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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
『レイ・ライン』の冒険
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5、『レイ・ライン』の冒険~第二の試練

5、『レイ・ライン』の冒険~第二の試練





目の前には、肥沃な大地が広がり、遠くには、乾燥した煉瓦造りの建物が確認出来る。

周囲は濃厚な緑の気配で満ちている。




私達の通ってきた扉は、当然の様に消えていた。


「ここは、何処なんでしょうね。」


メイヴィスさんが、最初に言葉を発した。


「分からんな。遠くに集落が見えるから、其処で情報収集、だな。と、その前に、皆、無事か?」


リドリーダーが、メイヴィスさんに答えると同時に、皆の生存を確認する。


「レイン、大丈夫か?」


ダンさんは、レインちゃんを気遣い、レインちゃんは、


「えぇ。ありがとう。ちょっと、疲れましたが、大丈夫です。」


と返事をする。


「無事なのだ♪」


はいっ!と元気良く私も声を上げる。


「無事ですぞ。」


最後に、殿しんがりを勤めたドンさんがいらえを返す。



全員の無事が確認されると、次は、状況の確認になる。

私達は、否、私は、ダンさんの持つ盾の検分に入った。

パラパラと、自前の武具防具辞典を捲り、じっくり盾を検分する。


「詳しく調べてみたのだ。判った事を伝えるのだ。どうやらこれは、魔法道具アーティファクトなのだ。銘は不明なのだ。これは、言ってみれば、とても頑丈な盾、つまり、効果は大幅な防御力のアッ効果のある盾なのだ。具体的には、防御力+2500といったところなのだ。神話級防具と言っても過言ではないのだ。それ以外の効果も有りそうではあるのだ。でも、今は発動しないみたいなのだ。特殊な条件が必要みたいなのだ。」


私が語り終えると、リドリーダーが言った。


「と、なると、ドンに持って貰うのがいいのかな?」


「今のところ、ただの盾なのだ。それがいいと思うのだ。」


「分かりました。では、ワシが預からせて頂きますぞ。」


こうして、玄武の紋様の浮かぶ盾は、ドンさんが持つ事となった。




そして、さて、集落へと向かおうとしている私達の前で、またしても、空間が歪んだ。

其処から出てきたのは、一人の青年だった。

不自然な登場をした彼だったが、不思議と邪悪な気配を感じない。それどころか、清浄で清涼な空気を纏っていた。

彼は一礼すると、口を開いた。


「ごきげんよう。いきなり失礼します。私は、世捨て人のルカと申します。」


ファサリと、白衣が宙を舞う。


「わたくし共予言者は、運命への介入は禁じられております。故に、助言だけ。『道は宝具が示すなり。器なる巫女の祈りと共に、災厄は目覚め、しかし、信じる心故に、希望もまた生じるものなり。』光あるところに影はあるもの。逆もまた然り。」


思わず惚れ惚れするような笑みを浮かべ、ルカさんは告げた。

私は、ルカさんの精一杯の助言に感激して、演技を止め、素で彼に礼を述べた。


「ありがとうございます、ルカさん。これ以上に無い祝福です。そして、これ以上の行為は、禁忌に触れるのではありませんか?どうぞご無理をなさいませんよう…。」


「おっしゃる通りです。あまり力になれずに申し訳ない。では、どうぞ、ご武運を。」


ルカさんは、来た時と同じ唐突さで、また歪んだ空間に去って行った。




呆然とするメンバーに、私は告げた。


「ドン。盾が、何か訴えているはずなのだ♪どの方角に反応があるのだ?」


「確かに、彼方に引っ張られる様な感じがしますな。」


ドンさんが、冷静に教えてくれた。


「じゃあ、行く先はドンに任せるとして、だ。ライ!本当に、お前は何者なんだ?」


「ただの武具防具好きの一般人なのだ♪」


と、私はまたしても、リドリーダーの追及をさらりとかわすのだった。









そんな私を見るパーティーの、『胡散臭い者を見る目』が痛い。けれども、私はそれを無視する。


まだ、私に、本名を曝す度胸は無いから。

アリ君に想いを受け入れて貰えて、確かに私は多少自分を認める為の土壌は手に入れたと思う。

しかし、それでも私からは消滅願望が消える事など無く。今尚それは、心に影を落としている。何かしらの、きっかけがあると、『自分を礎にして他者を生かすとい道』を選んでしまう。そんな衝動を抱えている。



