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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

装甲騎士 ダイナガン

作者: 間口刃

「 1日目。暗闇がある中、神は光を作り、昼と夜が出来ました!」


 たどたどしい声だが、少女はハツラツとした声を出しながら一冊の絵本を読んでいた。


「2日目。神は空(天)をつくりました!」

「3日目。神は大地を作り、海が生まれ、地に植物をはえさせました!」


 厚紙をめくる音だけが、耳に焼き付いていく。

 ここが雲の上であるというのに。


「4日目。神は太陽と月と星をつくりました」

「5日目。神は魚と鳥をつくりました」

「6日目。神は獣と家畜をつくり、神に似せた人をつくりました」


 一拍の間をおくと、少女は深呼吸をして。


「7日目。神は自らの偽物を滅ぼすことにしました!!」


 顔を歪ませる程の笑顔で、彼女はそう言った。



 サイレンが鳴り響き、甲板の上を歩く足跡が大人達を余計に慌ただしく動かしていた。


 そんな鉄のジャングルのような基地の中に、明らかに不釣り合いな背丈の子供がいる。


 少女の髪は生気がないような白さと、海底のような青い瞳をしていた。


 そして。


 凶々しく脈打つ人の形をした鋼の塊に怯えることなく、今まさに乗り込もうとしている。


「草太郎。そんな悲しそうな顔しないで」


 この年代の少女が決して見せることがないような仕草で、大人を宥めるのだ。

 異様とも言える光景に、草太郎は表情を暗くする。


「シャーレは慣れてるから大丈夫だよ。それに痛いって言ったら、喉の奥を焼かれるから」


 正気のない眼で、必死に笑顔を作る。

 だが、草太郎は奥歯を噛みしめることしかできなかった。


「ってめぇ、邪魔なんだよ! 代用品に感情移入してんじゃねーよ」


 三白眼の男が、少年の横腹を左足で蹴り上げた。

 少年は疼くまっていて、歯が抜けたのか口元から血が溢れていた。


 心配する少女の繊細な髪を汚らしいものを扱うかのように引っ張り上げると、うなじにある接続機器の小さな穴に大きな端子を強引にぶち込んだ。


 痛みに耐えようと必死に堪えていたが、足元が小刻みに震えていて小さな声を漏らすのであった。


「貴様、鎮痛剤を打たずに接続するなと何回言えばわかるんだ」

「先輩、何もしないで入れた方が感度が上がるんすよ? 先輩も試してみます?」


 一回りも年上の女性上官が場を制しに入る。

 しかし。男は悪びれる様子もなく、ヘラヘラとした態度で話し始めた。


「それともなんすか。神徒と同じデルタ因子が入った穢れもんを人と思えっていうんですか? このバカと同じでよ」


 草太郎の顔を何度も踏みつける。

 それでも草太郎は剥き出しの感情を晒すことなく、ただ黙っていた。


 自分が反抗すれば、矛先がシャーレに行くことを恐れて。


「わかった。だが、敵はもうすぐ浜辺から上陸してくる。お前も被害を広げたくはないだろう」

「あぁ。じゃなかったら、こんなゴミガキと一緒にオレのイナクトに乗ってませんよ。先輩、舐めてんですか?」


 ガンを飛ばしながら、男はコクピットに乗った。


「悪いな、上官として謝罪する。だが、草太郎。貴様も深入りするな。私はお前まで失いたくはないからな」


 上官もイナクトと呼ばれていた鋼の機械人形に乗り込んでいった。



湾岸からは一つ目の巨人が地響きを鳴らしながら、少しずつ上陸しようとしていた。


ソレは流線的なシルエットをしているが、貴金属特有の光沢を放っている。


色の種類としては二体とも灰色をした通常型であったが、真ん中の一体だけは宝石のサファイアを彷彿とさせる色合いであった。


「新種だ。気をつけてかかれ」

「アイツを倒せば新作機に俺が考えた名前つけてもいいんすよね?」

「あぁ、倒せたら好きに呼べばいい」

「じゃあ、先輩は雑魚の相手お願いしますね。オレが新種倒して来るんで」


