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03.翌朝のヒロインは。。。

 翌日の目覚めはすっきりとしていた。

 メアリーアンはいつもよりも少し早く目が覚めていた。

 天蓋付きではないにしろ、前世では考えられないぐらいにフカフカのベッドは、今でもたまに寝心地が悪くなるぐらいだったが、こうして早く目が覚めることはあまりなかった。

 しかし、今日、いつもよりも早く目が覚めたのはほかでもない、昨日のシリル殿下への発言、そして、母への啖呵を切ったことに対してかなりすっきりとしたから、ということだろう。

 そう考えると、今までどれだけあの殿下の突然の訪問にストレスを感じていたのかがよくわかるわね。

 なんて、ベッドの上で胡坐をかき、腕を組んで一人でうなずくと、おっと、と思い、胡坐をほどき、組んでいた腕もほどいて、薄いピンク色のネグリキェーの裾をただした。

 もう少ししたらメイドのアンが私を起こしに来るな。と思いつつ、メアリーアンはゆっくりとベッドから降り、壁際に置かれてある衣装ダンスから比較的動きやすそうなワンピースを手に取りささっと着替えた。

 今までならばアンが起きてくるまでベッドの中でおとなしくしていて、アンが用意してくれた服を、アンの手を借りてきていたのだが、これからは自分ですべてできるようにならないといけないものね、なんて、勝手に言い訳をしてみた。

 ささっとワンピースに着替えると、ドレッサーの前で髪を梳き、産まれてから今まで、一度もばっさりと着られたことのない長い髪を器用に編み込んでいく。

 そうして長い編み込みが一つできて、ゴムでくくると私は小さく「よし」と口にした。

 何に対して、よし、なのかは置いておいて、これからのことを考えることにした。

 将来的に爵位をこれから生まれてくる弟か妹へと押し付けるとして、自分の将来のことを考えないといけないのよね。

 ひとまず、手に職がほしいところではある。お母様には自分の望む方と結婚をしたいといったが、現実的に考えて、自分と望む相手と結婚できる可能性がどれほどのものかと問われると、50%もないのではなかろうかと思うんだよねぇ。

 ほら、前世でも好きな人と結ばれるなんて、10回中1回でもうまくいけばいい方じゃない。実際、何度告白したって、芳しい返事なんてもらったことないし。だいいち、結婚をして旦那様のお給料だけで食べていけるなんて、一部の奥様のみのお話だし。専業主婦なんて、夢のまた夢のお話し。手に職を持った方が勝ち!なんていう前世の母の言葉を今更ながらに思い出すと、やはり、この世界でも手に職をもっている方が勝ちよね。という結論に至るわけである。

 結婚をして、優雅な奥様生活なんて、夢は見ません。

 結婚ができなくってもたくましく、弟妹に迷惑をかけずに生き抜くすべを見出さなければ!!

 ぐっとこぶしを握り締めると、さて、と考えるのは、どんな職業に就くべきなのだろうか、というところだ。

 この世界はどうやら現代から言えば一昔前のような、女は家で守りを固めろ、なんて言う風な考え方のような気がしないでもない。

 現に、お父様のところへとやってくる使いの方々は男性ばかりだし、って、まぁ、騎士なんて職業柄男性の方が圧倒的に多いのは仕方がないのか。と、ため息を吐き出す。

 かといって、お母様みたいに、慈善事業にっていうのは、実入りのない仕事だ。

 だれの腹が膨れるのか、っていったら、自分で生活する術のない人間の腹が膨れるだけであって、私自身の腹は一向に膨れない。強いて膨れるとすれば、自己満足、というところぐらいだろうか。

 そんなもんで腹は膨れないし、生きていけないっての。

 ていうか、ああいうことって、貴族の奥様がやるから意味があるのであって、平民になろうとしている私がやるものではないな。

 と、平民になりたいのよね、うん。

 平民かぁ・・・・・・畑を耕す?いやいや、まず、その土地がないし。じゃぁ、商売でも、っていっても、いいところが、どっかの商家でバイトがいいところだな。それで一人で食べていけるのかっていうと、うぅん、と悩むところなのは、こちらの世界の貨幣価値がいまいちわからないからと、平均賃金と、最低限生きていくのにどのぐらい必要なのかがわからないから何とも言えない。

 第一、手に職がほしいっていってるんだから、バイトで満足しちゃぁいけないでしょ。

 となると、どこかの工房にでも弟子入り?

