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07.そのころのシリル殿下

03 の日の殿下バージョン。

 あの、衝撃的な一言が忘れられなかった。

 あれは絶対に、僕が王子だと気付いている。

 あんなに愛らしい顔で、愛らしい唇で紡がれたのは、なんと恐ろしい言葉だろうか・・・・・・。思い出しただけでも体が震えてしまう・・・・・・。

 だめだ、これは早急に手を打たなければ、このまま逃げられてしまうに決まっている。

 そうと決まれば、すぐさま城を抜け出す準備を、と思い行動をするのだが、そのすべてがことごとく阻まれた。


「なぜだめなのですか!!!」


 諸悪の根源である父上へと問い詰めに行けば、父上はたくさんの書類の相手をしながら僕へとただ一言、「だめ」としか返さなかった。

 見かねて僕に代価案を提示してきたのは、父上の補佐官を務めているクリフォード公爵だった。


「殿下が赴けないのであれば、城にお招きすればよろしいのではありませんか?」


 そう、静かに諭すようにおっしゃった公爵に、しばし考えてから、そうだな、としか返事が返せなかった。


「では、レベッカに男爵家へと言伝を頼め。私のほうからもニコラスに少々言伝を頼むことがあるのでな」


 と、相変わらず書類へと目線を落としたままおっしゃる父上。

 すぐさまレベッカを呼びつけ、父上と僕の伝言を伝える。


「ティナリアのところによってから行けよ」


 退室しようとしたレベッカへと投げ捨てるかのように父上が言えば、レベッカはわずかに笑ってから、「承知いたしました」といい、退室していった。

 執務室にいつまでもいても邪魔なので、仕方なく部屋へと戻り、メイドへとメアリーアンがいつ来てもいいよう準備をするように伝え、それから、自分に課せられている勉学に励むことにした。

 そうして、どれだけの時間がたっただろうか。

 もう、昼の軽食の時間だというのに、いつまでたってもレベッカが戻ってくる気配がない。

 ためしに何人かのメイドをつかまえ「レベッカは?」と問えば、皆、一言一句たがえぬまま、「まだお戻りにはなられていませんよ」と返事が返ってくる。

 そうして、いよいよおかしいと思い始めたのは、窓の外に赤い夕陽が沈み、そして、漆黒の夜が降りてき始めたころのことだった。

 ばたんと大きな音を立て、父上の執務室へと向かうと、そこには父上も公爵の姿もなかった。

 瞬間、逃げられた、と思った。

 慌てて踵を返し、後宮にある母上の私室へと向かって走る。

 途中、廊下を走らないでください!という声を何度も聞いたが知ったことではない。

 母上の私室の扉を開ければ、驚いたメイドが声を上げる。

 その声に反応をし奥から出てきたのはレベッカだった。


「レベッカ!!」

「おや、殿下。もう、お勉強は終わられたのですか?」


 にこにこと微笑みながら聞いてくるレベッカに、僕は「とっくに昔に終わった!!」と叫び返す。


「それはよろしゅうございました」


 と、にこにこと返事を返してくる。


「それよりもメアリーアンは!!」

「あぁ、メアリーアン様でしたら、あっさりと男爵に登城を断られましたよ」

「なっ!?」

「ねぇ、レベッカ。それよりも、さっきの話の続きをしてちょうだい」


 というのは、母上だった。

 とてもうれしいことか楽しいことがあったかのように、にこにこと微笑んでいる母上はレベッカへとそういう。

 そういえば、レベッカは苦笑しつつ「かしこまりました」といった。


「それで、ねぇ、メアリーアンはどんな様子だったの?」

「どんな、とは言われましても―――――そうですね、とても、驚いていらっしゃったように見受けられました」

「そうでしょうねぇ。キャロラインの手紙を読んでも、彼女、結婚をする気なんて、全くなさそうなのだもの」


 突然婚約者に、なんて、進められたら驚くわよね。

 と、ものすごく不穏な言葉が聞こえた気がした。


「そうですねぇ・・・・・・ですが、私としては、ぜひとも彼女を妹にほしいところなんですよね。幸い、キャロライン様はかなり乗り気でしたし、リズが止めに入るような様子もありませんでしたので、これはもう、なし崩しに行くしかないかな、と思ってしまい、思わず、緊急時以外の使用を禁止されている伝話を使ってしまいましたよ」

「まぁ、そこまであなたが必死になるなんて―――――あぁ、私もメアリーアンに逢ってみたいわぁ」

「そういえば、ティナリア様はメアリーアン様にお会いになられていらっしゃらないのでしたね」

「閣下が登城をお許しにならないのよ。で、私もいちおう国母でしょう?そう簡単に、親友だからという理由で、キャロラインに逢いにも行けれないし、結局、今の今までお会いになる機会がないままきているの。社交界のデビューには、王城で開かれる夜会にでるのが決まりになっているから、その時ならば逢えるかもしれないけど・・・・・・」

「そのころにはすでに婚約者は決まっているでしょうねぇ。あぁ、もちろん、相手はうちのイアンですよ」

「まぁ、レベッカったら。イアンが気に入らなければ、そのお話も流れるでしょう?」

「必ずメアリーアン様を好きになると思いますよ。なんといっても、愛らしいし、思わず守って差し上げたくなる。なによりも、イアンはか弱くはかなげな女性に飢えていますので」


 なんて、くすくすと笑いながら言うレベッカに、つられてティナリアも口元に手を当てて笑った。


「オルコット家の女性はとても強い方ばかりですものね」

「とはいっても、メアリーアン様がか弱いかというと、そうではなさそうですけどね」

「閣下にも聞いたわ。とても将来が楽しみだとおっしゃっていらしたわ」

「して、ティナリア様。先ほどから殿下がフリーズしていらっしゃるのですが」

「この程度でフリーズするなんて、だめな子ねぇ・・・・・・まぁいいわ。ルッツ、シリルを自室へと放り込んでおいてちょうだい。私はもう少しレベッカとメアリーアンのことを話していたいから」


 最後ににっこりと笑顔で、息子を部屋から放り出す宣言をしたティナリアに、命令をされたルッツも恭しく頭を下げると、ひょいっとシリルを俵担ぎで自室へと放り込んでいくのであった。


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