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【3】召喚法則と魔石選び

「これなんて可愛くないですか?」

「うーん、私の趣味とはちょっと外れるなあ。私はどっちかと言うと、こういうのが好み」

「あー、分かります分かります。お姉さんって凛とした雰囲気があって頼れる感じがしますし。青が良く似合います」

「アバター越しとは言え褒められると照れちゃうね」


 魔法道具屋へ寄る道中でマリーは知り合った六人と自己紹介を交わしつつ、相互フレンド登録を行った。

 雅とカムイがβ時代からの付き合いで正式サービス後も続いている準攻略組プレイヤー。

 魔法道具屋の片隅でアクセサリーを見ている男女がショウタとナツミ。この二人に関しては移動中もずっと仲が良く二人の世界に入り込んでいたのだが、どうやらリアルで付き合っているらしい。

 そして現状同じソロプレイヤーと思われる彼女、ルチアは自身と同じく先ほどログインしたばかりであるという。


 この中だと花模様のファンシーな髪飾りが好みのようで、淡い桃色の混ざった銀髪には良く似合っていた。

 恐らく、彼女はキャラメイクに時間を掛けたのだろう。

 主武装が杖の魔法使い志望なのかとんがりハットにローブを羽織っているため細部までは分からないが、小柄ながらも全体的なバランスが良く、シャギーの入ったボブカットの髪型も小顔を強調して幼さを前面に表現している。


 妹がいたらこんな感じなのかなあ、とあれやこれやとひと時の時間を楽しんでいたのだが、当初の目的は何一つ進んでいない。ログインしたてである初心者プレイヤーに無駄遣い出来るお金などないのだから。


「ウインドウショッピングもいいが、魔石を何にするか決まったか?」

「すいません雅さん。何だか楽しくなっちゃって」

「ごめんなさーい」


 ため息一つ、雅は肩を落として奥にいるカップルにも早く決めるよう促した。カムイは別のフレンドとボイスチャットをしているらしく、店外で待機中。あまり待たせるのも良くないので早々に決めたほうがいいだろう。


 魔石売り場に移動し、六色の輝きを見せる鉱石に目を落とした。鉄鉱石を思わせる形質で内側から不思議な淡い光が漏れ出している。火なら赤、水なら青といった具合に属性ごとによって発光しているのか、現実にはない品物に興味を惹かれ、一つ掴んで店内のライトに向かって照らしてみたりした。


 最初期の所持金は5000Gで召喚石が1000G、魔石は各種アクセサリーや属性付与に使う鉱石系アイテムのようで一個500G。必要な金額は2500Gだ。


「これって幾つか種類がありますけど何を選んでもいいわけじゃないですよね? キンタちゃんはちなみに?」


 ゲーマーとしての勘だが、こういう場合は大抵何かあるものだ。MMOでは情報の秘匿も立派な武器であるのだか、聞くだけは無料タダなので聞いてみる。

 ちらりとこの場では唯一の召喚獣であるキンタへ視線を移すが、当の本人はこの場がつまらないのか雅の肩にちょこんと座り、欠伸を欠いている。なんとも気まぐれな猫らしい。

 

「こいつは火と闇と風だな。組み合わせを真似ても同一個体が出るわけではないが、ある程度意図的に欲しいタイプは作り出せるようになっている」

「タイプですか?」


 マリーはやっぱりと内心納得して脳内で様々な組み合わせを妄想し楽しんでいたが、ルチアには馴染みがなかったようだ。


「ああ、前衛物理職、後衛魔法職と言えばわかるか?」


 そういうと雅は一例を挙げた。

 PSTにおける属性魔法は火水地風の基礎四属性に聖闇の二大属性を加えた六色が存在する。

 火と闇は火力重視の前衛職が出やすくなる。

 水と聖は支援重視の後衛職が出やすくなる。

 風は魔法色が強くなり、地は物理と耐久値に関わる。

 

「細かく説明するともう少し条件下出来るんだが、大体こんな感じだ。これはβテスターの時に皆で検証した時のものだが、正式サービス後も大きな変更はない。詳しく知りたいならあとで掲示板を見るといい」