 弟子入りするにしても何がいいんだろう。

 前世では服を作ったりするのは好きだったから、お針子?

 いやいや、こちらの世界のこの体がお針子に向いているのかっていうと、何とも言えない。

 死ぬほど不器用な体だった時なんて、目も当てられない惨劇に・・・・・・。

 とりあえず、いろいろと模索するためにも、今のうちに勉強とか、習い事っていうのはいろいろとしておくべきね。

 なんにしても、身に着けて無駄なものはないものね。

 うんうん、とドレッサーの前でうなずいていると、やっと、ドアをノックする音が聞こえた。




「どうぞ」




 短く言葉を返せば、カチャリと扉が開き、アンが頭を下げて入ってきた。




「おはようございます、お嬢様」




 しずしずとそういうアンに、「おはよう」と軽やかな声音で返事をする。

 その返事を受けて頭を上げたアンは大きく目を見開いた。




「もう身支度は済ませてしまいましたの。これからは、できるだけ自分のことは自分でするから、アンもそれに合わしてね」




 なんて、ニッコリ笑顔でいえば、「お、お嬢様!?」とわずかに声を震わせているアン。

 だが、気にしない。

 これからは自活していけるために生きていかなきゃいけないんだものね。

 そうよ、自活するためにはまず、衣食住の食を身に着けなくっちゃ!!

 そうと決まれば、行動あるのみね!

 ひょいっとドレッサーの椅子から降りると、私は放心状態のアンの横を通り抜け、足早に厨房へと向かって急いだ。












 厨房ではすでに料理長が朝食の準備を進めていた。

 スープにサラダ、焼き立てのパンにハムやベーコンが毎朝食卓に並ぶ。たまに目玉焼きやゆで卵といったちょっとした贅沢な品も並ぶが、たいてい、何もない日には代り映えのない朝食のメニューだ。




「たのもぉー!」




 意気揚々よ声高らかにそう言いながら厨房の入り口から声をかけた。

 その声を聴き、一瞬手を止めた料理長は、入り口に立っている私の姿を見て「おはようございます」とさわやかな笑みを向けてきた。




「今日はどうされましたか?」




 うん、さすがローズ家自慢の料理長さん。私の奇行にも笑顔で受け答えてくれてるわ!!

 てことで、さっそく一人でたくましく生きていく計画の一つを実行しないとね!




「あのね、私も一緒にお料理をしたいの」




 にっこりといい笑顔でそういえば、一瞬だけ料理長さんの顔が固まったような気がするが、それも本当にほんの一瞬で、いつものさわやかスマイルに戻ったかと思うと、「喜んで」と言ってくれた。

 さすが!小さな子供の突然のわがままにも対応できる素敵な料理長さん!!




