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トリスの日記帳。  作者: 春生まれの秋。
『レイ・ライン』の冒険
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1、『レイ・ライン』の冒険~冒険の始まり

新章開始です。

よろしくお願いいたします。


[第十二章:『レイ・ライン』の冒険]





1、冒険の始まり






アリ准教授の授業に参加する、という試みは、一応成功した。

しかし、私には、毎時間講義に参加できる可能性は、残念ながら、ほぼ無い。

なので、単位を獲得すべく、グリーンヒル先生に相談する事にした。

すると、先生は、事情を心得てくれて、単位獲得の為の依頼を持って来てくれた。




私は、『レイ・ライン』としての単位を取得すべく、依頼の場所へ旅立つ事にした。




勿論、アリ君には内緒だ。

実家に一時帰宅する、と伝えてある。

今まであまり単独行動を取らなかった私がの単独行動をする。私のこの、自主的な行動に、アリ君は、心配はすれど、快く私を送り出してくれた。

…どうやら、私の精神的な成長に、思うところがあるらしい。




辻褄を合わせる為にも、私は、まず、実家に寄った。そして、私を象徴する武器である、パンドラをお母様に預けた。


「トリスちゃん。パンドラのメンテナンスは任せておいて。立派に成長させるからね♪」


お母様の不穏な発言に見送られて、私はラスティン家を後にした。







そして、今。私は、水路の交易都市ケルバーの南門前にある、湧水亭にいる。

私は、湧水亭に入ると直ぐに、


「アーサガさん、カイル君。お久しぶりです。この姿では、初めまして、ですね。トリス改め『レイ・ライン』です。この依頼を受けたので、そのつもりで対応を宜しくお願いします。」


と、既知のマスター達に手早く事情を説明した。


「これは…初級冒険者用の護衛依頼のクエストだな。了解だ。」


アーサガさんは、短く頷いて、私の事情を察知してくれた。


カイル君は、大きな声で返事をしようとした様だが、ゴンっとアーサガさんに頭を殴られていた。


「カイル。態度に出過ぎだバカモンが!」


カイル君にだけ聞こえる様に、アーサガさんが呟いた。


「ってぇなぁ親父!でも、分かったよ!トリスの為だもんな。気を付ける。」


カイル君もポソリと口の中で返事をしていた。



私の耳は、その会話を拾っていたが、私は気付いてないふりで遣り過ごした。仲の良い親子の暖かな心遣いに、胸が温かくなったからである。




アーサガさんは、気を取り直した様に、コホンと咳払いを一つした。


「おう。嬢ちゃん。あんたでその護衛依頼の受注者は最後だぜ。カイル。5番テーブルにご案内しろ!」



そして、高らかに手を鳴らして、カイル君に告げる。


「おう!親父!」


今度は元気よく返事をして、ニヤリと笑ったカイル君は、


「こちらへどうぞ。お嬢様。なんてな。」



と、右手を胸に、左手でエスコートの真似事をしながら、私を席へと案内してくれた。

ウィンクしながらだったのは、明らかに悪乗りした結果だろう。




そうして、案内された席に居たのは、4人の人物だった。



「君で最後かな?僕は事前にここに来たメンバーでの纏め役をしていたんだ。リドと呼んでくれ。アタッカーをしている。」


二十歳を過ぎたと思われるくらいの青年が、すっと立ち上がって挨拶してくれた。

私は、彼に好印象を抱いた。

理想的な纏め役だな、と思い、リーダーにしようと感じた。

で、私も挨拶を返さなくてはならないのだが、万が一、魔神に狙われやすい性質がバレると厄介なので、私は敢えて特徴的な話し方をすることにした。



「遅れてしまって申し訳ないのだ。レイ・ラインというのだ。情報収集などのサポーターをしているのだ。宜しくお願いします、なのだ。」



怪しさは抜群だが、トリスとはかけ離れているので、問題ないだろう。


次に、齢60位と見える、重厚な佇まいの男が、口を開いた。



「ワシはガード役を担当する。名前はキホーテ。古馴染みからは、親しみを込めて、ドン・キホーテと呼ばれておる。まだまだ若いもんには負けんぞ。」



かかと笑った姿に、歴戦の戦士の誇りが窺えた。

気持ちの良いくらいに清々しい、防御に特化した姿だった。


「では、私も、尊敬を込めてドンと呼ばせて頂くのだ。宜しくなのだ♪」



ニコニコと、ドン・キホーテに挨拶を返した。



円卓を右回りに自己紹介が進んでいく。

3番目は十代半ばくらいの女性だった。


「私はメイヴィス。回復を担当します。」


キリリとした、貴族然としたお姉さんである。

最後に居たのは。

十代前半の元気の良い少年だった。



「俺はダニエル。ダンって呼んでくれ!リドさんと同じくアタッカーで、今回の依頼は俺の出したもんだ。彼女を、護るのを手伝って欲しい。」



そう言った彼の脇には、いつの間にか、一人の白い女の子がいた。


『白い』とは、比喩ではない。抜けるように白い肌に、光を反射するさらさらなプラチナブロンドの白髪。目は、何も映さない光を宿さない白だった。



「ほら、挨拶して。」



ダンが促すと、彼女は頬を赤らめながらたどたどしく言葉を紡いだ。



「私は、レインと言います。私を、クリスタルタウンに連れて行って頂きたいのです。…世界が、滅びる前に。」




新たな冒険の始まる音を聴いた瞬間だった。







 


「世界の滅亡云々は怪しすぎるが、要は君の護衛をすればいいのだな。判った、お受けしよう。」


「少年少女の頼みを断るのは、騎士に非ずですな。ワシはこの任、お受けしますぞ。」



「私でお役に立てるなら。宜しくお願いする。」


「世界の滅亡は大変なのだ♪リドリーダーの指示に従うのだ!頑張るのだ♪レイとレインで似た者同士なのだ♪嬉しいのだ!」



私が敢えて明るく言うと、うんざりしたようなリドの声がした。



「レイ。君はなんでそんな話し方なんだい?そもそも僕がリーダーってなんなんだい?僕はリーダーという柄ではないぞ?」


「気にしちゃイヤンなのだ♪リドはリーダーに向いていると思うのだ♪」


「なるほど。確かにリド殿はリーダーにぴったりですな。よろしく頼みますぞ。しかし、レイ殿とレイン殿は確かに似ていて呼びにくいですな。レイ殿をライ殿と呼んでも良いですかな?」


「勿論なのだ♪ドンのおっちゃん♪分かりやすいのは良いことなのだ♪」


こうして、レインちゃんをクリスタルタウンに連れていく、というクエストは受注されたのでした。




冒険の始まりは、ワクワクしますね。


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