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【10】『伊万里』

 街はもうすっかりと活気に目覚めていて、爽やかさと喧騒が混ざり合い、気持ちの良い雰囲気に包まれていた。

 中でも一番声を張っているのは生産系プレイヤーと思われる人たちだろう。

 道行く人に手当たり次第の呼びかけを行えるのは露天商の強みと言える。


 目抜き通りの往来で決められた区間にマットを敷き、その上に幾つかの武器防具や装飾、アイテムなど生産者の得意とする品物が並んでいた。

 実用性や見た目も含め、幾つか気になる商品はあるにあるが……。

 こと装備に関しては大半が四桁の品で、中には五桁にも届いているものまであり、おいそれと手を出せる状況でもない。

 装備新調なんていつになるのやら、とマリーは琥珀を連れてゆったり歩く。


「虎を連れたおねーさん。ちょっと見ていかない?」

「はい?」


 商品の品定めしながら歩いていると路面に座り、フードマントを頭からすっぽりと覆っていた露天商から声を掛けられる。

 中性的な少年のような声だが野暮ったい灰色のフードで目元を隠しているため、見るからに怪しい。

 正直なところ、あまりお近づきになりたい印象ではなかった。

 

「すいません。今はちょっとお金が手元になくて」

「ああ、違う違う。ちょっと待って」

 

 しつこい新聞の勧誘さながら、尚も声を掛けてくる露天商。

 面倒な人に引っ掛かったなあ、とマリーはため息一つ。すると、露天商がフードの先端を片手で僅かに持ち上げた。

 フードの奥にあったのは短めな金褐色の巻き毛。そして艶やかに澄み切った双眸。

 顔立ちにあどけなさを残しながらも芯の通った瞳がこちらを見て――、ニカッと口角を吊り上げる。

 それはいささか得意げな、人好きのする少女の笑顔だった。


「……同性の方だったんですね。私てっきり、その」

「よく言われるんだなあ、これが」


 ニシシと笑い、露天商は再びフードを被りなおす。

 

「でもどうして?」

 

 彼女の見た目なら客引きもプラスに働きそうなものだが。


「客商売がしたいんだ。雑談したいわけじゃないからね。こうしておけば、一見さんは商品に惹かれないとやってこないでしょ?」


 なんとなく、彼女の言いたいことは分かった。

 彼女は彼女なりに商売そのものを楽しんでいるわけだ。

 フードを被っている理由もそういった見た目を含めて、外的要因を極力削ぎ落しているのかもしれない。

 

「でも、お金がないのは本当ですよ?」


 一方で疑問も残る。

 マリーはお金もなく彼女の目的からは外れているし、商品に惹かれて足を止めたわけではない。

 

「おねーさんは、えっと」

「マリーです」

「マリーは何か生産スキル取ってる?」

「調薬を一応……でもまだレベル1で」

「おお、いいじゃん調薬。もしかして同業者?」

「いやあ、露店を開こうとまでは……」

 

 見れば、彼女は様々な商品を扱っていた。

 全体的にはマントなどの布装備が比較的多いが、隅々まで見ると武器からアクセサリーも取り扱っており、果ては魔石などの鉱石まである。

 他の露天商が取り扱う品には多少なりとも偏りがあるものだが、ここには拘りというものがあまり感じられない。

 

『客商売がしたいんだ』


 その言葉が、マリーの中にすとんと落ちる。

 

「つまり、買取もしてるってこと?」

「ピンポーン。露店『伊万里』は何でも買い取るよ」


 直後、フレンド申請を告げる音がピコンと鳴る。伊万里――、目の前の少女がニヤリと笑う。

 随分と気さくな性格をしているようだ。

 鼻歌でも口ずさむかのように上半身を左右に揺らし、伊万里は楽し気に人差し指を立ててくるくる回す。


「装備が初心者シリーズの人、みんなに声掛けてるわけ。未来のお得意さんになるかもしれないでしょ?」

「私が生産スキルを持ってない可能性もあったと思うけど」

「その時は素材でもなんでもいいし、とりあえず唾付けとく感じかな。それに召喚術取る人って生産スキル持ってること多いし」


 それについてはそうなのかな? と首を傾げたくもなるが、事実マリー自身が取っているのだから否定は出来ない。


「だから売りたいものがあったら気軽に言って。メインは裁縫スキルだから、服もお望みなら作っちゃうよ。もちろん、値段は応相談」


 「なんなら今買い取ろうか?」と呟くと、伊万里は上半身を前のめりにぐぃっと距離を近づけてきた。

 なんだか、猫みたいな人だな。

 面白可笑しく思いながらも、裁縫スキルがメインであるならばとマリーは自身のアイテムインベントリを物色する。

 装備を含めた所持できる総重量は決まっているので、多少なりとも軽くしておくことは無駄ではない。

 とはいえ数度の戦闘しかしていない現状、大したものが出せるわけはないのだが。

 

「ラビットの肉は供給過多だから駄目。ラットの小水晶はレアな方かな。ウルフは……毛皮なら幾らあっても困らないし買い取れるね」


 幾つか表示したトレード申請に対して、伊万里の金額が打ち込まれる。

 案の定というべきか、キッカ平原で最も出現するホーンラビットは二束三文にもならないらしいが、毛皮は買い取って貰えるようだ。

 表示された金額は小水晶が90G。毛皮が50G×3。


 「これでどう?」と首を傾げる伊万里に対し、少し悩んで了承する。

 相場がどの程度かわからないが、ここはひとつ勉強代として受け入れよう。

 トレード申請を完了させると、伊万里は「あっそうだ」と前置きを置き、


「たぶんマリーは始めたばかりだと思うけど、売れないものはギルドに行くといいよ。あそこなら最低値でも買い取ってくれるから」


 伊万里は捨てるよりはマシだよね、とニシシと笑う。

 

「昨日始めたばかりなんです。伊万里は?」

「先行組だけど、こっちだと七日くらいになるね。商売に熱が入っちゃって、片手間で裁縫スキルの熟練度こそ上がってるけど戦闘はからっきし」


 戦闘と生産の両スキルを均等に上げるのは確かに難しそうだ。

 時間もかかるし、何より伊万里は商売そのものを楽しんでいるようなので、猶更だろう。


「それじゃあ、また何か売れそうなものが出来たら、その時はお願いしますね」

「あっ、フレンド登録。忘れないでよ」


 とりあえず悪い人ではなさそうだし、馴染みの取引先を持っておくのは悪くない。

 最後にフレンド申請を了承して別れを告げると、伊万里は「また来てねー」と間延びする声を上げた。

 

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