[幕間:『トロメア』 1]
時間軸的に、このタイミングで起きた事なので、違和感はあるかもしれませんが、挿入します。
[幕間:『トロメア 1]
一方、その頃。
学園の受付では、ちょっとした問題が起きていた。
受付の小窓にチョコンと出る小さな手。ぴょこぴょこと上下する赤金の頭が、警備員の目に映ったのだ。
警備員は、表に出ると、3歳くらいに見える小さな女の子に視線を合わせて聞いた。
「どうしたのかな?お嬢さん。誰と来たのかおじさんに教えてくれるかな?」
蒼い瞳を輝かせて、彼女は元気よく答えた。
「おとーさん!」
「うん。お嬢さん、お父さんって誰か言えるかな?」
根気よく尋ねる警備員。
「おかーさんがおとーさんはここにいるって言ってた!」
「うん。じゃあ、お父さんかお母さんの名前は言えるかな?」
ブンブンと首を横に振る女の子。
「おかーさんがこえを見せなしゃいって言ってた!」
そう言って、くるりと後ろを向くと、背中に背負ったトリス愛用のケルバーソードを見せたのだった。
そんな警備員さんと女の子の小さな騒ぎを一人の男が見ていた。そして、彼は、彼女のケルバーソードを知っていた。彼の名はアルヴィン。トリスと同期であり、イベントを運ぶ男とも呼ばれる、トレジャーハンターである。
彼は、困惑する警備員に声を掛けた。
「警備員さん。その子、俺が責任持つわ。多分こいつの言ってるの、トリスだ。引き渡してくる。」
「アルヴィンさん。すみません。頼みます。」
天の助け、とばかりに、警備員はその子をアルヴィン君に任せる事にしたのだった。
「おい!トリスいるか?」
アルヴィン君は、楊先生の研究室の扉を開けるなり言い放った。
「トリスなら、暫く実家に帰ると言っていたな。それが、どうかしたのか?アルヴィン。」
アリ君は、自分が知っている情報をアルヴィン君に開示した。
「あ~…居ねぇのか…。どうすっかなぁ…この子。」
困った様にぽりぽりと頬をかくアルヴィン君。
その足許から、ひょっこりと顔を出したのは、一人の女の子だった。
浅黒いが、肌目の細かい肌、赤金色の髪の毛、そして、蒼い瞳の、トリスとアリ君を足して二で割った様な風貌をした3歳くらいの子供である。
彼女は、アリ君を発見すると、瞳を輝かせてアリ君を指差しながら、元気いっぱいに言った。
「おとーさん!」
固まる室内。
凍る空気。
静まり返った空気を破る様に、クリアさんは口を開いた。
「アリ君、隠し子?隅に置けないわねぇ♪」
そう言って、嬉々として、アリ君をからかい始めたのだ。
「違うわ!」
勿論、顔を真っ赤にして否定するアリ君。
途端に、ふぇっと泣き出しそうになる女の子。
それに気付いたアリ君達は、
「泣くな~、泣くんじゃないぞ~?」
と、及び腰ながらも女の子をあやしにかかった
五分後。やっと落ち着いた女の子を前に、
「おとーさんは、アリ君なのね?じゃあお母さんは?」
クリアさんは女の子に質問しながら、彼女を観察した。
すると、女の子が、トリスの大切にしていたペンダントと、トリス愛剣のケルバーソードを持っていることに気が付いた。
女の子は困った様に、
「いない…。」
と、しょんぼり答えた。
クリアさんは根気強く、
「ここには居ないのね?」
と聞いた。
こくり。と力強く頷く女の子。
「そう。良い子ね。じゃあ、お名前は言えるかな?」
ふるふるふる。
首を横に振る女の子。
「困ったわねぇ。貴女、何か手紙とか預かっていない?」
クリアさんは、重ねて女の子に質問した。
「あい!」
元気よく返事をして、トコトコとアリ君の傍まで来た彼女は、一通の手紙を彼に差し出した。
『親愛なる、アリス・トートス様。
私がいない間、私の武器、この子を預かって下さい。
尚、現在の私は、この子の事を知りません。
ですが、私にとっては大事な子です。
信頼できる貴方にしか託せません。
現在の私には、この子の事は伝えないでください。時間軸が歪んでしまいます。
ですが、必要な時期が来たら、この子が私へと貴方を導いてくれます。
だから、大切にしてください。
お願いします。
未来より、愛を込めて。
トリスティーファ・ラスティン
追伸。この子には記憶が無いでしょうから、名前はアリ君が決めてくださいね♪』
その手紙には、トリスの筆のアリ君へのメッセージが綴られていた。
手紙から顔を上げるアリ君。
目の前には、きゅるんとした無邪気な瞳で見上げる、自分と自分の彼女にそっくりな幼子。
ふぅ。と、アリ君は、溜め息を一つ吐くと、女の子の頭をポンポンと撫でた。
そして、固唾を飲んで見守っていた皆に、手紙を見せながら告げた。
「見ろ。トリスからの手紙だ。この手紙から推測するに、この子は未来から来た、トリスと私の子である可能性が高い。何らかの事情があって、過去にタイムスリップさせられたのだろう。」
ざわめく室内。
「本当にトリスからか?間違いじゃねぇのか?」
手紙をピラピラと観察しながらアルヴィン君が言う。
「何故そう思う?アルヴィン。」
「だってよぉ…アリ。トリスにしては、この手紙、内容が吟味されてるぜ?」
「ふむ。それも考えたんだが…。未来の彼女ならば、この位書けるようには成長しているかも知れんと思ってな。間違っても、今までのトリスには無理だろうが。」
「そうだね。トリスだもんね。」
リースさんの一言に納得する一同。
「じゃあ、その手紙を全肯定するとして、この子は何て呼ぶのかしら?」
クリアさんが話を戻した。
「ふむ…。この子は、未来の私にとって3番目に愛しい存在になる訳だな…。では、『トロメア』と呼ぶことにしよう。構わないか?」
アリ君が屈んで女の子に聞くと、彼女は嬉しそうに頷いた。
こうして、楊先生の研究室に、新たな同居人が増えた。
この子の活躍迄、エタらない様に頑張りたいです。
でも、まずは、レイ・ラインの冒険を完結する事を目指します。