恐らく、『神の器』である私には、『器なる巫女』であるレインちゃんの代理ができる。レインちゃんが受け入れるべきモノを、私が、受け入れてしまえる。この先、レインちゃんを依り代に、邪なるモノが降臨しようとする時には…。


いたいけな少女レインちゃんと健気な少年ダンさんを犠牲にして、世界を救うくらいなら、私は、私自身を贄にして世界を救う道を選ぶだろう。

大好きな人達を思い出す隙も無いくらい、咄嗟に。

大好きな人達を護りたいが故に、自然に。


そんな自分が分かるから。


どうか、この旅の間くらいは、その衝動に駆られません様にと、私は祈っていた。


それが故に、私はまだ、自分の素性をバラすつもりなど無かったのだ。

少なくとも、自分からは。





そんな私の祈りなど虚しく、事態は勢いを増して進んで行く。

世界を滅亡へと導きながら。








****************


私達が、エクセター王国での遺跡の崩壊に会っていた頃。



現世では、空中に浮かぶ、浮遊都市で異変が起こっていた。


浮遊都市の北を守る塔から、眩しい光が溢れた。



浮遊都市を囲う、幾つもの結界のうち、一番外側の結界が。


パチン。


と弾ける様に崩壊する。



其処から、バラバラと紅い雨が降ってきた。



更には。



地上に溜まった紅い水の中から、伝承知識では窺い知れない、未知の魔物が這い出していた。


ソレらは、人を襲う事は無かった。



だが、触れる事も、駆除する事も出来ずに、ただただ、ソコに存在していた。




薄い薄い、紅い影の様に、揺らめきながら。





まるで、何かの合図を待つかの様に。








****************

当然だが、異界を通った私達には、世界の異変は分からない。

上空にも、何の異変も無くて、世界に異変が起こっている事も、異界を通ったという認識も無い。

普通に、場所が変わった、としか感じていないのだ。




そんな私達は、ルカさんの預言を聞いた後、ドンさんの盾の導きに従って、歩を進めた。


さほど掛からず、草原を抜けて、集落の入り口に辿り着いた。

其処は、集落というより、大都市と言っていい規模の都だった。

風の影響を最小限にする為の工夫であろう、二階建ての建物が軒を連ねている。

都市の中心には、寺院と思しき、五階建ての壮麗な建物が、堂々たる存在感を持って建っているのが確認出来る。

どうやら、寺院を中心とした碁盤状の都市であるらしい。

寺院から、都市の通りには、沢山のテントが所狭しと犇めき、露店商が、様々なモノを商っているのが見える。


ここで、ちょっと困った事態が発生した。

一つ。言葉が、ハイルランドの公用語であるドルトニー語ではなく、クシャーン語に聞こえる事。



「他国に居る様なのだ。皆は語学は堪能なのだ?私はばっちりなのだ♪」


私は皆に確認してみる。すると、ダンさん以外は、語学が堪能である事が発覚した。

ダンさんには悪いが、パーティーとして、語学の憂いは無いと思っていいだろう。


さて、二つ目だが。

盾の示す反応が、二手に別れたのだ。


「反応が二つありますな。近くは弱く、遠い方は強い感じですぞ。どう致す?」


ドンが、パーティーに判断を仰ぐ。


「は~い♪近くから行った方が面倒が無くていいと思うのだ♪」


「そうですね。私もライと同じく、そう思います。」


「え?反応の強い所を重点的に潰すんじゃないのか?その方が手っ取り早いぜ?」


「ちっちっちっ!ダン君はまだまだ甘いのだ♪楽しみは最後に取っておいて、弱い所から順に廻るのが、取り逃しが少なくて、最終的には近道だと思うのだ♪リドリーダーは、どう思うのだ?」


「つくづく残念だが、私も反応の弱い方から当たるのが良いと思う。二度手間も防げるし、準備を整える意味もあるからな。」


うざがられていないかな、と、内心ヒヤヒヤしながらの私の発言は、すんなりと可決された。


「という事であれば、進むべきはこちらですな。」


そう言って進むドンさんの足は、ある露店商の前で止まった。


「こちらですな。」



天幕を潜ると、


「おや?見覚えのある方々ですね。どうぞ、いらっしゃいませ。あの遺跡が崩れてニ週間。よくご無事でしたね。こんな遠方の地で再開出来るとは思いませんでした。お互いの無事と再会を祝して、何か買って行かれませんか?勉強させて頂きますよ。」


