15.お父様のターン。王太子のHPは瀕死状態です。
それから、あわただしく身支度を整えていると、やってきた。時間など気にせずにやってきた。
現世だったら、とりあえず出直してこいっていう時間帯にもかかわらず、あの王太子殿下はやってきた。
玄関ホールで頭を下げ、出迎えをすると、殿下はまぁ、いつも通り、朝早くにもかかわらず、いつものサンドイッチを手土産に持っていた。
それ、まさかとは思いますが、開店前のお店に突撃して、身分振りかざして買ってきたのではないでしょうねぇ・・・・・・。
かなり心配になるその手土産をとりあえず受け取り、礼を述べ、リズへと渡すと、私は彼の後ろに控えていた護衛へと目を向けた。
もちろん、いつものように彼についている護衛は成人している騎士が二人なのだが、今日はその二人だけではなかった。
「朝早くからご苦労様です」
朝の挨拶を述べ、護衛の騎士の二人へとそう言い、それから、わずかに視線を落としてもう一人へと視線を向け、
「おはようございます、イアン様」
「おはよう、メアリー」
お茶会の時と同様に、彼へとそう挨拶をすれば、イアン様は極上の笑みを向け、私へと挨拶を返してきた。
「こんなに早く、メアリーにまたお目にかかることができてうれしく思います」
胸に手を当て、小さく頭を下げ言うイアン様に、私はふふ、と笑った。
「本当に、そうですね」
次の約束は、レベッカ様たちとの買い物の時だろうと思っていたのに、こんなに早く再開するとは思わなかった。
「昨日話していたことですが、姉上の予定が少々あきそうにないので、少しお待たせすることになりそうです」
そう、申し訳なさそうに言うイアンに、「まぁ」と口元に手を当て声をもらす。
「レベッカ様もお忙しいのですね・・・・・・私はいつでもかまいませんので、レベッカ様方のご都合のいい時で大丈夫ですよ」
「そう言っていただけると、姉上も喜びます。それと、これもあずかってきました」
そういい、イアン様はジャケットの内ポケットから白い封筒を取り出し、差し出してきた。
「―――――――――後で、ゆっくり見させていただきます」
なんとなく封筒の中身がわかったのでそういえば、イアン様は「わかりました」と言った。
「――――――メアリーアン嬢は、イアンと知り合いなのですか?」
静かに、だが、何とも言えない表情をし、シリル殿下が私へと訊いてくる。
私はシリル殿下のほうを見、それから、イアン様のほうを見る。
さて、どう返事を返そうか。
そう悩んでいると、カツカツとかかとを鳴らし、お父様が階下へと降りてこられた。
あぁ、もう、出勤される時間なのか。
いってらっしゃいませ、と言うとした私の言葉を払いのけるようにして、お父様は口を開いた。
「彼は、メアリーの婚約者だよ」
にっこりとほほ笑みながらそう言い放ったお父様。
「え?」
「なっ!?」
「おや、陛下から聞いていませんでしたか?殿下」
――――――あー・・・・・・お父様、すっごく悪い顔してる・・・・・・。
「今、婚約の証を作らせているところでね、完成次第、正式に発表するつもりでいるので、内密にお願いいたします」
そう言いながら、恭しく頭を垂らしているが、お父様、口元が笑ってます。でも、目がすっごく鋭いです。怖いですよ・・・・・・。
とりあえず、ここは、否定をするところではないな。
何をどう転んだって、いけいけ押せ押せな殿下には傾くことはないし。早々にあきらめてもらうにはちょうどいいタイミングだろうな。
さて、と、前回同様完璧にフリーズしてしまったシリル殿下をどうするべきかしら。
こまったわぁと、頬に手を当てながら、意地悪くにこにこと笑っているお父様のほうを見上げる。
「で、お父様、完璧に固まっていらっしゃいますけど、どうなさいますの?さすがにこのままというわけにはいかないでしょう?」
玄関先で、解凍されられるまで放置は、さすがに邪魔だし、できればさっさと、お引き取り願いたいのです。
と、口には出さずに思いながら答えれば、お父様はそんな私の思いをわかっているのかクツクツと笑い、
「さっさと連れ帰ってもらえ。こんなに朝早くから他人の家に訪ねてくるなど、迷惑極まりないしな。ルイが大人しかったからいいものを」
ふん、と鼻息荒く言うと、お父様は殿下についてきていらした騎士二人のほうを見た。
視線を向けられた騎士二人は、きりっと敬礼をした。
「おはようございます、閣下!」
「朝早くから申し訳ありませんっ!!」
二人そろってきりっとしたかっこいい声で言った。
「――――――――」
「ん、御苦労さん。悪いが、これを城まで連れ帰ってくれ。後、公爵にガーディナル招集を伝えておけ」
「はっ!!」
「日時のほうはっ!!」
敬礼をしたまま返事をする二人の騎士に、私は、もしかして、という感情がふつふつとわいてきた。が、とりあえず、ここは静かに見ておくだけにしておこう。後で、お母様にでも訊けばいいことだしね・・・・・・。
「本日の夕刻でいいだろ。場所は悪いが、キャシーがルイから離れることができないし、さすがに産後まだ間もないから、ローズ家で」
「了解しましたっ!!」
「メンバーのほうはっ」
「ちょうどいい機会だ。子供たちも含めて、で」
「それではそのように伝えておきます」
「それでは、失礼いたしますっ」
きりきりとお返事をし、あいっかわらずフリーズ状態のシリル殿下を担ぐと、同じようにぽかんとしていたイアン様に声をかけ、彼らは立ち去って行った。
「――――――――――――」
「さ、私も行ってくるかな」
そういいながら、いつものようにやさしく私の頭をなで、「行ってくるよ」というお父様。
いつものように、深々と頭を下げ、お父様を見送るリズ。
パタンと玄関の扉が閉められて、初めて、私はお父様が出勤していったことに気付き、行ってらっしゃい、ということをすっかり忘れていたことに気付いたのだった。




