2、『アルゴス』さんへ~アリ君との約束
2、『アルゴス』さんへ~アリ君との約束
「アリ君。私が安全に帰って来れる様に、待っていて欲しいのですが、良いでしょうか?」
私は、アルゴスの居た所に行くに当たり、保険を掛けておく事にした。
それは、ずばり、アリ君である。
アルゴスの居る場所に程近い、奈落は、私の消滅願望を叶えてくれる、私にとっては、とても魅力的な場所である。
そんな場所の近くに行くのに、私は、誘惑に負けずに帰還出来る様にとの想いを込めて、私の帰る場所として、アリ君の居る所を帰還場所に決めたのだ。
そんな私の内心を知らないアリ君は、不安げに、そして、少し悔しそうに言った。
「私の力は、必要無い、と言う事か?」
私は断言する。
「いいえ。違います。私が、私として帰って来るために、アリ君。私の指標になって下さい。本当に危険な時には、絶対貴方を頼りますから。」
それを聞いたアリ君は、私の決意を受け止めて、
「必ず、無事に帰って来るんだぞ?絶対だからな。」
と、渋々、私の旅立ちを了承してくれた。
「はい!勿論です!」
ぐっと息を飲んで、私はアリ君に語り始めた。今回の、旅の目的を。
「…アリ君。世界の果てに、ただ独りで、何年もずっと閉じ込められていた人が居たんです。知らなかったとは言え、私は、その人に、何も…【繋がり】の大切さ、尊さとかを…運ぶ事が出来ませんでした。誰かが、不可能を可能に変えて、彼の扉を叩くべきだったのに。私にも、その機会はあったはずなのに。叶わずに、機会は喪われました。けどね。アリ君。私は、それが、悔しいんです。だから、其処まで辿り着けるって事、証明したいんです。彼の人の孤独が、痛くて…辛いんです。」
「うむ。それから?」
私の想いを一つ一つ吐き出させる様に、アリ君は辛抱強く、私の話を聞き出してくれた。
「それから…私は、アリ君に依存し切っています。これは、このままの私では、私はアリ君の理想とする、自律した女性とは言えません。だから、アリ君が居ない状態で、どれだけの事ができるか、試したいんです。私は、アリ君が居なくなるのが怖い。離れるのも、おんなじ位怖い。でも、それじゃあ、駄目なんです。貴方の隣に、堂々とした自分で、誇れる自分で居たいから。だから、アリ君。私の為に、待っていて欲しいのです。そして、本当に危ない時には、迎えに来て下さい。貴方なら、きっと期待を裏切らないで、それが出来ると信じているから。」
長い、私の話を聞いて、アリ君は、
「うむ。お前が決めたのだろう?だったら、その心の声に従え。私は、お前のその自我を、歓迎するぞ。トリス。」
と、ワシワシと頭を撫でてくれた。