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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
『レイ・ライン』の冒険
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4、レイ・ラインの冒険~第一の試練

4、『レイ・ライン』の冒険~第一の試練







何も知らないまま、ダンジョンに立ち入る事。

それは、則ち死に直結する、と、私は学園で習った。

事実、今までのクエストでも、情報の無い状態で安全にクリア出来た試しは無い。

だが、人間関係の構築に欠陥を抱える私には、威圧的なリドリーダー(今思えば、私に不信感を抱いている相手)に、それを上手く伝える事が出来るハズも無く。

仕方無く、私は、リーダーに申請せずに、この遺跡について、以前読んだあらゆる文献に載っていなかったか、思い出してみる事にした。


怪しまれるんだろうなぁ…と思いながら、それでも、パーティーの安全性向上の為に、思い出せた情報を口にした。


「ここは…エクセター王国の死の砂丘だと思われるのだ。古代王朝の特徴と、あの遺跡、神殿だと思うのだ、の、特徴が一致するのだ。残念ながら、それ以上の情報はここからでは判らないのだ。」


扉を出て、目が光に慣れたと思ったら、突然そんな事を言い出した私に、パーティーの皆が目を見張る。


そこに畳み掛ける様に、


「さぁ、近くに人が居たら、話を聞けるかも知れないのだ!調査開始なのだ♪」


と、行動を促す。


「そうですな。確かに、情報が無くては、先には進めませんな。」


はっとした様に、ドンさんが同意してくれた。


「えっ!?直ぐに彼処の遺跡に突入、じゃないのか?」


ダンさんは、直ぐにでも向かう積もりだったらしい。


「最終的には行くのだ。でも、情報を得てからでも遅くは無いのだ。敵を知れば、百戦危うからず、なのだ。」


「ライが言うと胡散臭い。だが、悔しいが、内容はまともだな。丘の下に集落が在るようだ。行ってみるか。」


「そうですね。人がいれば、交渉できるかもしれませんしね。」




私達は集落に足を運んだ。










初めての土地で、キョロキョロと辺りを見回す。

その集落には、ポツリポツリとしか人が居なかった。




集落の入り口での事。


「ここは初めての様ですね。何か買って行かれませんか?」


私達の不慣れな様子を察したのか、露店商の男に声を掛けられた。その男は、全身をフード付きの黒いローブで覆い、砂が入るのを避ける為か、目元以外を黒布で隠している。辺境っぽい土地なのにやけに丁寧な口調をしているのが気になった。

足を止めると、男は更に言葉を紡いだ。


「貴方達、どう見ても旅の者でしょう?せっかくいらしたんです。見て行ってみてくださいませんか?このアミュレットなんて、そこの白い嬢ちゃんに似合いますよ、どうです?男としては、女の子に装飾品の一つでもプレゼントして差し上げるのは?」


ダンさんに焦点を絞ってアプローチしてきた。

ダンさんは、


「そっ…そうだよな。レイン、プレゼント、受け取ってくれるか…?」


と、真っ赤になりながら慌てていた。

その横では、レインさんが、訳が分からない、という風に小首を傾げていた。


「そうだよな…。レインには、この綺麗なアミュレット、見えないんだよな、ゴメン。」



等と言う甘酸っぱい会話が繰り広げられている。

私は、直感的に、コイツは敵だと感じた。

女の子の、という意味ではない。

この男が、この事件の黒幕っぽい感じがしたのだ。

理屈では説明出来ない、『何か』が、しきりと私に警報を鳴らしていた。

だから、私は、警戒しながら、その青年に声を掛ける事にした。



「凄いのだ!良く分かったのだ!この辺りに詳しいなら、教えて欲しいのだ?」



ここまでは明るく言い、次に、リドリーダー達に聞こえないように、声にトーンを落として、



「お前、何者だ?」



と核心に迫るべく聞いてみた。

首筋に刃を突き付ける様な、一欠片の殺気も忘れずに乗せておく。

彼は、動揺もせずに、淡々と、



「私は只のしがない行商人ですよ。」



私にだけ聞こえるように伝えてきた。その上で、皆に不審に思われない範囲の反応で、


「良いですよ。せっかく商品を見て頂けたのです。知っている情報をお教え致しましょう。勿論、情報料は頂きますが。」


と言って、私の殺気を平然と無視したのである。


この時点で不審である。

だから、こっそり、勧められたアミュレットを魔力で探ってみる。


特に目立つ物ではないが、普通の魔力では感知出来ない、マジックアイテムの類いではないかと推測出来た。


「リドリーダー、あのアミュレット、役に立つかも知れないのだ!買ってもいいのだ?」



我が儘な女の子を装いつつ、レインさんの手に渡らないように先手を打つ。


「好きにしたらいい。援助はせんぞ。」


リドリーダーからは、そんな反応が返ってきた。

そこに、ドンさんが口を挟んだ。


「そうですな。確かにワシらはこの地に不慣れ。故にご教授願いたい。この辺りで最近起こった事件などありますかな?ライ殿のアミュレットは言い値で買わせて頂くので、勉強しては貰えんじゃろうか?」