と、矢継ぎ早に、愛想よく、店主が話し掛けてきた。

それは、エクセター王国で会った、あの、胡散臭い商人だった。


この、怪しすぎる相手に、私はカマをかけてみた。


「お久しぶり、なのだ♪ここに来るまでのキャラバンでは、姿を見なかったのだ。おいちゃん、健脚なのだ?」


自分達の事は棚にあげて、質問してみる。


「私はおじさんではありませんよ?」


クスリと笑って男は言う。


「でも、そんなフードじゃお顔が分からないのだ♪だから、おいちゃん、なのだ♪」


ニヒヒと笑って、言外に、『フードを取りやがれこの野郎。』と要求する。


「では、少しだけ。」


そう言って外されたフードの下から出てきたのは。プラチナゴールドの髪に、ファイアーレッドの瞳の、造り物めいた美貌だった。

彼は直ぐにフードを被り直すと、


「こんな見た目ですからね。要らぬ騒動の種は極力排除したいのですよ。こんな見た目は、女性客同士のトラブルや、権力者に狙われる様なトラブルの種ですからね。私の望む所では無いんです。」


と教えてくれた。彼は更に、


「それから、私はミールック便を使いましたからね。キャラバン隊には居なかったんです。」


と重ねて告げてきた。

確かに、そう聞くと、不自然な所は無い。


だが、この会話で、『ここが何処かを特定する事』が困難になった。

『ここが本当に、普通のキャラバンの足で二週間掛かる都市かどうか』が分からなくなった上に、『この場所を尋ねる事が如何に不自然か、が浮き彫りになる事』に気付いたからだ。

だが、ある推測はついた。

ここが、クシャーン帝国である、という事である。


等と、私が、脳内で、様々な思考を繰り広げている間にも、状況は動いている。


「先日はアミュレットをご購入頂きましたからね。こちらの指輪など如何でしょうか?オススメですよ?」


そう言って差し出された指輪に、ドンさんの持つ盾は大きく反応していた。

ドンさんが、リドリーダーに視線で合図を送る。

リドリーダーはそれを受けて、


「では、そちらを頂こう。」


と、この三文芝居に乗ってきたのだった。









こうして手にした指輪を、私は、またもこっそり魔力での鑑定などしてみたところ…。やはり普通の魔力ではない(今の主流ではない)魔力を帯びる古代の魔道具アーティファクトではないか、と推測できた。アミュレットの時と同じ感じがするのである。



