04.思わぬ方向に話が進んでいきます。
リズに通されたサンルームでは、いつのまにかアンがすべてのおもてなしの用意を済ませて待っていた。
すぐさま紅茶がカップに注がれ、ソファーに腰かけた私とレベッカ様の目の前に茶菓子とともに並べられた。
「それじゃぁ、改めまして、私はレベッカ・オルコット。昨年学園を卒業とともに王国騎士に所属しているよ」
「メアリーアン・ローズと申します。先ほどはお父様とお母様が非礼を働き申し訳ありませんでした」
ソファーから立ち上がり、淑女の礼にのっとりレベッカ様へとそういえば、レベッカ様はすぐさま私へとソファーへと座りなおすように勧めてきた。
「非礼だなんて私は気にしてはいないよ。それよりも、さすが、閣下の秘蔵っ子だね。とても愛らしい花をしている」
ふふっと笑うと、レベッカ様は手にはめていた手袋をのけ、そのままその手で私の頬に手を添えた。
「朝から粉まみれになって、何をされていたのかな?」
そういわれ、初めて「そういえば」と思い出したのが、粉まみれのままだったということだった。
今更取り繕っても仕方がないか、と思うと、私は「失礼いたしました」と言い、
「朝から、料理長とともにパンをこねていましたの」
「パンを?」
「えぇ」
「君のようなかわいらしいお嬢様が?」
「かわいらしいかどうかはさておいておくとして、私、一人で立派に生きていきたいと思っていますの。そのためには手に職がある方がいいでしょう?そして、衣食住はとっても大切なことだわ。だから、朝から料理長にお願いをして朝食を作る手伝いをさせていただいていましたの」
「おや、一人で立派にだなんて、君みたいなかわいらしいお嬢様なら引く手あまたなんじゃないのかなぁ」
「ご冗談を」
「じゃぁ、シリル殿下は?」
「それこそ、全力でお断りさせていただきます」
「おやまぁ」
殿下も嫌われたものだ。
と、カラカラとレベッカ様は笑った。
「そういうレベッカ様はどうして騎士になられたのですか?レベッカ様こそ引く手あまたなのではありませんか?」
今は騎士様の正装をされていて、一瞬男性のように見えるけど、顔立ちは整っているし、すらりとした体系は、きっと、どんなドレスでも似合うのではなかろうか。それなのに騎士をしているなんて、不思議です・・・・・・。
「あぁ、私の場合は男児が長く生まれなかったんだよ」
「――――え?」
「我が家は、オルコット家は代々騎士の家系でね、私をはじめとして生まれてきたのは女児ばかりだったんだよ」
「まぁ・・・・・・」
「それで、直系の男児がいないから、というわけで、第一子である私が騎士として育てられた、というわけだよ」
「それは――――――ご苦労をされたのですね・・・・・・」
「もっとも、お嬢様と同じ年代の弟がいるけどね」
「え?」
「お嬢様は今は6歳ですよね」
「えぇ、そうですが」
「弟はいま、9つになったばかりなんですよ。自慢ではないですが、とても優しい子なのできっとお嬢様ともよいご友人になれると思いますよ」
今度連れてきますね。
なんて、朗らかに次回訪問をする約束を取り付けてくるレベッカ様。しかもだ、部屋の隅に控えていたリズにこちらの予定を聞き、後で正式に連絡をするよ、とまで言われた。
これは、逃げるっていう選択肢はなさそうだな。
まぁ、いいか。
オルコットっていう名前はゲームの中では聞いたことないし。
危険度的には大したことないでしょ。
にしても、騎士かぁ・・・・・・王城勤めの騎士なんてならなくってもいいけど、お父様みたいな街を守るための騎士っていいかも。
でも、生まれてこのかた何の運動もしたこともない私ではやはり無理があるかしら。
なんて思いながら自分の二の腕をふにふにと触っていると、レベッカ様がくすくすと笑い始めた。
なぜ笑われているのだろうか、と首を傾げれば、レベッカ様は「失礼」といい、コホンと一つ咳払いをした。
「お嬢様は騎士という職業にご興味がおありのようでしたので」
「あー・・・・・・はい、そう、ですね・・・・・・幼いころから鍛えられているレベッカ様がお聞きになったら憤慨ものかもしれませんが、騎士という職業も選択肢の一つにできないだろうかと思いまして。お父様にお願いして、お暇な時間に稽古をつけてもらえばいいのかしら。いや、それよりも先に体力をつけるところからですよね。なんにしたって、体力はあるに越したことはありませんし・・・・・・そうなると、手っ取り早くできることといえば、走り込みかしら」
と、レベッカ様の前で、腕を組み、顎に手を当て真剣に考え始めれば、さらに笑われました。
「お嬢様は、剣など握らずともよいと思いますよ?」
「やはり、私に騎士は無謀でしょうか?」
「いえ、そうではなく、あなたならば、剣を握らずとも十分戦う術を持っているのではありませんか、ということなのですが―――――と、もしや、閣下やキャロライン様からお聞きになっていらっしゃらないのですか?」
と、今度はレベッカ様が首を傾げられました。
はて、何のことだろう?