所々から光沢を放つ鋼の塊は人の動きを短略化したような動きをして、単騎で先に進んでしまった。


「待て!! どんな奴かもわからんのだぞ。二人がかりで相手をしろ」

「なんすか、先輩。まさか、男一人じゃ満足できなかったりするんです?」

「バカなことを言うな。貴様はどうしてそんなにお下劣なんだ。もういい、私が二体倒したらそちらに向かう」


 先輩と呼ばれていた女が乗っているイナクトは。

 身体を伸縮させるように曲げると、跳躍を致して数キロ先にある対象に向けて、巨大な斧を振り落とす。


 だが、その動きが単調過ぎたのか。

 本来動きが遅く近接攻撃しか通らない通常型にさえ回避されてしまった。


「うわっ、先輩だせぇーー。まさか、処女だったりするんですか?」

「ここは戦場だぞ。軽愚痴を叩くな!」


 軽愚痴を叩いた男は周囲の樹木が爆風で倒れる程の速いスピードで新種の前に到着した。

 そして、持っていた二つの短剣に遠心力を加えて交互に振りかざす。


 片方こそ交わされるも当たった手応えはあった。

 しかし。敵が怯んだ様子は殆どなく、反撃を開始する。


 敵は、自らの身体を一部を鞭に変えて振り落とす。


 振り下ろされた鋭利な鞭は、空間を切り裂くようにして対象の片腕を吹き飛ばした。


「うるせーな、ガキが。片腕もがれたくらいで騒いでんじゃねーよ」


 少女に対し、少年は罵声を浴びせる。


「今、助けに入る!! お前は退がれ」

「嫌っすよ。ここで食い止めなきゃ妹が……」

「仕方ない。私が加勢に入る」


 上官は二体からの攻撃を相打ちにすることによって、救援に向かうことができた。


「今のスゲー。先輩やるっすね!」

「なに、私は上官だからな。これぐらいはできるさ」

「なら、俺もやってやるっすよ」

「バカ、戻ってこい!!」


 今度は機転を利かして、先ほど攻撃した部分を背後から襲うことにした。

 だが、禿げた装甲の分だけ軽くなったのか。

 容易くいなされてしまった。


「まっ、マジかよ……」


 態勢がよろけてしまった所に、先ほどの鞭を狙い撃つようにして突き出した。


 瞬間。通信にはノイズが入り、口からは濁流のように血を流していた。


「先輩、後は任せましたよ」


 新種に組み付いたことにより、上官の斧は呆気なく敵を両断し、コアを破壊されたことによって、敵は沈黙した。



「君が久坂部草太郎くんかな? いや、ダイナガンのパイロットに自ら志願した代用品と言った方が正しいのかな」


 不適な笑みを浮かべる女性が草太郎に語りかける。


「いやー、驚いたよ。いくら旧型と違って機体性能が向上するからって、自ら代用品に志願するなんて、よっぽどのアホかと思ってたのに、メカニックの君がねー。何、彼女に惚れてんの? もしかして、幼女しか愛せないとか?」


 同級生の恋路を聞くように、目を爛々とさせている。


「ティーカップぐらいの重さしか持てない私から言うのもアレだけど、君は自分が変だとは思わないのかい? まぁ、天涯孤独。もう喋れない君に聞くのも酷かもしれないけどね」


 だが、草加部を見るなりーーーー。


「よくそんな目ができるね。まるで、剥き出しの獣みたいだ。大丈夫。記憶を失っているけど、シャーレ自体は無事だよ。あっちの部屋に……」


 草太郎と呼ばれた男は一心不乱に行き先に走っていった。


「全く。どいつもこいつも、どうして最後まで話を聞かないのかな」


 言い終え、彼女はティーカップの紅茶を嗜んでいた。



 自動ドアにカードをかざすと、扉は音もなく開いた。


「嫌だ、来ないで……。痛いのは嫌だー!!」


 彼を見るなり、子供のように少女は騒ぎ立て、フォークの先を草太郎に向けていた。


 だが、草太郎は臆することなくーー彼女を抱きしめた。

 フォークの先端が頬を掠めたというのに。


「え…………。どうして泣いてるの?」


 傷つけた少女は、ただただ当惑するのであった。

 かつて、自分を心から心配していた男に対して。

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