3、新たなる生活~アリ君の授業に初参加。
3、新たなる生活~アリ君の授業に初参加。
身分証を手に入れた私は、名前と姿を変えてみた。
とりあえず、変身を使い、モブっぽい見た目に変えた。
名前も、『レイ・ライン』(偽り、嘘の意味)と名乗る事にした。
そして、こっそり、学園の廊下を歩いてみた。
すれ違う人は、誰も不振がらず、トリスとしての知人達にも気付かれない。
これに気を良くした私は、念願の、アリ君の講義に参加してみる事にした。
ドキドキしながら、アリ君の授業を受けるべく、教室に入る。
いつもと違い、後ろの席に座る。
ザワザワとしている室内。
「よう。お前初めて見るな。」
隣に座っていた少年が、声をかけてくれた。
「はい。初めての講義になります。まだ何も決めていないんです。宜しくお願いしますね。」
私は、不自然の無いように答えた。
「おう!俺はケイン。宜しくな。」
にかっと笑う少年。
私もにこりと笑って返事を返す。
「ところで、この講義は、どんな講義なのですか?」
「冒険というか、この世界の歩き方※冒険のやり方※についての講義だぜ?」
成る程。基本中の基本、というやつですね。
「お、先生が来たぞ。実は、前の扉から入ると落とし穴があるんだ。楽しみだな。」
ケイン君が、こっそり教えてくれた。
アルヴィン君みたいな事をする人だなぁ。と私は思った。
けれど、あの人が、そんなに簡単に引っ掛かるかしら?
ガラリと後ろの扉が開いて、アリ君もとい、アリ准教授が入室してきた。
「前から来ると思ったか?甘いぞ?諸君。悪戯は相手を見極めて仕掛けるんだな。それでは、講義を開始する。」
平然と、罠を回避しました。
楊先生みたいです。
「私の授業は、前にも伝えたが、基本的にテストにクリアすれば単位を授ける。私が気に入らない等の理由のあるものは、退室して構わない。やる気の無いものは要らんからな。今から三分待つ。出ていく者は今のうちに退室せよ。」
尊大な態度で、学生を見下した言い方をする、アリ准教授。
何か訳があるのでしょう。
「私の授業の注意点としては、以下の通りである。まず、連続して行う集中講義である、という事。次に、急に休講になる場合があるという事。最後に、メモは各自で録ること。ここまでで、何か質問は?」
一気に捲し立てて、アリ准教授は続ける。
「無いな?では講義に入る。」
そうして始まったのは、アリ君の得意な戦術・戦略の話ではなく、一般的な旅の心得だった。
「…という訳で、ハイルランドと他国との交流が盛んになってくる時代が来る。今は一般的には、砂漠を抜けるルートしかないわけだが、その際に必要な物は何だと思う?」
アリ准教授の話に夢中になっていた私は、つい、自分がアリ君に内緒で講義を受けている事を 忘れて、何時もの調子で質問をすべく、挙手していた。
「はい。先生。質問です。」
「質問とは珍しいな。えーっと…ん?名簿に無いな。君は?」
アリ准教授に指名され、焦る私。
「えっと。お試し受講なんです。レイ・ラインと言います。すみません。」
何とか言い逃れるべく、誤魔化しを述べる。バレないか、内心ヒヤヒヤである。
「まぁいい。それで?」
多少疑問を抱かれたが、アリ君には気付かれずにすんだ。
「旅に必要なのは、水、食料、日差しを避ける為のマント、後夜を凌ぐ為の防寒着だと思うのですが、他に気になる点があるのです。よろしいですか?」
「良く勉強しているな。正解だ。では、君が気になった疑問点とは何だ?」
「はい。いずれ他国との交流が盛んになる、とはどうしてでしょうか?」
「冒険者によって、ハイルランドの外にも、国がある事が確認され、交易路も整いつつあるからだな。」
そうやって、私が質問し、アリ准教授が答えていると、私に触発されたのか、他の学生も、発言を始めた。
私は、私の行動で、皆の感心を深める事に成功して、嬉しく思った。
アリ准教授の授業は面白く、為になる、と印象付けられた事。
積極的に授業を受けると、得られる事が多くなる事を、他の学生に気付いて貰えたかもしれない事。
この二点に成功した手応えを感じたからである。
私は不定期にしか、授業に参加出来ない立場にある。だから、せめて、その位の貢献を、学園に返したかったのである。
『活きる』という目標に取り組むべく、私が出来る細やかな一歩なのだから。