私も同じように首を傾げれば、「僭越ながら」とリズが口をはさんだ。
「旦那様も奥様も、未だメアリーアン様には全てのことを公にはされておられません」
「おや、それは余計なことを言ったかな」
「そんなことはないですよ、レベッカ様」
カチャリとサンルームの扉が開き、満面の笑みで入ってきたお母様がレベッカ様の方を見てそうおっしゃられた。
「メアリーアンはとても聡明な子ですからね。そろそろお話をしてもいいころ合いだとは思っていたところなのよ」
ニコラスともそろそろころあいだろうと話していたところなのよ。と微笑みながらおっしゃられ、そして、お母様は手にしていた真っ白い封筒をレベッカ様へと差し出した。
「お待たせして申し訳ありません、やっとお返事を書き終わりましたので、ティナリアへと届けてくださいませんか?」
「たいして待ってはいませんよ。それに、ティナリア様からは、きっと、お返事をと言って待たされると思うと言われてきましたので、向こうに戻っても叱責をもらうことはないですよ」
恭しくお母様の前でお辞儀をし、封筒を受け取ると、レベッカ様は私の方を見て、そうして、優しく私の頭をなでてくださいました。
「それでは、かわいらしいお嬢様、次にお会いになれる時を楽しみにしているよ」
「はい、私も楽しみにお待ちしております」
すっと立ち上がり、礼をしながら言えば、レベッカ様は「うぅん」と甘い声を出され、
「最後に一つお願いをいいかな?」
「なんでしょう?」
きょとんと首を傾げ、レベッカ様を見上げれば、レベッカ様はしゃがみ込み、そして、私の方をまっすぐとみて、
「かわいらしいメアリーアン様、ぎゅぅっと抱きしめてもいいかしら?」
「へ?」
「まぁ、レベッカ様ったら」
「うちの家系はみんな体力系でね、こんなにかわいらしいお嬢様なんて縁がなかったの」
「へ・・・・・・?」
「むしろ、このまま連れて帰って妹にしちゃいたいぐらいだわ。あ、ねぇ、メアリーアン様、うちの弟はいかが?」
「はい?」
「見た目はお世辞抜きにしてもいいわよ」
「は?」
「まぁ、レベッカ様ったら、話が速すぎるのではなくって?」
「キャロライン様、シリル殿下でさえ婚約の話が出ておられるのですよ?殿下よりも一つ上のイアンに婚約者がいたっていいじゃありませんか。そして、あの子の婚約者ということは私の義理の妹になるのですよ?どうせならかわいらしい子がいいわ。ね、いいでしょ?」
「そういわれましても、メアリーは好きな方と結婚したいと言っているの」
「確かにそうですよね。てことは、やはり、是が非でもうちの弟を気に入ってもらわなければならないってことですね。リズ、近いうちに我が家のお茶会にメアリーアン様をご招待することにしたから、予定に入れといてね!」
「かしこまりました。オルコット家でしたら、旦那様も断られることはないでしょう」
「ていうか、メアリーアン様に変なのが寄ってこないうちにさっさと固めなきゃね」
「まぁ、レベッカ様ったら、気がお早いことで」
ほほほほほ、なんて、お母様和やかに笑ってますけど、ちょっとまって、なんで、当人ほったらかしで回りが地盤固めていってんの!?
