2、『レイ・ライン』の冒険~守護者と預言者
2、『レイ・ライン』の冒険~守護者と預言者
「冒険の始まりは、情報収集からだと思うのだ♪『クリスタルタウン』について、ちょっと調べてみるのだ♪いいのだ?リーダー。」
私は、リドに確認してみた。リドは、すぐにでも走り出してしまいそうな私の首根っこを掴むと、冷静に言った。
「先走るな。ライ。先ずは、レインに事情を聞く方が先だ。」
「そうですぞ。落ち着かれよ。ライ殿。」
ドンにも嗜められた。
しょんぼりである。
そんな私を無視して、リドリーダーが紳士的にレインさんに尋ねた。
「では、教えてくださいますか?何故、『クリスタルタウン』へと貴女を護衛すべきなのかを。そして、世界の滅亡とは何なのかを。」
レインさんが、口を開こうとした、その時である。
バターン!という大きな音と共に、湧水亭の扉が開く。
「デビル・メイ・クライ!『レイン』とかいう女を渡して貰おうか!」
扉を蹴飛ばして入って来たのは、真っ赤なコートに黒い服が特徴的な、二十代半ば位の、スタイリッシュな青年だった。
私は慌てた。
何故ならば、その人は、初級冒険者ではとても太刀打ち出来ない、否、本来の自分でも対抗出来るかどうか怪しい相手であると、知っているのだから。
「うわぁ!びっくりしたのだ!何事なのだ!?」
慌てた振りをして、私は油断なく、レインさんを背後に庇うように場所を移動した。
(何て事!デビルハンターのダンテさんに狙われているだなんて!!)
内心慌てる私を余所に、勿論、ドンさんやリドリーダー、メイヴィスさんにダンさんが、乱入に反応しない訳もなく。
あっさりと、彼にレインさんが居る場所を特定されてしまった。
「そこの嬢ちゃんが、『レイン』だな。」
そう言うと、ダンテさんは、ゆっくりとした足取りで、此方へと歩み寄って来た。
****************
・・
この世界には、常識はずれの力を有した存在が産まれる事がある。
例えば、類いまれなる的中率を誇る予言者。
例えば、神をもその身に宿せる『器』なる者。
例えば、望んだ扉を開ける事が出来る『鍵』を造り出せる者。
…例えを挙げれば枚挙に暇の無い程にある、様々な異能。
そして当然ながら、その異能が特異性を増せば増すほどに、彼らは、その力を目当てとした、様々な『何か』に狙われる事となる。
世界の運行に多大すぎる影響を与える様々な『何か』から、出来得る限り護る為。
一般には知られる事の無い事ではあるが、世界の守護者は、『彼らを護る為の存在』を造り出した。
彼の者の名を、『セラフ』。
世界の守護者の造り出したもう、思考を持った、人為らざる者である。
私、トリスティーファ・ラスティンと彼との出会いは、長くなるので割愛させて頂く。しかし、セラフさんは、確かに存在しているのだ。
****************
カツカツと近付いて来る、ダンテさん。
私は、必死で、考えを巡らせていた。
其所に、キィ、という、小さく扉が開く音がした。
湧水亭の奥の扉が開いたのだ。
扉の中から、足音も立てずに、セリカ風の動きやすそうな人民服を着た青年が、此方へとやって来た。
「セラフさん…。」
私は呟くと、キッとダンテさんの方を向いた。
「リーダー、皆、彼の言う通り、扉の方に行くのだ。」
ジリジリとレインさんを庇いながら、パーティーの皆に告げると。
「このメダルが表を向いたら、貴方の勝ち、裏なら私達を見逃して欲しいのだ。いくのだ!」
ピンっと、以前ダンテさんにもらったコインをトスする。私がトリスティーファ・ラスティンだと、彼に伝える為に。
「おい!ライ!勝手をするな!」
リドリーダーが、私を止めようと肩に手をかける。
「ライ、だと?しかし、そのコイン…お前は…」
ダンテさんは、狙い通り、コインから私をトリスだと気付いたようだ。
「私が誰かなんて今は気にしないで欲しいのだ!私に免じて、この場は見逃して欲しいのだ!」
「いくら顔馴染みのお前の頼みでも、聞けねぇなぁ。こっちも依頼で来てるんでね。」
場が荒れそうになった、その時。
セラフさんが言った。
「貴女方も早く扉へ行って下さい。僭越ながら、デビルハンター殿は私がお相手致しましょう。」
「へぇ。セラフ。お前が相手かよ!相手があんたなら、見逃してもいいな。腕がなるぜ!」
そうして、二人は、すっと、戦闘態勢に入った。
「有難いのだ。今の私では無理だったのだ。セラフさん、お願いしますなのだ。」