このまま、店主から情報を引き出そうとした時である。

天幕の外から、ザッザッという、足並みの揃った足音が響いてきた。


そして。


「お前らか!異教の怪しき技を行使したのは!」


突然、天幕に僧兵達が入って来て言ったのだ。


「わたくしは違いますよ?怪しい動きはありませんでしたよね?僧兵殿。」


店主は、さらりと自分の保身に走った。

僧兵隊長と思しきその人物は、店主に無言で頷いた。


「え?何の事だ!?」


慌てるリドリーダー達に、


「そこなる一行から、魔導の気配を感知したと、祭司長がおっしゃったのだ!申し開きは、大司教様にして貰おうか!」


そう言うと、僧兵達は、有無を言わさずに、私達を、街の中心、寺院へと連行した。

罪状は、『悪しき力を行使した事による教義違反』。私の使った魔力判定が、『悪しき力』に当たるらしい。

反論は許され無かった。

何故なら、ここが、カースト制度の厳しい、バラモン教が支配する、クシャーン帝国だったからである。




バラモン教の寺院の門を潜り、大司教の前に連れて来られる。司祭長らしき人物が、何やら呪文を唱えている。と、バチンっと、何かが弾ける音がした。

私は、身体が軽くなるのを感じた。


「やはり、お前らは悪の使いだな!大司教様に裁いて頂かねばなるまい!その異形、隠し伊達は通用せんぞ!」



周囲を見回すと、強さの気配の増したメイヴィスさんが見えた。

そして、皆が一様に、驚愕した表情で私の方を見ているのに気が付いた。


…私は、自分の目の端に、サラリと流れ落ちる、赤金色の髪の毛を認めた。…私本来の髪の毛である。

フサリと動くしっぽも、ピクピクと動く耳も、意のままに動かせた。

どうやら、『変身』が解けたらしい。




自分とパーティーの現状を把握する。


一言で言って、最悪である。


パーティーからの私への信頼度は無きに等しいだろうし、捕縛されている今の現状では、発言する事さえ難しい。何とか事態を好転させる機会を伺うが、なかなか隙もなく。

私達は、そのまま牢へと監禁される事となった。






****************



牢の中で、私達は、夜を待つ。

皆の私を見る目が痛い。

けれど、自業自得だ。

自分を偽っての冒険だったのだから。



「さて。レイ・ライン。今度こそ、お前の事を話して貰おうか。」


リドリーダーが、口を開けた。


今まで、ゆっくり話す時間が取れなかったので、調度いい機会なのかも知れない。


私は、覚悟を決めて、話始めた。



「まずは、今まで黙っていて申し訳ありませんでした。私は、本名を『トリスティーファ・ラスティン』と言います。私は、私の彼氏に、心配をかけたくない、という個人的理由で、姿を偽っておりました。彼は、とても情報収集と情報分析に優れています。彼に悟られない様に、架空の人格を演じておりました。後、私はある事情で、殺戮者や魔神から狙われ易く、同行する方々にご迷惑が掛かるかと、心配もしていたんです。だから、お願いします。まだ、私を『レイ・ライン』で居させてください。」


両手を着いて、頭を垂れる。耶都で習った土下座である。


「まぁ、君がレイ・ラインを名乗りたいのは容認しようか。でも、理由が『彼氏にバレたくないから』っていうのは、本気か?」


リドリーダーに問われる。


「はい。それ以外は、身分も目的も偽らざるものです。喋り方と、各種体験を誤魔化してました。すみません。」


私がしょんぼりしながらも告白をしていると、


「各種体験を黙っていた事。それは、私も人の事を言えないですね。経験で言えば、恐らく貴女方より積んでいます。」


すっと右手を挙げて、メイヴィスさんも暴露した。


「ワシは怒っとりはせんよ?ライ殿は、真面目にパーティーに貢献しようと尽力をしとりましたからな。喋り方は多少独特ではありましたが、行動自体は好感の持てるものでしたぞ。それに。経験値と本人の経験は、偽り切れるものではありませんしな。」


ドンさんは、やはり流石の包容力だった。


「でも、何でライは、殺戮者や魔神に狙われ易いんだ?レインが狙われてるのとは訳が違うだろ?」


ダン君が、もっともな質問をする。

私は、ダン君に隠れる様に此方を向く、レインちゃんに注意を払いながら、


「恐らく、レインちゃんは、今回の騒動の、『器なる巫女』でしょう?」


と、尋ねてみた。ビクリとするレインちゃんを見て、確信する。


「内緒にしていて欲しいんですが、私は、レインちゃんと同じ様に『器』なんですよ。つまり、この身に『何か』を宿せるって事です。この事は、過去に一度、レクスに情報が漏れてるんで、それを誰かが知ってるかも知れないと思って警戒していたんです。殺戮者や魔神、非公式ですが、教皇庁が狙ってくるのは、私の『器』としてのランクが、とても優れているから、らしいんですね。」


「…。おい。ライ。お前、何て事をバラしてくれやがるんだ。つまり、お前の話は、これから殺戮者や魔神にも狙われるって可能性を生じさせたんだろう?僕は平穏が好きなんだぞ!?」


リドリーダーが、吠えた。





******************


武器防具の類いを没収されて、牢へと入れられた私達だったが、幸いな事に、例の指輪はそのままリドリーダーの手の中にあった。

ドンさんの盾の示した反応は、この指輪に辿り着いた。

それはつまり、指輪もまた、ドンさんの盾と、この地にある何かとも反応している、という事を示している。


「脱出にこれを利用しない手は無いと、私は考えます。リドリーダー、皆さん、如何でしょうか?」


寺院を覆う巨大な術式によって素性を偽れなくなった上、もう彼等を偽る理由を失った私は、素のままで問うた。


「胡散臭さが一気に消えたな。確かに、ライの言う通り、それしか方法は無いだろう。」



…と言うわけで、見張りを掻い潜り、牢を抜け出した私達は、牢から近い方にある反応を頼りに、没収された装備を取り返した。


「やっと人心地に着きましたね。くっ…でも、変身は使えない様ですね。見馴れないとは思いますが、暫くこの姿でお付き合い願います。」


各自、武器防具を身に纏い、準備を整える。

装備は、調査の為か、監視の控え室に無造作に置いてあった。

監視?

