3、『アルゴス』さんへ~情報収集
長くなりました。
3、『アルゴス』さんへ~情報収集
アリ君との交歓を済ませた私は、異界へと赴くにあたり、パーティーを組む事にした。
今の私には、幽世は、余りにも未知の世界である。
そこで私は、情報を集め、エキスパートを雇うべきだと考えたからだ。
ところで、ここ、ハイルランドで冒険をする上で、情報を集めるには、何処が適切だろうか?
まずは、酒場。お酒の力もあり、口の軽くなった人達からの情報や、それを聞いている酒場のマスター等が情報をくれたりする。
次に、図書館。書物から、その土地の習慣や、伝承等の知識を得る事が出来る。
そして、所属しているならば、盗賊ギルドや警備機構ギルドといったギルドにお金を出して情報を買う、等と言った手段もあるだろう。※此処で言う『盗賊』とは、罠を解除したり、獲物を追跡調査したりする職業であり、間違っても、組織的な犯罪者の集団ではない。少なくとも、表向きは。※
そんなわけで、私はまず手始めに、ハイルランド屈指の総合大学である、ここ(ボーグワーツ総合大学)の図書館で、書物を漁る事にした。
教皇庁のお膝元なだけあって、かなりの蔵書数を誇っている上に、知っている学生は少ないが、研究目的の為、異国の書物や、異端の書物も収集している。それらの珍しい書物の多くは、宗教的に禁書扱いなので、ウララ理事長先生に特別閲覧の許可を得なくてはならなかったが、利用しないのはもったいない。
そして、利用するからには、一般書架のみならず、書庫にある書物や、持ち出し禁止の書物、更には、禁書庫の書物に至る迄、あらゆる書物の知識を、頭の中に叩き込んで準備を整えるのは、当然の備えである。大量の書物を記憶するなど、人造人間である私には、容易い事。下手にノートにメモしようモノなら、捕まってしまうのが、ハイルランドの真教の怖いところなのだ。
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必要な知識を入手した私は、次に、生きた情報を得るために、酒場に足を運ぶ事にした。ハイルランドで一番の、冒険者が集まる立地、水路の交易都市・ケルバー。その南門前にある、『湧水亭』、その場所である。
以前にも語ったかも知れないが、ここのマスター、アーサガさんは、…否、訂正しよう。アーサガさん及びそのご家族は、歴戦の冒険者、又は戦士として名を馳せている。かつて共に旅をした、盟友カイル君も、そうであるように。
湧水亭には、彼等を慕う荒くれ者や、厄介事を抱えた者達が、今日も賑やかに集まって来る。
それだけでなく、交易都市だけあって、実に様々な人種が集っているのである。
更に、私がこの酒場に的を絞ったのには、訳がある。勿論、情報収集するには、ケルバーにある、他の酒場でも、不足はない。…無いのだが、此処でなければならない理由が、私にはあるのだ。
一つ。知り合いの店だから、他の場所よりも物怖じせずに話せる。(私は人混みが苦手な人見知り。)
二つ。湧水亭のマスター、アーサガさんは、彼の愛剣である、伝説の武器『見えざる刃・リンケ』を、店内に、堂々と展示しているのだ。のみならず、数々の武勇伝と共に活躍した武具防具も、展示しているのである。正直に言おう。湧水亭は、武具防具好きの我等ラスティン家の者達には、堪らないスポットなのである。
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そんな訳で、意気揚々と、私は湧水亭の扉をくぐった。
「トリス!!いらっしゃい!とうとうアリの奴を見限って、俺に乗り換える気になってくれた?」
ボーイのカイル君が、嬉しそうに告げる。
「いえ、それはありません。ごめんなさい。カイル君。」
さらりと流せず、真面目に返して、私は、アーサガさんの元へと向かった。
「よう!トリスの嬢ちゃん。今回は、どんな用かな?うちの愚息に用って感じじゃあなさそうだな。」
「こんにちは、アーサガさん。実は…。」
早速、私は、アーサガさんに、今回の旅の説明をする事にした。
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幸いにも、私は、(実は怪異にも耐性の高い)アーサガさんから、今回の旅路に相応しい人物を二人、紹介して貰えた。
一人目は、『赤い髪の豚人殺し』との二つ名を持つ、ルミラさん。彼女は、東方辺境区にある《陰りの森》(迷いの森と名高く、異界への入り口とも畏れられている魔境)で孤児院を営んでいる。常時100名の戦争孤児を育てているらしい。外見年齢は、赤い色の長髪で、20歳くらい、身長160cmくらいの額に真一文字の傷痕のある女性である。アーサガさんの養女にして、カイル君の義理のお姉さんに当たる人だ。平胸を気にしているが、普通に凹凸はあると私の目には映る。可愛らしい外見に反して、直径2メートルのフライパンを、軽々と振るって料理する、肝っ玉母ちゃんである。
二人目は、今迄幾度かお世話になった、魔神退治のプロフェッショナル、デビルハンターのダンテさんである。
幽世の奥深くに潜る、と話したら、二人とも、二つ返事で快諾してくれた。
何でも、心踊る冒険に餓えている、との事で、私の申し出は、願ってもいないモノだったらしい。
さて、私は、《世界は、玉ねぎや、ミルフィーユ、キャベツみたいな感じで存在している》と、認識している。
つまり、現世の周りの、内側だったり、外側だったりに、薄い膜が重なる様にして、幽世が存在しているというイメージである。
ルミラさんやダンテさんに確認してみても、やはりそういった感じで認識しているそうである。
そんなお二人だが、今回の旅路について、ルミラさんは、
「久し振りにワクワクする戦闘を期待しているぞぉ♪」
と、出発前に発言している。
尚、ダンテさんに関しては、
「依頼か?ちょうど暇だし、依頼なら喜んで受けるぜ?そろそろ、ツケの支払いもヤバいしな。」
という発言から分かると思うが、私からの、ビジネスライクな依頼での同行である。
私は、この二人の助言に従い、幽世の最下層と呼ばれる、第13階層を目指す事と相成ったのである。
ありがとうございました。