【8】ログアウトと掲示板(1)
食事は和気藹々とした雰囲気で終わり、会計を済ませると今日はお開きとなった。
パンのおかわりを頼んでしまい、ルチアに呆れられてしまったことはご愛敬というものだろう。純粋に美味しかったというのもあるが、いくら食べても不思議と満腹にならなかったため、手が止まらなかった。これはそう、きっとゲームの仕様のせいだとマリーは自身に言い聞かせていた。
「明日ログインしたら、ちゃんと王都を観光しようね!」
ルチアと別れを告げて、そのまま案内された部屋に入る。
四畳半程の室内は狭く、ベットと簡易テーブルしか置いていない。まさに一晩寝るためだけに整えられている感じがした。
ベットに腰掛け、琥珀に声を掛けてからログアウトボタンと押す。最終確認であるYES/NOの選択画面で前者を選択すると、ゆっくりと視界が暗転した。
「ふぅ……んっ、んー」
意識が現実へと戻り、茉莉はゆっくりと瞼を開けた。
電気は付けたままだったので室内は明るい。ベットの上で背筋を伸ばすと中のスプリントがミシリと音を立て、一息付くと心地の良い疲れが四肢に残っていることに気が付く。PSTをプレイ中の現実の身体はずっと仰向けになっていたはずだが、頭では信号を出し続けていたためか、少しばかり起き上がるのが億劫だった。
ヘッドギアを外してごろりと身体を九の字に曲げ、壁掛け時計を見ると長針は夜の十時を指している。向こうでは四時間ほど動いていたはずだが、ログインしてから一時間半ばと経っていない。
この感覚は暫くは慣れないかもしれないなあと、茉莉は頬を緩めて胸に抱いたヘッドギアの縁をそっと撫でていく。
「いい。やっぱりいいな」
PSTは茉莉の期待に十分応えてくれた。久々のゲームというもの理由としては大きいが、何より共通の話題で楽しめることが素晴らしい。
思えば、あんなにも子供のようにはしゃぐのは何時ぶりだっただろう。付き合ってくれたルチアには少々からかいすぎたかなと多少は気負いする部分もあるため、何かお詫びの品を渡しておこうとそっと胸に誓った。
鼻歌交じりにベットから起き上がり、浴槽にお湯を張っていく。湧き上がるまでの間、適当にニュース番組を見ながら『Phylogenetic Skill tree Online』の公式掲示板を立ち上げた。とりあえず欲しい情報は主に召喚獣について。該当スレッドが立っていないかを調べていると目的のものを発見する。
♢
1:名無しの来訪者
http://**********←最初
http://**********←前スレ
ここは召喚術と召喚獣について語るスレです
召喚獣と仲良く楽しいPSTライフを送りましょう
次スレは>>970が立てること
2:名無しの来訪者
有志による統計上の召喚法則
『物理』 地>火>闇>聖>水>風『魔法』
『前衛』 火>闇>地>風>聖>水『後衛』
『火力』 闇>風>火>地>水>聖『補助』
『耐久値大』地>闇=聖>水>火>風『耐久値小』
~~
452:名無しの来訪者
召喚獣のスキルが5つあるけど当たりでいいの?
453:名無しの来訪者
>>452自慢乙
454:名無しの来訪者
>>452
数はあるに越したことないがスキルの内容次第やで
スキル数は3~7。最低値でも組み合わせ次第では化けてるのもいるから気にしすぎないこと
455:名無しの来訪者
>>454ありがとう。ちょっとスキルの説明見てくる!
456:名無しの来訪者
人に近いほどスキル数多くなる傾向はあるよな。亜人の大半は6個あるし
ってか岩巨人と蛟竜以外で7個出したってやつはおらんのか
457:名無しの来訪者
>>455
岩巨人はもはや軽いMAP兵器の領域だもんなあ……最前線でソロ張ってるとか考えられん
あの人「ワハハハー」ってずっと高笑いしてていいキャラしてるわw
458:名無しの来訪者
そもそも召喚術って他のスキルに比べて当たり外れが大きすぎるんだよ
外れ引いたら分配システムのせいでPTメンバーに迷惑掛かるし
459:名無しの来訪者
それについては検証組の雅が王都の噴水広場で語ってたぞ
460:名無しの来訪者
>>459何を?
