表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
『レイ・ライン』の冒険
107/151

2、『レイ・ライン』の冒険~守護者と預言者

2、『レイ・ライン』の冒険~守護者と預言者








「冒険の始まりは、情報収集からだと思うのだ♪『クリスタルタウン』について、ちょっと調べてみるのだ♪いいのだ?リーダー。」



私は、リドに確認してみた。リドは、すぐにでも走り出してしまいそうな私の首根っこを掴むと、冷静に言った。



「先走るな。ライ。先ずは、レインに事情を聞く方が先だ。」



「そうですぞ。落ち着かれよ。ライ殿。」


ドンにも嗜められた。

しょんぼりである。

そんな私を無視して、リドリーダーが紳士的にレインさんに尋ねた。


「では、教えてくださいますか?何故、『クリスタルタウン』へと貴女を護衛すべきなのかを。そして、世界の滅亡とは何なのかを。」


レインさんが、口を開こうとした、その時である。



バターン!という大きな音と共に、湧水亭の扉が開く。



「デビル・メイ・クライ!『レイン』とかいう女を渡して貰おうか!」



扉を蹴飛ばして入って来たのは、真っ赤なコートに黒い服が特徴的な、二十代半ば位の、スタイリッシュな青年だった。

私は慌てた。

何故ならば、その人は、初級冒険者ではとても太刀打ち出来ない、否、本来の自分でも対抗出来るかどうか怪しい相手であると、知っているのだから。


「うわぁ!びっくりしたのだ!何事なのだ!?」



慌てた振りをして、私は油断なく、レインさんを背後に庇うように場所を移動した。



(何て事!デビルハンターのダンテさんに狙われているだなんて!!)



内心慌てる私を余所に、勿論、ドンさんやリドリーダー、メイヴィスさんにダンさんが、乱入に反応しない訳もなく。

あっさりと、彼にレインさんが居る場所を特定されてしまった。



「そこの嬢ちゃんが、『レイン』だな。」


そう言うと、ダンテさんは、ゆっくりとした足取りで、此方へと歩み寄って来た。








****************




  ・・

この世界には、常識はずれの力を有した存在が産まれる事がある。

例えば、類いまれなる的中率を誇る予言者。

例えば、神をもその身に宿せる『器』なる者。

例えば、望んだ扉を開ける事が出来る『鍵』を造り出せる者。

…例えを挙げれば枚挙に暇の無い程にある、様々な異能。

そして当然ながら、その異能が特異性を増せば増すほどに、彼らは、その力を目当てとした、様々な『何か』に狙われる事となる。

世界の運行に多大すぎる影響を与える様々な『何か』から、出来得る限り護る為。

一般には知られる事の無い事ではあるが、世界の守護者は、『彼らを護る為の存在』を造り出した。


彼の者の名を、『セラフ』。

世界の守護者の造り出したもう、思考を持った、人為らざる者である。




私、トリスティーファ・ラスティンと彼との出会いは、長くなるので割愛させて頂く。しかし、セラフさんは、確かに存在しているのだ。




****************


 

     







