8、『レイ・ライン』の冒険~最終決戦・前編
書いてて、気分が萎えました。
下衆いキャラは難しいです。
8、『レイ・ライン』の冒険~最終決戦・前編
ダンことダニエルは、夢を見ていた。
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世界は暗闇に包まれていた。
見えないけれど、目覚めてから直ぐに、暖かい光が、常に傍にあった。
触れられる度に、高鳴る鼓動。この気持ちはなんだろう?
考えるけれど、その気持ちの名は知らない。
見えない暗闇の世界で、揺るがずに触れてくれる、優しい手の温もり。
掛けられる言葉に、想いを裏切る様にこの口は、裏腹な言葉を紡ぐ。
駄目だと思うのに、光はそれすら受け入れてくれて。
そんな自分にすら、その光は暖かく隣に存在してくれる。
隣にありたいと、宣言してくれる。
空っぽの『私(世界)』を満たしていく、この想いは何?
共に在りたいと願う、この想いは何?
分からなくて、怖くて。
知らないから、怖くて。
でも、今は見えない、大事な光。
あの暖かい光は、何処へ行ったの?
『ワタシヲミステナイデ…』
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目覚めた時、ダンは、泣いていた。
同調した夢の、心の持ち主が、余りに愛しくて。
その夢が、心を締め付けて、苦しくて。
大切な宝物を、奪われた心の叫びが、余りにも悲痛で。
…それは、『夢』という形で見た、レインの心だった。
邪神に囚われている彼女を自らの手に取り戻し、彼女の意思を護るべく、ダンは目覚めたのだった。
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ダンが剣の柄に手を掛けると、彼の頭の中に、声が響いた。
『汝が求めるは、何だ?』
彼は心で思った事を、そのまま口にした。
「俺は、レインを取り戻す、そして、彼女と生きる世界を取り戻すんだ!」
『如何なる苦難を前にしても、その気持ちに偽りは無きや?』
「当たり前だっ!レインを救えなくて、何が男だっ!」
『よかろう。汝が決意を示す限り、我、汝の心を刃と成し、汝の意を現とする力となろう。』
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…と、いうやり取りが、勇者の剣とダンとの間にあったのか、私達には計り知れないが。
彼もまた、私が青龍の珠と交わしたであろう、試練を乗り越えたのだろう。
目覚めたダンに駆け寄った時に見せた彼の表情は、愛する者を護るときの戦士のそれだった。
ダンが剣を抜いた跡から、城へと続く階が現れていた。
空中都市クリスタルタウンの中心、クリスタルパレス。
この奥に、邪神クロノスの意思を宿したレインちゃんと、邪神クロノスの精神体が、居る。
その場にいた者には、理屈でなく、知識でもなく、純然たる事実として、その事が判った。
リドリーダーが、ダンに言った。
「大丈夫か?ダン。お前の一撃が、頼りだ。さあ、お前の姫様を救いに行こう。」
ダンさんは、
「ああ。必ず、アイツを取り戻す!!!」
叫んで階を駆け昇っていった。
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玉座には、黒衣の男が、堂々と座していた。
プラチナゴールドの長髪を靡かせ、ファイヤーレッドの瞳で、彼の腕にある彼女を愛しげに見遣りながら、刻が満ちるのを待っていた。
プラチナシルバーの髪に指を絡め、彼女の意志の宿らないアイスブルーの瞳に愉悦を覚えながら。
もうすぐ、彼女の恋しい相手がやって来る。
その相手の前で、彼女の意識を覚醒させ、彼女を屈服させる。その上で交わる時、少女はどんな声で世界の終わりを謳うだろうか。
世界の破滅と、弱者を踏みにじる、その快感を思い、男の顔は笑みを刻んだ。
「ふふふっ…。私がこの器に挿入った時、完全に私はクロノスとして復活する…。器なる巫女よ…。悔しかろう…。主と、対になるは我よ…。汝の絶望の叫びが、世界を壊す刃となる…。」
刻を待ち焦がれながら、黒衣の男、邪神クロノスの精神体は、器なる巫女、レインちゃんの衣服を剥ぎ取る。
此れから此処を訪れる、憎き小僧に、レインの精神に、より深く絶望を植え付ける為に。
深い嘆きこそ、彼にとっては至福の音楽となるのだから。
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私達が、玉座の間に辿り着いた時、事態はまだ、かろうじて最悪の一歩手前、という、何ともギリギリなタイミングだった。
ただ、一つ問題なのは。
傲岸不遜な態度で玉座に座る、プラチナゴールドの髪の男のその頭上に、嫌でも目に入る様に宙に浮かび、磔られているレインちゃんだろうか。
…惨い事に、その姿は全裸だった。
足下に、引き裂かれた布切れが散らばっている。
だが、レインちゃんは、何かされた形跡はなかったし、事が成された匂いもしなかった。
鋭い知覚で事態を把握出来た私は兎も角。
ダン少年には些か刺激が強すぎた。
レインちゃんの姿を確認すると同時に、ダン少年は、黒衣の男に斬りかかった。
「きっ貴様っ!レインに何をした!?許さんっ!」
だが、そんな勢い任せの一撃は、簡単に邪神クロノスのバリアに弾かれた。
ガキィンっ…!
鈍い音と共に、吹き飛ばされたダンさんに、私は言った。
「落ち着いてください、ダンさん!レインちゃんからは、あの男の匂いはしません!まだ、彼女の貞操は無事ですっ!目視するに、肉体にダメージもなさそうです!」
私の言葉に、少しだけ理性を取り戻したダンさん。
「すまないっ。焦ってたら、救えるものも救えないよなっ。先ずは、レインを救出する事に集中する。」
それを聞いて、リドリーダーがパーティーとしての指針を決定する。
「否、邪神クロノスを先に倒そう。あいつの相手をしている間は、レインに手を出す余裕は無いからな!」
「一理ありますな。」
「了解。」
「邪神クロノスを排除しないと、レインちゃんに届きそうに無いですしね。」
そんな私達のやり取りを愉快げに眺めた邪神クロノスの精神体は。
「いきなり斬りかかって来るとは無粋ですねぇ…。せっかく、私と器なる巫女の融合の儀式に、特等席で華を添えさせて差し上げようとしているというのに。…良いでしょう。わざわざお越し頂いたのです。彼女に、貴殿方の声を聞かせて差し上げてください。」
と言うと、パチンと指を鳴らした。
すると、レインちゃんの瞳が開いた。
彼女の瞳は、見慣れた何も映さない白色ではなく…どこまでも冷たい、アイスブルーのそれだった。
レインちゃんの苦難は、次で終わりです。
その後、番外編をアップしたいと考えています。
よろしければ、そちらもどうぞ。