2、新たなる生活~私の立ち位置
2、私の立ち位置
私は一応、グリーンヒル先生の認定の下、この学園を一度卒業している。
帰還報告の際に、卒業証書も頂いたのだ。
その時、師に言われた言葉は、私に深く刻まれている。
「トリスには難しいかも知れんが、自分自身を信じ、自信を持て。分からない時、道に迷った時には、誰かに相談するんだ。お前には、沢山の支えてくれる仲間がいる。
それを忘れるな。私も、同期の奴等も、きっとお前に力を貸すからな。自分を信じ、自分の信じる者達を信じろ。お前の師である事を、私は誇りに思っているぞ。何せ、私の厳しいトレーニングについて来れたのだ。誇っていいぞ!トリス、卒業おめでとう。」
思えば、私は、グリーンヒル先生に何れ程支えられて来ただろうか?
人間関係の築き方が分からなかった私に、何か躓きがある度に、グリーンヒル先生は、その翼の下を貸してくださり、様々な助言を下さった。
私にとっては、トレーニングよりも、余程厳しい『人間関係の構築』。その過程に於いて、先生がいなくては、今の私は有り得ないのである。
一般的な、『指導教官』に対する上下関係よりも、余程深く、私はグリーンヒル先生に感謝と畏敬の念を抱いているのだ。
そんな先生に、「誇れ。」と言われて、誇らない、誇れない自分でいる事は、私の矜持が許さない。
こうしてまた一つ、私は私を支える心の欠片を手に入れたのである。
そんなこんながあって、実は座学もクリアしていたらしい私は、あっさり卒業していた。
だが、アリ君に認められ、モーリィさんに助言を受け、グリーンヒル先生に薫陶を受けた私だが、生来の自信不足、消滅願望が未だに胸に巣食っている事は否めない。
うっかり思考をさ迷わすと、自然と消滅への道筋を辿ってしまう癖がついているのだ。
私は、いつも、 そんな自分を、少しずつでも、変えていきたかった。
大好きなアリ君の傍で、誇りの持てる自分であるために。
さて。アリ君は、自分の職業も、棲み家も整えて、活動拠点を決めた。
私も、自宅を拠点として、一緒に行動出来る体を保っている。
だが、このままで良いのだろうか?
私は考える。
しかし、いくら考えてみても、答えも、やり方も、私一人のちっぽけな頭では、解答にも解決法にも辿り着けない。
今までならば、迷って迷って、更に迷って、グリーンヒル先生の羽根の下でうじうじと思考の迷宮をさ迷うだけだった。
今は、違う。
皆に教えて貰った。
分からない時は、周囲に頼る事を。
些細な疑問も、聞いていいんだって事を。
「アホだなぁ。」や「バカだなあ。」と思われるという事は、悪いことばかりではなく、親愛の発露なんだという事を。
決して、侮辱しての感情なだけでは無いことを。
その奥には、得難い『何か』を潜ませている場合があるという事を。
世界は、自分を傷付けるばかりではなく、受け取り方によって、愛に満ち溢れている事を。
受け取る、資格は、誰にでも、平等にある、という事を。
だから、私は、楊先生の研究室にいる先生方に相談を持ち掛けた。
「あの、先生方。アリ君達には内緒で、授業を受ける、なんて事は可能ですか?卒業は出来ましたけど、まだまだ学びたい事に満ち溢れているんです。」
「何で、アリ君達には内緒、なんだい?」
「はい。楊先生。自分の未熟を、許せないからです。」
「それだけか?」
「いいえ。グリーンヒル先生。違います。アリ君の授業を、こっそり見てみたいのもあります。自分の知らない彼を知りたいという好奇心ですね。それに、一人でどれだけやれるか、試したいんです。今までは、誰かに助けて貰って、やっと立っているというのが私でしたから。」
「で、どうする積もりだ?」
「姿を変えて、入学し直したいんですが、可能でしょうか?」
「なんや。それやったら簡単や。理事長先生にも許可を貰って来たるから、ちいと待っとき。書類用意したる。」
5分後。ジョン先生のご協力の下。
あっさりと、私は再び、正式な学生としての身分を手に入れたのだった。
スマホ操作、難しいですね。
何時も通りには、執筆が進みません。
更新ペースが、週1~3くらいになるかと思います。