カツカツと近付いて来る、ダンテさん。

私は、必死で、考えを巡らせていた。



其所に、キィ、という、小さく扉が開く音がした。

湧水亭の奥の扉が開いたのだ。

扉の中から、足音も立てずに、セリカ風の動きやすそうな人民服を着た青年が、此方へとやって来た。


「セラフさん…。」


私は呟くと、キッとダンテさんの方を向いた。


「リーダー、皆、彼の言う通り、扉の方に行くのだ。」



ジリジリとレインさんを庇いながら、パーティーの皆に告げると。


「このメダルが表を向いたら、貴方の勝ち、裏なら私達を見逃して欲しいのだ。いくのだ!」



ピンっと、以前ダンテさんにもらったコインをトスする。私がトリスティーファ・ラスティンだと、彼に伝える為に。


「おい!ライ!勝手をするな!」


リドリーダーが、私を止めようと肩に手をかける。


「ライ、だと?しかし、そのコイン…お前は…」


ダンテさんは、狙い通り、コインから私をトリスだと気付いたようだ。



「私が誰かなんて今は気にしないで欲しいのだ!私に免じて、この場は見逃して欲しいのだ!」


「いくら顔馴染みのお前の頼みでも、聞けねぇなぁ。こっちも依頼で来てるんでね。」


場が荒れそうになった、その時。

セラフさんが言った。


「貴女方も早く扉へ行って下さい。僭越ながら、デビルハンター殿は私がお相手致しましょう。」



「へぇ。セラフ。お前が相手かよ!相手があんたなら、見逃してもいいな。腕がなるぜ!」


そうして、二人は、すっと、戦闘態勢に入った。


「有難いのだ。今の私では無理だったのだ。セラフさん、お願いしますなのだ。」


私はセラフさんに礼を言い、リドリーダーに引き摺られながら、扉をくぐった。

背後で起こっている戦闘に非常に心を惹かれながらも。



***************




私達がセラフさんの指定した扉を潜った後。


湧水亭では、激しいバトルが勃発したらしい。


残念ながら、私にそれを確認する術は無かったのだが。




****************


『魔術交路』。


それは、現世と魔術を扱う者との出会いの場。

それは、現世における世界の狭間。

『扉』と『扉』の間にある場所。

写し鏡の一枚。


守護者セラフは、『扉』を介して、被守護者と共に、世界中を転々と渡り歩いている。

その、被守護者の為の魔術交路の一室。


扉を潜った私達は其処に通された。



其処は、光に満ちた春の庵の様な場所だった。

爽やかな風が吹き抜け、心地好い空間が広がっていた。

私達の背後以外には、扉は無かった。


目の前に、顔をヴェールで被った妙齢の女性が、円卓に座って居る。


彼女は、私達を認めると、口を開いた。


「間に合ってようございました。どうぞ、お掛けになってくださるかしら?心配なさらなくても、セラフは直に戻りますわ。それまで、しばし、お待ちになってくださいね。」


そう、席を勧める彼女に、レインさんを初め、皆が警戒しているのを、私は感じた。

だけど、ここは安全だと、私には分かっていた。


だから私は、ホッと息を吐くと、


「お言葉に甘えさせて頂くのだ!有難いのだ!」


場を和まそうと早速席に着いた。

そして、レインさん達を見ると、


「皆は座らないのだ?立ちっ放しは、失礼だと思うのだ♪」


と、あからさまに芝居掛かった態度で、着席を勧める。

そんな私に、


「ライ!お前はどうしてそう勝手な行動ばかりするんだ!」


と、リドさん。

すると、ドンに、


「まぁまぁ。リド殿の言うことはもっともですが、ライ殿の言う事にも一理ありますな。女性に招いて貰って、恥をかかせるのは、騎士道に反しますぞ。」


と、フォローを入れてもらった。

のみならず、ドンも着座してくれたのだ。

部屋の主は、それを嬉しそうに、小首を傾げながら見詰めていた。


ドンが着座したのを皮切りに、皆がおずおずと、着席した。



丁度皆が座り終わった頃、背後でパタン。と、扉が閉まる音がした。


「ミストレス。遅くなりまして申し訳ありません。」


振り向くと、セラフさんが優雅に一礼していた。その背後で、スッと扉が消えた。



「早かったですね、セラフ。良かったのですか?」


ミストレスさんのセリフから、彼女が、近づいて来たセラフさんに、全幅の信頼を寄せていると分かる。

ニコリと笑うと、セラフさんは淡々と告げる。


「私の存在意義は、ミストレス。貴女(予言者)と、貴女のお客様をお守りする事です。彼には失礼しましたが、目的を達成した以上、長居は無用です。」


デビルハンターを相手に、さらりとそんな事を言ってのける。


「そうですか。ご苦労をかけました、セラフ。」


セラフさんが背後に立つのを待って、ミストレスさんは、此方に話し掛けた。


「では、皆様。お待たせ致しました。お話を始めましょうか。セラフ。」


ミストレスさんがセラフさんを見る。


「はい。ミストレス。」


セラフさんは、ミストレスさんに促されて、この状況を語り初めた。



「ここは、予言者ミストレスの庵。これより、世界規模での崩壊を防ぐ鍵となる貴殿方に、ミストレスが予言を致します。この度は、その為に、此方にお連れした次第です。急なお招きで、失礼致しました。」




「ちょっと待てよ!此処はどこなんだ!あんたらが敵じゃないって証明は出来んのかよ!」


ダンが、レインを庇う様に敵意を剥き出しにする。


「ここは、魔術交路、という場所の予言者の庵なのだ。信用して大丈夫なのだ。だから、落ち着くのだ。」


出されたお茶を啜りながら、私は言う。


(…まぁ、私が一番の不審者に見えるでしょうけどね…。)


「やけに詳しいな。お前は何者だ。ライ!」


リドリーダーに言われ、皆に頷かれた。


「私は、レイ・ライン。学園の生徒なのだ。ここには、以前来たことがあるのだ。単位取得の為にこのクエストを受注したのだ。ダンさんやレインちゃんに悪意は持って居ないのだ。信じて欲しいのだ…。」


しょんぼりしながら言う。


「って、私の事はいいのだ!レインちゃんの話を聞くのだ!その後、ミストレスさんに予言を頂くのだ!」



が、気を取り直して、私はクエストを進めるべく、情報収集に勤しむ事にした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