え、ちょ、リズ、そこは止めようよ。ていうか、なんで、レベッカ様のおうちならOKなの!?
ほんと、我が家の事情が分からない。
殿下からの誘いはあっさりと断るのに、レベッカ様のおうちならOKとか・・・・・・どこに何の線引きがあるのか、ここはしっかりとお父様やお母様に問い詰めるべきってことですね!!
「それでは、メアリーアン様、近いうちにお招きいたしますので」
あ、決定事項なんですね。
「じゃぁ、メアリーにかわいらしいドレスを仕立てなくっちゃ」
「あ、必要ありませんよ、お母様」
「なんで?」
「なんで、って・・・・・・だって、すぐに大きくなってしまうでしょ?一度や二度着るだけでもう着れなくなってしまうのよ、もったいないじゃない」
「もったいないって・・・・・・」
せっかく初めてのお呼ばれのお茶会なのよ?作りましょ?しかも、将来の旦那様になるかもしれない方なのよ?
なんて、必死に食い下がるお母様に、私は盛大にため息をついた。
「せめて、ワンピースです」
「えー」
「ワンピース以外、いやです。ちょっとしたお出かけに着ていけるような、あまり華美でないものでお願いします」
「―――――そうね、そうよね!!」
あ、いやな予感が・・・・・・。
「かわいらしいワンピースなら、今後、イアン様とデートの時にも着れますものね!!」
違う、そこじゃない!!!ていうか、レベッカ様の弟様はイアン様とおっしゃるのね・・・・・・。
「―――――――」
「私もかわいらしい妹とデートしたいなぁ」
と、なぜかここで、すでに妹確定のレベッカ様まで参戦してくるし・・・・・・。
「あら、レベッカ様でしたら、いつでもメアリーを貸出しますよ」
あっさりと、お母様から貸し出し許可おりたし。
「えっと、お母様・・・・・・さすがにお父様に何のお話も通さずに婚約者やお茶会やデートの予定なんて入れたら、怒られますよ??」
「あら、レベッカ様がお相手なら大丈夫よ」
「いえ、さっき、確かにレベッカ様の弟様のお名前も入っていましたよね」
「あら、平気よ。イアン様なら」
「どこをどうとったら平気になるのかお聞きしてもよろしいですか!?」
「だって、オルコット家の方々は我が家の事情を理解していらっしゃるもの」
「だから、我が家の事情って、ていうか、私はローズ家を出て、自分の力で生きていくんです!!」
「だめよ」
「なぜですか!?」
「だって、メアリーにすぐに会えないじゃない」
「貴族の家にお嫁に行ってもたいして変わりませんよね!?」
「イアン様のところに嫁いだら、あなたの安全は確実に保証されるわ」
「確かに、女が一人で民に交じり生きていくことは危険がつきものですが」
「あなたはそれだけじゃないのよ。はぁ、そういうことも含めて、きちんと説明をしないといけないわね・・・・・・」
もう、本当にメアリーちゃんったら頑固なんだからぁ。
なんて、若干頬を膨らせて怒っているお母様。
お母様が幼く見えるのはキノセイ・・・・・・では、ありませんね・・・・・・。
「あぁ、リズ。お茶会は2週間後の休息日に決まったから」
私はそろそろ行くよ、と言い、リズへとそんな爆弾発言をして、レベッカ様はサンルームを退室していかれました。
「え、は?2週間後!?」
あまりの急展開に、頭がついていけず、しばらくサンルームで呆けてしまったのは黙っておこう。
レベッカ様とお母様が大暴走・・・・・・
一人でたくましく生きていく予定だったのになぁ・・・・・・byめありーあん