「わぁい」

「それでは、まず手を洗って、それから、そうですね、お洋服が汚れてはいけませんし・・・・・・」




 私のエプロンは大きすぎますしねぇ。

 なんて、口元に手を当て悩む料理長さん。




「あ、このままでいいわよ」

「しかし」

「ちょっと汚れるぐらいだもの。汚れたら洗えばいいんでしょ?」

「それはまぁ、そうですが」

「お洗濯もできるようにならないといけないからちょうどいいわ!!さぁ、私は何をしてもいいのかしら?」




 腰に手をあげ、きっぱりはっきりとそういえば、料理長さんも困ったように笑ってから、それでは、と言って、パンの生地を成型するところを手伝ってください、と言った。




「もう生地が出来上がってしまってるのね」




 やっぱり、もっと早起きをしてくるべきだったわ。

 と言いながら、手を洗い、料理長さんと一緒にパンを丸めていく。




「それにしても、急にどうされたのですか?お料理をしたいだなんて」

「将来のために必要なのよ」

「お嬢様の将来に必要なのですか?」

「そうよ。だって、手に職がほしいのだもの」

「それはまた・・・・・・」

「将来、立派に一人で生きていかないといけないんだもの!お父様やお母様の手を煩わせたり、これから生まれてくる弟妹に迷惑をかけるわけにはいかないんだから」




 こねこねくりくりとパン生地を丸めながらそういえば、今度こそ料理長の笑顔が固まった気がした。

 が、まぁ、それは些細なことだ。

 それから、若干?フリーズしていた料理長さんを叩き起こして、パンを一緒に焼いて、サラダとスープを作るお手伝いも一緒にさせてもらった。さすがに、まだ、ベーコンを焼くところは危ないからと言ってさせてもらえなかったが、これから毎日通っていれば、いつかきっと火も使わせてくれるはず!!

 家族3人そろっての朝食の席では、給仕をしていたアンの顔が若干青かったりとか、ところどころ粉のついている髪や顔を見て、お父様とお母様が、何をしていたのかと聞いてきたから、正直に料理長さんと一緒に朝食の支度をしていたと告げた。

 あ、もちろん、お母様が頭を抱えたり、お父様があんぐりと口を大きく開けたまま呆けてしまったけどね。

 それから、お父様がお仕事に出勤するときに、今日は珍しくお迎えの方がお見えになっていた。

 お母様の隣に立ってお父様のお見送りをしようとしていたら、玄関をノックする音がして、リズが短く返事をしてから扉を開けると、とってもきれいな人が扉の向こうに立っていらした。




「おはようございます、閣下」




 紺色の騎士の服を着ている方がお父様に向って敬礼をびしっとする姿がとってもかっこよかった。

 思わず見とれていると、ふと、何かの違和感を感じた。

 だから、よぉくその方の方を観察をしてみる。

 金色に近いような茶色の髪は、くせ毛のようで、ウェーブがかかっていた。それをきゅっと頭の高いところで一つにくくっている。髪が長いなんて珍しいなぁ、なんて思いながら顔を見る。目鼻立ちも整っていて、シリル殿下なんて目じゃないぐらいにかっこいい。けど、どことなく柔らかな感じがする。

 どこに違和感を感じたのだろうか、なんて考えながら、つつーっと視線を下へとおろしていってすぐにその違和感に気付いた。

 そう、普通ならばあるはずのない胸元が、ほんのりとではあるが、ふっくらとしているのだ。

 いや、太っている、というわけではない!!だって、そのふっくらとしているところからさらに下へと行くと、見事なくびれがあるのだから!!!




「女性の方・・・・・・なのですか・・・・・・?」




 思わずこぼれ出た言葉が、静かな玄関ホールへと響いた。

 思いのほか響いた言葉に、思わず恥ずかしくなって口に手を当てたが、すでにその音は見事にその場にいた全員の耳に届いていたらしい。

 もちろん、お父様をお迎えに来られていた方の耳にもしっかりと届いていた。

 恐る恐る騎士様の方を見上げれば、私の方を見て、にっこりと笑ったかと思うと、お父様に小さく会釈をして、私の前へとやってきて、目線を合わせるためにすっと、音もなく膝をついた。

