表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

【5】パーティ結成

「じゃあまた今度。マリーもルチアも都合のいい時に連絡頂戴。その時はパーティ組もうね!」

「ナツミ、置いていくぞ」

「あっ、待ってよショウタってばー! ほら、ロビンもいくよ」


 ナツミ達の後を追うように翼を広げて一羽の猛禽類が空を飛ぶ。

 初心者プレイヤー同士による召喚獣お披露目会も無難に終わり、主催者である雅は新たな召喚術プレイヤーに声を掛けるために広場へ戻っていった。カムイはお披露目会が始まる前にフレンドから呼び出しを受けたらしく、「悪い」と言い残して去っているため、今この場にはマリーとルチア、そして連れの召喚獣しか残っていない。


「雅さん本当に召喚獣が好き、というか動物が好きなのかもしれないね」

「琥珀もロビンもカッコいいし、ショウタさんのエレキもとても素敵でした。とっても楽しかったです」

「ほんとAIって凄いよね。エリマキトカゲに愛嬌があるとこんな感じなんだって感動しちゃった。中でもルチアちゃんが呼んだその子が一番人気だったね」

「そんなこと言ってるとまた琥珀が拗ねちゃいますよ」

「出会い頭にもっと小さい子がいいなんて言った私も悪かったけど、そのあと沢山じゃれつかれたからいいんですーっ。押し倒された時はつぶされるかと思ったけど」

「あの時のマリーさん……ふふっ、ごめんなさい」


 琥珀と名付けた召喚獣は体長二メートル前後のしなやかな体格をしており、白い毛並みで波紋状に走る黒い縞模様が全身を覆う猛獣――正にホワイトタイガーのような姿形をしていた。小さい頃に動物園で見た虎が檻の外にいて、更には隣に陣取っているというのは少し不思議な感覚だったが、慣れてくると意外と可愛らしい部分も見つかり「これはこれでありかな」なんて呟く余裕すら出来つつある。


 現実(リアル)で愛玩動物として室内で可愛がられていたりする様子を映像越しに見たときは物好きもいるもんだと興味も示さなかったが、どうやら自分も物好きの内の一人らしい。マリーは自嘲しつつ、メニュー画面を呼び出した。


「グルルルルゥ……」


 メニューから召喚獣項目をタップし詳細情報を閲覧していると、猫科特有の喉慣らしが聞こえてきた。琥珀が脇下へと潜り込んで頬を摺り寄せてくるので場所を開けてあげてその背をそっと撫でていく。体毛は少しざらざらとしていているが肌触りが良く、頭に手を乗せると気持ちよさそうに目を細めてもう一度鳴いた。


 獣種虎型【白鋼虎】

 名前:琥珀

 スキル 硬鋼毛衣 鋼虎の咆哮 気配察知 食いしばり


 ステータスという項目がない完全スキル制のゲームにおいてスキルの数はそのまま潜在能力の指標となりえる。

 召喚獣における四つという数字がどの程度優れているのかは分からない。お披露目会ではあくまでこんな召喚獣が出ましたよ、と見せ合っただけでスキルなどの詳細は話し合ってはいなかった。雅が言うには掲示板には詳細な情報が載っているということだったので後で覗いてみるとして、スキル説明欄を見ていて特に気になるのは硬鋼毛衣と鋼虎の咆哮の二つだろう。


 硬鋼毛衣は常時発動型スキルで物理による被ダメージを半減させる。

 鋼虎の咆哮は大気のマナを吹き飛ばし、二十秒間円錐状に拡散して非魔力空間を作り出す。アンチマジックスキルと呼ばれるもの。


 物理軽減に魔法無効の組み合わせを見たときは驚きを隠せず、若干テンションが上がってしまったのだが、鋼虎の咆哮は再使用時間が三百六十秒とあるので使い所は考えなければいけないし、円錐状ということは琥珀の位置取りに影響されるということ。スキル構成がタンク職として申し分ないので前衛に張り付かせることを思えば、実際は型に嵌ることの方が少ないだろうという所感に落ち着いた。

 