461:名無しの来訪者
>>460
召喚術取った人同士で組もうぜって話
462:名無しの来訪者
ああ、ここで言われてた話を新規に向けてってことか
463:名無しの来訪者
わかってくれる人もいるけど難しいよね
うちの子【睡眠】【脱皮】【毒牙】と覚えてるけど睡眠使ったら1時間は戦闘参加出来ないし
464:名無しの来訪者
>>463
睡眠はほんと地雷スキル
HPMPSP全回復するけど状態異常回復薬使っても起きないとか修正はよ
~~
543:名無しの来訪者
出現比率は鳥獣>爬虫=昆虫>幻想種>亜人って言われてるけど
結局スキル次第だから強さは別ってのがまだ救いある
544:名無しの来訪者
そうは言うけどいざ召喚して虫とか出てみろ、どう愛着持てっていうんだよ。戦闘以外ずっとアクセの中だわ
どうせ愛でるなら亜人の幼女がいいに決まってる
545:名無しの来訪者
幼女に頼るとかどう見ても事案
統計的に亜人なんて3%未満しかないし狙って出すなんて無理ゲー
546:名無しの来訪者
交易都市で見かけたショタ天使とロリエルフ連れたPLコンビはどっちも可愛かった
547:名無しの来訪者
>>546攻略組乙
天使は性別の概念ない(っぽい)から装飾次第では幼女にも出来るよ
その子の好みにもよるけど
548:名無しの来訪者
そもそも出ないんですが
549:名無しの来訪者
幻想種妖精型入れたら10%くらいあるぞい
550:名無しの来訪者
幻想種も幅広いからなあ。ピクシーも可愛いけどなんか違う
551:名無しの来訪者
わかる。あれは手のひらサイズで小さすぎるよな。コボルトくらいがいいよ
552:名無しの来訪者
トロールもいいぞ
553:名無しの来訪者
>>551>>552そいつら雄しか出ねーよwww
♢
「なるほどね」
魔法道具屋で受けた召喚法則についての詳細。
召喚獣の種類による出現率の違いと強さの関係。そしてスキル個数。
それらにざっと目を通して琥珀のことを考えれば、あの子は頼りになるしスキルの組み合わせも悪くはない。
「ふふっ、アロマって人気出そう。でもどんなスキルを覚えているんだろ」
ふと、ルチアとアロマのコンビを思い浮かべる。
林道での戦いでアロマが使ったスキルは『草木の足枷』『エアロブラスト』の二種しかないが、これは目に見えるスキルの数でしかない。
現に琥珀も常時発動型の硬鋼毛衣と気配察知、という目に見えないスキルがあるのだから、アロマにも何かしらあると考えるのが自然だった。最も、彼女の性格的に隠しているわけではなく、聞かれなかったから答えていないだけという気もするのだが。
「そもそも聞いてないし、私も琥珀のスキルを言ってないか」
ゲーム初心者であろうルチアを気遣って、伝える情報は最低限にしていた部分もある。プレイする中で覚えていけばいいというのが茉莉の持論でもあるためだ。
がちがちの効率プレイがしたいわけではないのだから、あれやこれやと指示指摘するのは間違っているし、やりたくない。
VRゲームで初めて出来た友人だと思っているし、茉莉の中では優先してパーティを組んであげたいという気持ちがある。琥珀やアロマを含めたパーティは楽しく、短い時間だが中々居心地も良かった。
「最初の相方が虎とは流石に予想してなかったけど」
召喚術行使直後の自身の反応を振り返り、茉莉は思わず苦笑を浮かべた。
当初の予定では身長四十センチくらいの小動物とわちゃくちゃしながら遊べたらいいなと漠然と考えていたのだが、いざ召喚してみると自分の頭身以上ある猛獣が出てきたのだ。誰だって最初は驚くに決まっている。
琥珀の性格がもう少し殺伐としていてぶっきらぼうであったなら、その後仲良く接していられた自信はない。
「AI、凄かったな」
幸いにして琥珀は図体に似合わず甘えたがりであり、仕草の一つ一つが可愛いらしい。
本当に、AIの出来の良さが際立っていた。
キサラギをはじめ、琥珀に下宿屋の女将や冒険者、皆があの世界で生きていた。
浴槽から沸き上がったことを知らせる甲高い機械音が鳴る。
残りはお風呂から上がって調べるとしよう。王都の地図やまだ試していない調薬スキル、美味しい料理店、茉莉の知りたいことはたくさんあった。