ドンさんの物言いに、男はふっと笑うと、


「良いでしょう。」



と快諾して、話し始めた。









男は語る。


****************



1週間程前に、突如として、この丘の上に遺跡が出現した事。


この集落は、遺跡を調査するであろう、冒険者相手の商売をするべく、人が集まって出来た、新しい集落である事。


だが、冒険者が一向に遺跡に立ち入れない事。


そして、一昨日までの紅い雨で、人が激減した事。


****************


「…という訳で、私が知りうる事はこんな所でしょうか?」


「ありがとーなのだ♪せっかく教えて貰えたのだ。遺跡に行ってみるのだ!」


胡散臭い事この上無かったが、レインさんを連れて遺跡を巡るのは、ミストレスさんの予言により、決定事項と言っても差し支えない。


そうして、露店商を後にする事になった。


私の耳は、背後で、


「またお会いしましょう。我が主の器なる者、白き乙女レインよ。汝の瞳に光の宿らんことを。」


と、小さく呟く男の声を聞き逃す事なく捉えていた。





遺跡の前にて。


私達は、戦闘を繰り広げる事となる。

おおよその予想に違わず、遺跡を守護しているゴーレムは、倒さないと中に入れない仕組みだったからだ。


私は、まず、真っ先に情報収集を謀るべく、伝承にあるゴーレムについて大学で学んだ、魔物学のノートから、魔物の特徴を特定する。

このゴーレムは、ストーンゴーレム。倒せなくは無い相手だと判断した。

 

「ストーンゴーレムなのだ!物理的な攻撃が有効なのだ!」


私は即座に、パーティーに素早く、かつ簡潔に伝えるべく、叫んだ。


次に、メイヴィスさんが


「♪軽やかなる翼の如く舞い踊り、強かなりし、鉄槌の如く汝の敵を穿て♪」


と、美声を紡ぐ。聖なる歌声で、パーティー全体のパワーを底上げしたのだ。


「助かる!いくぞ、ダン。」


「はい!リドさん!」


リドリーダーとダンさんの連携で斬りかかろうとしていた所に、


グオオオオオン


と、轟音が轟く。ストーンゴーレムからの範囲攻撃である、腕の振り回しが襲い掛かってきたのだ。だが、この振りの大きな攻撃は、


「余り、老骨と侮らないで頂きたいですな。」


という、ドンさんの分厚い装甲によって受け止められた。多少のダメージはあったみたいだが、弾くのではなく、受け切ったドンさんの固さを頼もしく感じた。


「今ですぞ。」


ストーンゴーレムの動きを封じ込めて、ドンさんが低い声で、若者達に合図した。


「「ウオオオオオオオオ!!!!!」」


そして、改めて、攻撃力のアップしたリドリーダーとダンさんの攻撃が繰り出されたのである。




…と、こんな感じで、パーティーのバランスが良い事が確認された私達。

サクッとストーンゴーレムを倒して、遺跡を探索する。





遺跡は、神殿となっており、構造自体は到ってシンプルだった。

まっすぐに回廊があり、奥に、祭壇がある。ただ、それだけだった。

神殿内部を隈無く探索したが、祭壇にある、丸い窪み以外に、怪しい場所は見当たらなかった。

ただ、その窪みが曲者だった。

先程買ったアミュレットと一致するくらいの大きさなのだ。

それに気付いた私は、アミュレットを手に、進言する。


「コレ、この穴に嵌まりそうなのだ。レインちゃんは、何か知ってるのだ?」



「そうだな。レインに聞くのがいいよな。この旅の中心は、レインだからな。」



「…祈りを捧げなければならない気がします。」


そう言うと、レインちゃんが徐に、祭壇で祈りを捧げる。すると、徐々に、祭壇から光が満ちた。




不思議な事が起こった。

レインちゃんは、ガクリと倒れた。そして、何者かに操られるみたいに、立ち上がった。見開かれたレインちゃんの瞳が、アイスブルーに輝く。

自我が消え、トランス状態に陥っている様だ。

その状態で、すっと、私の方へ手を伸ばされる。


「宝具・アミュレットを、此処に。新たなる力と共に、次なる聖域へと誘わん。勇者たちよ。力を揃えよ。」



レインちゃんの硝子玉みたいな蒼い瞳が私を見ると、私の手から、アミュレットが浮かび、彼女の元へと浮かんで行った。

カチリ。と音がして、アミュレットが穴に嵌まった。









カッと、一瞬眩いばかりの光が室内に充ちる。

それは、しかし瞬きにも満たない間だった。

次第に光の拡散が収まり、やがて光は収束を始める。

完全に光が消えると、祭壇には、甲羅を持つ竜(玄武)の紋様が浮かぶ盾が、浮いていた。

レインちゃんは、ガクリと膝をついて、はぁはぁと、肩で息をしている。先程までの異常なまでの寒々しい無機質感は消えている。ただ…外傷は無いが、体力が削られているらしい。大分消耗しているのが見てとれた。白い光を宿さない瞳が、宙をさ迷っている。


「レイン!」


ダンさんが駆け寄る。


彼女は、ダンさんの肩を借りて、何とか起き上がった。



「早く…アレを…。」


何とかやっと、という体で、レインちゃんが盾を指差す。


「分かった。盾を手にすればいいんだな?」


ダンさんはそう言い、盾を手に取った。

すると、祭壇が地中に沈み、ぽっかりと穴が開いた。穴は階段になっている様だ。

と、同時に、ぐらぐらという激しい揺れと、地の底から響くような激しい地響きが私達に襲い掛かってくる。


パラパラと上から土埃も降って来た。


周囲をチェックすると、この神殿は崩れ出している事が判った。


「このままでは危ないのだ!階段を降りるのだ!逃げれるかも知れないのだ!」


私は急いで警告を発する。


「ワシが殿しんがりを勤めますぞ!さぁ、皆、急がれよ!」


ドンさんが、皆を急かす。

私達は、祭壇に近い順に、階段を降りて行った。

ドンが階段に潜り込むのと前後する様に、大きな石の天井が、階段の穴を塞いだ。


真っ暗な中を、下へ下へと降りていく。


やがて、長い階段を降りると、扉があった。

その扉を開く以外に、私達に道は無い。


リドリーダーを見つめる。

リドリーダーは、仕方無い、という様に、はぁ。と溜め息を吐いた。


「覚悟はいいか?開けるぞ。」


そして、扉は開かれた。




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