拾った棒を使い、リドリーダーやダンさん、メイヴィスさんが的確に気絶させました。

暫く起きないでしょう。



盾と指輪が揃うと、それまで微弱だった反応が、強さを増した。

私は持てる限りの感覚を鋭敏にして、巡回の僧を察知して、反応の強くなる方向へと案内してゆく。




そして、辿り着いたのは、大方の予想を裏切らず、宝物庫にある、封縛された剣の前だった。


…レインちゃんが言う。


「あの宝具と思われる剣が、次なる鍵の様です。祈りを、捧げなければ…。」


そうして、彼女が、祈りを始めた。すると、レインちゃんの体から発する光が輝きを増した。


その時、当然の事ながら、こんな異変を察知しない組織は無い訳で。バラモン教のトップ、大司教が、この場に現れた。







キィ…と音がして、宝物庫の奥の扉が開かれる。室内に、松明の灯りが射し込む。


「…ほう。誰かと思えば、侵入者諸君か…。」


カツカツと入って来たのは、高位の僧にしてバラモン教のトップ、大司教だった。


「なっ…何で大司教がここに…!?」


慌てる私達に、淡々と此方の状況を把握する大司教。


「ふむ。見るに、トリスティーファ・ラスティンも居るようだな…。器なる者よ。我らが神の器として、我が手に堕ちよ。最高の巫女として歓待しようではないか。どうだ?悪い話ではなかろう?」


レインちゃんの祈りを無視して、私に話し掛けてきた。

つぅっと、背筋に冷たい汗が流れる。


「…その場合、ここに居る仲間はどうなります?」


私は、パーティーの安全、話し合いで解決するための糸口を探るべく、問いを発した。


「勿論、降臨する我が主の為の贄にするのよなあ。当然であろう?異教徒には、過ぎたる光栄よな。」


バラモン教のトップの考えは、あくまでバラモン教を維持するための物に過ぎず、しかも、私達、ハイルランドの住民の定義では、魔神である所の神を狂信的に信じている言動だった。


「私のその情報を知っているとは…。あなた、さてはバラモン教の大司教様では無いですね!?何処の魔神ですかっ!?」


私は、話が通じて欲しいと、一縷の望みを掛けて問いかけた。


「人聞きの悪い。私は偉大なる神の僕よ。我が、バラモン教のな!貴様らが奉る神アーなど、我等からすれば、邪教の神でしか無いのだ!問答は、無用。貴様らは今此処で我が主の糧となり、我がバラモン教の礎となるのだっ!」


流石は自分達の信仰に自信を持ちすぎている宗教組織のトップである。

宗教組織としては正しいのかも知れないが、私とは仲良く出来そうにない。

つまりは柔軟にお話ができる相手では無いのだ。

私は時間を稼ぐ覚悟を決めた。


「リドリーダー、皆さん、下がってレインちゃんを護ってください。こいつは私が受け持ちます。その間に、宝具の確保をお願いします!」


背後に彼等を庇いながら、私は言った。



レインちゃんは、尚も祈っている。



ドンさんは、レインちゃんを護るべく、配置に着いてくれた様だ。




「話し合いは無駄の様だなぁ…。仕方あるまい。」


大司教は言うと、何やら祈りを捧げ始めた。勿論、彼の神に。


「…捧げよ《神々の欠片》(ピース)…今宵は殺戮の宴なり…主よ。お受け取りください。最上の贄を!」



そして、自身の権力を誇示するように、発した。


「出会えい!強盗なるぞ!」






一番忌避していた事態だった。


異教の神の僕として、神の力を顕現せしめた大司教。(人間の姿ん捨てた、異形)。

バラモン教最高の宝具を持ち去ろうとしている一団。

端から見て、悪いのは此方のである。

私は、仲間である彼等に、罪を着せない為にも、悪者になるのは、私一人で良いと判断した。


「ちっ!援軍があるならば仕方ありません。此方も速攻で片を付けます。」


私は、援軍と言う名の目撃者が表れる前に、大司教を目にも止まらぬスピードで叩きのめし、魔神と化した彼を倒すことにした。

護身用の剣を抜き放ち、剣士としての技量を、遺憾無く発揮する。手加減してはいられなかった。





…結論から言うと、勝負事態は、直ぐに片が付いた。


だが、レインちゃんの祈りが終わり、私が、宝具である剣を手にしたのとほぼ同時に、全ての出入口から衛兵が駆け込んできた。


「隊長!大司教様が!」


「あやつら、宝具まで!」


衛兵が騒いでいる。


大司教の姿は、異形から人間の姿に戻り、血溜まりの中に倒れていた。


状況証拠的に、私が大司教を殺した、と見られて仕方ない。




「魔神に操られていた大司教は成敗させて頂きました。去らばですっ!」


私が、捨て台詞を吐くと、前回と同様、目映い光に包まれ、私達は次なる場所へと転移していた。

私の読みは、当たった様だ。





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