「同じ魔石を3つ選ぶことは?」

「出来るぞ。複数個選べばそれだけ特化型が出やすくなる」


 なるほど。


「でもその説明だとキンタちゃんは前衛の魔法攻撃職になりますよね……?」


 キャラメイクの時に考えた殴れる魔法使い、という言葉を一瞬思い浮かべるが、キンタは二足歩行はしているものの小さな猫だ。猶更どのように戦っているのか想像できず、マリーはルチアと目を合わせて首を傾げてしまった。


「間違ってはいないが、なんと説明すればいいものか……軽剣士、じゃないな。回避盾みたいなものなんだが」

「ああ、よく踊り子やシーフが担当するピーキーなやつですか」

「盾なのに回避しちゃうんですか?」


 二人の対照的な回答に雅は含みのある声を漏らした。

 マリーは気にせず、ルチアへ伝わりやすいように補足的な説明を入れていく。この辺の知識の有無でゲームに馴染みがあるかどうかは判ると言ってもいい。彼女は本当の意味で初心者プレイヤーらしかった。


「んーっとね、体力と防御力に優れて受け止めるのが本来の盾役(タンク)。回避盾はその名の通り受けずに躱してヘイト……注意を引き付けたり、場合によって攻撃に転じる。ゲームにもよるけどここだと遊撃的な感じになるのかな?  合ってますか、雅さん?」

「合ってるよ。薄々そんな気はしていたが、マリーはこちら側だったか」


 そんな言動あったかなと軽く問い返すと「勘だ」と言われて妙に納得してしまった。隠していたつもりではないが、雰囲気で既にバレていたに違いない。


「ゲームは大好きですからね。ルチアちゃ――はわかった?」


 流れるようにちゃん付けしそうになり、マリーははっと息を呑んだ。いくら小柄だとは言え、アバター越しでは実年齢では判りようはない。可愛らしい姿をしていながら実は自分より年上だったということも十分あり得てしまう。不味ったなあ、とマリーが頬を搔いているとルチアがにっこりと微笑んだ。


「マリーさんのお好きにお呼びください。わたしは気にしませんよ」

「ほんと? 気を付けているつもりだったけど、ルチアちゃん可愛らしいから妹がいる気になってて抜けちゃってた。じゃあ……ルチアちゃん?」

「はいっ」


 改めて意識するとどこか照れてしまうが、ルチアも嬉しそうに両手を合わせて笑顔で返してくれた。ほのぼのとした雰囲気にいつまでも浸っていたい気持ちをぐっと抑え、商品棚に向き直る。

 気が付けばショウタとナツミは既に選び終えたようで、未だ決めかねているのは自分たち二人だけのようだった。


 気まずさに後押されされながら、マリーはまず地属性と火属性の魔石を手に取った。自身のスキル構成が殴りヒーラーに似て否になるものと考えていたため、仮に前衛寄りの中衛職だとするならば(タンク)役を厚くすることは経験上間違ってない。問題は残りの一つをどうするべきかだが――、


「まだ決まらないのか?」


 割り込む声に引かれて後ろを向けば、いつの間にか入店していたカムイが雅と並び、苦笑を浮かべていた。

 メニュー画面から時間を確認すれば既に入店してからニ十分が経とうとしている。これはあれだ、長い買い物に待たされてイライラしている顔だとマリーが理解するまでそう時間は必要ではなかった。

 ええい、ままよ! と勢いに任せて残る一つは青の魔石を選び出し、召喚石と合わせて会計を済ませるべくレジへと向かう。青はルチアが褒めてくれた色だったので悪い気がしなかったし、悩んでいても最終的な結果は運に左右されるのだから、この場は彼女の好意と感性に身を任せてみよう。


「魔石と召喚石は揃ったな? では行こうか」


 雅の掛け声に初心者プレイヤー一同は「おー!」と声を合わせた。

 いよいよ最初のメインイベントだ、とマリーも気分を高ぶらせ、キッカ平原へと向かった。

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