私の精神を踏みにじろうとする、その行為に、その存在に、私は瞬時に、怒りを覚えた。
私のみならず、私を育ててくれた全部の存在や経験を踏みにじる、その無神経さに、私は激怒した。
私の最愛が、『私』選んでくれたという、その意志を無視するかの様な、その物言いに、私は、キレた。
だから、私は、ソイツを睨み付け、全身全霊をかけて言い放った。
「…。お前こそ、誰?私にソレを告げていい存在は、3人居ますが、貴女はそのどれでも無いですよね?私の…トリスティーファ・ラスティンの…本来の身体の持ち主、《トリスティーファ・ラスティン》、魂の前世たる、《ルナミス・トートス》、並びに《黄金外套王》。その誰でも無い『貴女』が、自信を得ようと、自分を得ようともがき苦しむ私の、何を理解出来ていると言うのです!私の絶望感は、他者に言われて飲み込まれる程、軽くは無いんですよ!!!」
私の怒号が、魂からの叫びが、暗闇に包まれた空間に響き渡った。
次の瞬時に、私の中から光が溢れた。
その光は、目の前に居た私擬きに多大なるダメージを与えたらしい。ぐずぐずとその象を崩壊させ、消えて行った。
残ったその最後の一欠片に、私は、ケルバーソードへと形を変形させた、旅行鞄で、一閃を加えた。
すると、パリンと空間が砕けて、私は、幽世の主…『支配者』の前に立って居た。
キリが良いので、短いですが、本日は、此処まで。