 使用した召喚石と魔石はブレスレット型アイテムとなり、今では左腕に装着されている。

 説明欄を見ても召喚獣との絆の証と表示されていて、追加効果のようなものは見受けられない。単なる装飾品アイテムだろうか。

 ブレスレットに付いた召喚石を含めた四色の輝きを見つめながら、マリーは今後のことを考える。


 ――やっぱり、後衛の火力支援はどうしても欲しい。


 当初の予定通り前衛は厚くなったが、やはり後衛火力の有無は戦闘の自由度を大きく変えるものがあった。ルチアがこのままパーティを組んでくれるなら頼りになるが、彼女にも彼女なりの楽しみ方があるだろうし、無理強いは出来ない。

 一度王都に戻りつつ、道すがら聞いてみようかなと考えていると、


「マリーさん」


 呟くように小さく吐かれたその言葉に、マリーは傍らにいるルチアに振り向いた。


「どうかした?」

「良ければこのままパーティを組んでもらえませんか?」


 恐る恐るといった感じでルチアは上目遣いに問いかけてくる。彼女の召喚獣である幼女――といっても下半身は木の根の集合体で構成された精霊種ではあるのだが、ドリアードであるアロマは心配そうにあるじを見上げ、目元を覆うほどのぼさっとした緑の長髪から片目を覗かせていた。

 もちろん断る理由などない。先ほどまでこちらから誘ってみようと考えていただけに笑顔で応対する。


「いいよっ。ルチアちゃん頼りになるし」

「ほんとですか!?」


 嘘でも誇張でもなく事実だったのだ。ルチアが安堵の表情を浮かべるを見て、マリーは優しく微笑む。


「お披露目会でも言ったけど私とこの子は前衛だから、ちょうど後衛職の仲間は欲しかったの。ルチアちゃんが何も言わなかったら私からお願いしようかなって考えてたくらい」


 ルチアがほっと胸を撫でおろす。そしてぱっと表情が明るくなかったかと思うとぽつりぽつりと言葉を紡いでいった。


「わたしこの手のゲーム初めてで不安だったんです。効率とかよく知らないし……強くなって何がしたいってのも分からなくて」


 何を目的にゲームをするかというのはいろいろあるが、『PST』は現実のように体感出来てしまう分取れる行動は大きくなる。ストーリー立てられたRPGではなく自分自身が主役であり、何をするのも自由で一人の冒険譚がそこにはある。

 ルチアはあまりゲームに馴染みがないようだったし、レベルをあげて鍛えて敵を倒していく爽快感というのは想像しずらかったのかもしれない。


「ああたぶん、カムイがそんな感じかな? 攻略組って言ってレベルを上げて新しい場所を開拓することを楽しみにプレイする人」

「その点、さっきのお披露目会は凄く楽しかったです! あとはいろんな所を見て回って風景画なんて描けたら……って変ですか?」

「違う、違うの、ごめんね」


 考え方が似通っていて、思わず吹き出してしまったのをルチアは怪訝に思ったらしい。零れる笑みを抑え込み、一度呼吸を整えるため大きく息を吐き出す。どうやら似た者同士だった。


「むしろ私はどっちかと言うとルチアちゃん寄り。召喚獣と触れ合ったり観光していろんな所を見て楽しんだり」


 出来れば召喚獣は小動物なら尚良しではあったのだが、琥珀は図体こそ巨体ではあるものの甘えたがりな性格が庇護欲をそそられる。


「それです! モンスターを退治するのも何かしっくりこなくて」

「いやそれは……まあ最低限は戦わないといろんな場所見て回れないけどね。でもそっか、ルチアちゃん絵を描くのが好きなんだ」

「あ、いや、そんなまだまだ全然拙くて見せられるようなものじゃないんですけど」

「いいのいいーのっ。そういう楽しみ方も全然ありだから、お姉さん応援しちゃう」


 いつの間にこんなに懐かれたのかなと思わないでもないが、後輩が先輩を頼りにしているシチュエーションに似たようなものかもしれない。マリー自身もルチアと接するのは楽しく、事実妹のように接していられるのは一人っ子であったため願望でもあったのか。


「じゃあ王都を観光する前に素材集めにいこっか」

「……さっそくですか?」

「悲しいけど、お金が必要なのは現実もグリムノーツここも一緒なの」

「わかりました。が、頑張りますっ」

「私がルチアちゃんを守ってあげるから、ルチアちゃんも私を守ってね。頼りにしてるよー」



すみません。

本来ならもう一場面あったものを投稿していたのですが、カットして次話に回すことにしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