 そうして、すっと、手袋のはめられてある手で私の手を掬い上げると、




「かわいらしいお嬢様、おはようございます」




 と、きれいな声音でおっしゃいました。

 瞬間、耳まで顔が赤くなったのが自分でもわかった。




「あ、うっ・・・・・・」

「朝から、こんなにかわいらしいお嬢様にお会いできるなんて、私は果報者ですね」




 ふふっと笑うと、静かに音もなく掬い上げられていた私の手の甲に唇を寄せた。




「レベッカ・・・・・・私の娘をたぶらかすのはやめてくれないか」




 盛大なため息とともにそういったのはお父様で、目の前で膝をつき、お父様にレベッカと言われた方は、くすくすと笑っていた。




「あまりにもかわいらしかったのでつい。申し遅れました、私は、レベッカ・オルコットと申します。本日は、王城より閣下へ登城していただきたく思い参ったのですが」

「私は行かないぞー」




 すっと、立ち上がり、お父様の方を見ながらそういうレベッカ。しかし、彼女が言い終わらないうちに、お父様はあっさりとそう返した。




「そうおっしゃると思いました・・・・・・」

「第一、私が行かなければならないような案件は今のところないはずだが」

「おっしゃる通りです。では、もう一つの使いを終わらせるとしますか」

「もう一つの使いですか?」




 端から断られると思っていたのだろう。あっさりと引き下がったレベッカは肩を小さくすくめそういうと、私の方を見下ろした。




「王城より、小さなお嬢様へとお茶会のお誘いが来ていますよ」

「断る!」




 丁重にお断りの言葉を述べようと思うよりも先にお父様が一刀両断してしまいました。




「―――――閣下」

「お断りだ」

「閣下」

「本来、向こうはこちらに不干渉のはずだろうが。うちのかわいいメアリーアンに手を出そうなどと、万死に値する行為だぞ!!」

「お父様、相手は王族ですよ」

「関係ないもーん」

「もーんって・・・・・・」

「とにかく、行かせんぞ!!どうしてもというなら、国から出て行っちゃうぞ」

「それ、脅しになるんですか?」

「メアリー、ちょっと、おとなしくしていましょうか」




 お父様とのやり取りを、頭を抱えて聞いていたお母様が静かにそういった。




「はい・・・・・・」

「レベッカ様、わざわざお越しいただいて申し訳ありませんが、主人もこう申していますし、第一、娘はシリル殿下とは仲を深めたいとはこれっぽちも思ってはいないようなので、お引き取りいただけませんか」




 まって、お母様。これっぽちもって、いや、確かに、親交を深めたいとは、これっぽっちも思ってませんよ?髪の毛一本、爪の先ほども思ってないし、はっきり言っちゃえば、フラグ立てたくないんで、あっちに行ってくれませんか、っていうレベルですけれども、それ、お城からお使いでやってきたお方へと告げていいのですか!?

 ちょっと、うちの両親、王族に対してひどくないですか!?

 いや、私も含めてひどいのか・・・・・・いや、でも、自分の平和と安全のためにはここですっぱりきっぱり縁を切って・・・・・・。




「ですよね。そんな返事が来るとは思っていました」




 と、レベッカ様もおっしゃいましたとさ!!!

 なんなんですか、その認識も・・・・・・。




「まぁ、シリル殿下が一人で暴走をしているという雰囲気でしたし、ティナリア様からは、キャロライン様へと手紙を預かってきましたので、後で目を通していただければ幸いです」

「まぁ、ティナリアから?すぐに読むわ。読んで返事を書くから待っていてちょうだい。リズ、レベッカ様をサンルームへとお通しして、アン、すぐにお茶をお出しして差し上げて。あぁ、あなた、早くいかないと遅刻しますわよ」




 レベッカ様から受け取った封筒を嬉しそうに抱えたかと思うと、リズとアンに指示を出し、ついでと言わんばかりにお父様をさっさと追い出し、早々に自室の方へと帰っていったお母様。




「――――――えっと、お父様、今日もお仕事頑張ってくださいね?」




 がっくりと肩を落としているお父様へとそういえば、お父様は私をぎゅっと抱きしめ、それから、玄関の扉をくぐり出勤されていきました。




「――――――それでは、レベッカ様、サンルームで少々お待ちになっていただいてもよろしいですか」




 そういうリズに、レベッカ様は笑いながらうなずき、そして、私へと手を差し伸べてきた。




「一人寂しく待つのは嫌なのでね、お付き合い願いできますか?」

「よろこんで」




 差し伸べられた手に自らの手を重ねると、レベッカ様とともに、私もサンルームへと向かった。

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