05.イアンvs。。。。。
久々に一の姉上からの呼び出しに、イアンは深いため息をつきつつ応接間へと向かった。
嫌な予感しかしない。
そう思いながらも応接間へと向かえば、そこには一の姉上だけではなく二の姉上と三の姉上もいらした。しかも、なぜか母上までいらっしゃった。
これは本格的に逃げた方がいい気がする。
そう思い、くるりと踵を返し逃げ出そうとしたが、その前に家令のルーナに扉を閉められ、鍵までしっかりとかけられてしまった。
「おや、イアン。どうして逃げるんだい?」
応接セットのソファーに深々と座り、足を組んでいる二の姉上がそうおっしゃった・
「生命の危機を感じたので」
と、素直に答えると、三の姉上が「ここに座りなさい」と、一つだけ開いていたスツールを視線でさしていった。
「このままで結構です」
座った瞬間に捕食される、と思い、断れば、母上が「座りなさい」とおっしゃった。
ここで母上に歯向かうのは得策ではない。
うちの家系の女は、というよりも、我が家の女は皆怖いからな・・・・・・。
一般的な家令は男性なのに、我が家では、なぜか代々女の家令なのを見れば、一目瞭然だろう。
男の地位がこの家の中では、かなり低いのだ。
いや、父上は皆が尊敬しているから、そういうわけではないのだが、まだ、半端ものである自分のあいつかいなんて、はっきり言ってひどいにもほどがある。
この前だって勝手にシリル殿下の専属護衛に推薦したとか、一の姉上が言ってきたし。
おかげで、今年からシリル殿下のお守りが訓練内容に追加されていたし。
「それで、ご用件はなんでしょうか」
聞きたくもないがこちらから聞かねばいつまでたっても本題に行かないのをわかっているから聞けば、姉上や母上は互いに目配せをし、そして、口を開いたのは一の姉上だった。
「お前の婚約者を見つけてきた」
思いっきり決定事項かよ、とつっこみを入れたが、もちろん口に出したりはしない。
地獄のしごきなんてものを受けたくないから。
「とはいっても、あちらのお嬢様は、自分の好いた相手との結婚を望んでおられる」
「―――――それのどこをとったら、私の婚約者を見つけてきた、になるのでしょうか」
一瞬、一の姉上のおっしゃられた言葉が理解できず、問い返せば、問い返さなければよかった、という返答が返ってきた。
「私はあのお嬢様を気に入った。母上や妹たちに聞いても、皆絶賛してくれている。ということで、お前はあのお嬢様を虜にして来い!」
頭が痛い・・・・・・。
この人は、なんと、無茶なことを言っているのだろうか・・・・・・。
あったこともない、名前すら知らないご令嬢の機嫌取りをし、好かれ、そして、嫁にもらえと言っているのか?
無茶なことを言ってくることは今まで数知れずあったが、これは、今までにないぐらいにむちゃくちゃな要求ではなかろうか。
「ということで、2週間後に我が家で開くお茶会にお嬢様を招待した。お前がもてなせ」
「――――――――」
あったこともない、名前すら知らないご令嬢のご機嫌取りを2週間後にしろと!!
本当に、冗談も休み休み言ってほしいところだ。
が、自分に拒否権がないことはわかっている。
「一つお聞きしても」
「ん、許そう」
「そのご令嬢のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「あぁ、そうだったな。彼女はメアリーアン・ローズだ。ローズ男爵の第一子にして――――――彼女は、“あちらの人間”だ」
たっぷりと間を置き、含み笑いを見せ“あちらの人間”そう、姉上ははっきりとおっしゃった。
あちらの人間。
そのさす言葉が何なのか、すでに理解している。
“あちらの人間”を入れていいのか、むしろ、男爵に私は殺されるのではないか、という心配もあったが、そのあたりはすべて姉上や母上、後は、父上が適当にしてくれるのだろう。
まぁ、“あちらの人間”のことを知っている数少ない家ということもあるし、大した問題にはならないだろうが・・・・・・ということは、オルコット家にも、あちらの血が混ざるということか。
そういう利点も含めて、母上までそろってそうおっしゃっているということなのか。
オルコット家のために、とりに行け、ということなのだな。
そう理解し、納得しようとした矢先に、二の姉上が口を開いた。
「メアリーアン様は、とてもお可愛らしいのよね」
「もう、お姉様だけお会いになるなんて、ずるいわ」
と、二の姉上に続き、三の姉上も口を開いた。
「メアリーアン様っていったら、あれでしょ?ローズ男爵が蝶よ花よと大切に大切にいつくしまれていらっしゃる、至高の花だとか。いまだ、王城へ登城されることも、国王陛下へと目通りをされていらっしゃらない」(三の姉上)
「まぁ、国王陛下もお会いになられていませんの!お姉様ずるいですわ!!」(二の姉上)
「一説によりますと、実は、キャロライン様が出産されたのは花の精霊で、人前に出たら消えてしまわれるとか」(三の姉上)
「まぁ、確かに、メアリーアン様は、とても可愛らしいお方だった。花の精霊と言われても信じてしまうぐらいに」(一の姉上)
「シリル殿下が熱心に通われていらっしゃるんですよね?」(二の姉上)
「あぁ、そうらしいな」(一の姉上)
「あら、では、もう、殿下がお手を付けられていらっしゃいますの?」(三の姉上)
「どうやらそうでもないらしいよ。今日、少し話をしてきたが、どうやら殿下のことはこれっぽっちも好意的に思っていないようだった。むしろ、あり得ない、とまでおっしゃっていらしたからな」(一の姉上)
「まぁ!!では、まだ、イアンががんばれる余地はあるのね!!」(三の姉上)
「それでは、益々イアンにはがんばってもらわないといけないわね。つきましては、2週間後の休息日のお茶会だけど」(二の姉上)
「もちろん、ほかのお客は呼ばないわよ」(母上)
「あったりまえよ!むしろ、必要ないわ!!」(三の姉上)
嬉々として2週間後のお茶会についての相談を始めた母上と姉上方。
これはもう、私は退室をしてもいいのだろうか。
そうおもいつつ、ちらりと出口の方を見れば、扉の前にルーナがしっかりと立っていた。
逃げるなということですね・・・・・・。
とはいっても、すでに、完璧に女の会話になっている中に入り込む余地すらないし。
右から左へと聞き流すスルースキルを発動しつつ、2週間後に行われるお茶会へと思いをはせる。
シリル殿下が夢中になるほどのご令嬢ねぇ・・・・・・。
まぁ、確かに、たびたび城を抜け出しては、近衛騎士を数名連れてどこかへと出かけている処を目撃していたが、なるほど、メアリーアン嬢のもとへと通われていらっしゃったのか。
そして、昨日のあの状態を見るからに、きっぱりと、何かを告げられてきたのだろうなぁ・・・・・・。
今日、登城すれば、すっかりと落ち込み、哀愁漂う背中が目についたし。
大方、登城するように願い出て断られたのだろうな。
むしろ、シリル殿下には、ほぼ確定でクリフォード公爵家のご令嬢が婚約者になることになっていたはずなのだが・・・・・・何をよそ見をしているのだか・・・・・・。
あーめんどくさい・・・・・・ただでさえ、シリル殿下のお守りがめんどくさいのに、この上、ローズ家のご令嬢の相手もしろというのか・・・・・・。
本当に、姉上方の地獄のしごきは、半端がなくて困る。
女って 集まるとすっごく強いよね
ものすっごく つよいよね!!