私はセラフさんに礼を言い、リドリーダーに引き摺られながら、扉をくぐった。
背後で起こっている戦闘に非常に心を惹かれながらも。
***************
私達がセラフさんの指定した扉を潜った後。
湧水亭では、激しいバトルが勃発したらしい。
残念ながら、私にそれを確認する術は無かったのだが。
****************
『魔術交路』。
それは、現世と魔術を扱う者との出会いの場。
それは、現世における世界の狭間。
『扉』と『扉』の間にある場所。
写し鏡の一枚。
守護者セラフは、『扉』を介して、被守護者と共に、世界中を転々と渡り歩いている。
その、被守護者の為の魔術交路の一室。
扉を潜った私達は其処に通された。
其処は、光に満ちた春の庵の様な場所だった。
爽やかな風が吹き抜け、心地好い空間が広がっていた。
私達の背後以外には、扉は無かった。
目の前に、顔をヴェールで被った妙齢の女性が、円卓に座って居る。
彼女は、私達を認めると、口を開いた。
「間に合ってようございました。どうぞ、お掛けになってくださるかしら?心配なさらなくても、セラフは直に戻りますわ。それまで、しばし、お待ちになってくださいね。」
そう、席を勧める彼女に、レインさんを初め、皆が警戒しているのを、私は感じた。
だけど、ここは安全だと、私には分かっていた。
だから私は、ホッと息を吐くと、
「お言葉に甘えさせて頂くのだ!有難いのだ!」
場を和まそうと早速席に着いた。
そして、レインさん達を見ると、
「皆は座らないのだ?立ちっ放しは、失礼だと思うのだ♪」
と、あからさまに芝居掛かった態度で、着席を勧める。
そんな私に、
「ライ!お前はどうしてそう勝手な行動ばかりするんだ!」
と、リドさん。
すると、ドンに、
「まぁまぁ。リド殿の言うことはもっともですが、ライ殿の言う事にも一理ありますな。女性に招いて貰って、恥をかかせるのは、騎士道に反しますぞ。」
と、フォローを入れてもらった。
のみならず、ドンも着座してくれたのだ。
部屋の主は、それを嬉しそうに、小首を傾げながら見詰めていた。
ドンが着座したのを皮切りに、皆がおずおずと、着席した。
丁度皆が座り終わった頃、背後でパタン。と、扉が閉まる音がした。
「ミストレス。遅くなりまして申し訳ありません。」
振り向くと、セラフさんが優雅に一礼していた。その背後で、スッと扉が消えた。
「早かったですね、セラフ。良かったのですか?」
ミストレスさんのセリフから、彼女が、近づいて来たセラフさんに、全幅の信頼を寄せていると分かる。
ニコリと笑うと、セラフさんは淡々と告げる。
「私の存在意義は、ミストレス。貴女(予言者)と、貴女のお客様をお守りする事です。彼には失礼しましたが、目的を達成した以上、長居は無用です。」
デビルハンターを相手に、さらりとそんな事を言ってのける。
「そうですか。ご苦労をかけました、セラフ。」
セラフさんが背後に立つのを待って、ミストレスさんは、此方に話し掛けた。
「では、皆様。お待たせ致しました。お話を始めましょうか。セラフ。」
ミストレスさんがセラフさんを見る。
「はい。ミストレス。」
セラフさんは、ミストレスさんに促されて、この状況を語り初めた。
「ここは、予言者ミストレスの庵。これより、世界規模での崩壊を防ぐ鍵となる貴殿方に、ミストレスが予言を致します。この度は、その為に、此方にお連れした次第です。急なお招きで、失礼致しました。」
「ちょっと待てよ!此処はどこなんだ!あんたらが敵じゃないって証明は出来んのかよ!」
ダンが、レインを庇う様に敵意を剥き出しにする。
「ここは、魔術交路、という場所の予言者の庵なのだ。信用して大丈夫なのだ。だから、落ち着くのだ。」
出されたお茶を啜りながら、私は言う。
(…まぁ、私が一番の不審者に見えるでしょうけどね…。)
「やけに詳しいな。お前は何者だ。ライ!」
リドリーダーに言われ、皆に頷かれた。
「私は、レイ・ライン。学園の生徒なのだ。ここには、以前来たことがあるのだ。単位取得の為にこのクエストを受注したのだ。ダンさんやレインちゃんに悪意は持って居ないのだ。信じて欲しいのだ…。」
しょんぼりしながら言う。
「って、私の事はいいのだ!レインちゃんの話を聞くのだ!その後、ミストレスさんに予言を頂くのだ!」
が、気を取り直して、私はクエストを進めるべく、情報収集に勤しむ事にした。